第七話 出発
===ガルト視点===
(はぁー。何だってこんな事になっちまったんだ)
俺はカエトに聞こえないようにため息をはいた。
何で俺がガキのおもりなんかをしなきゃいけないんだ!。
しかも、うまく言いくるめられて、テントから食事の準備まで全部“押しつけられて”もうクタクタだ!。
俺はテントの中をのぞき込み、カエトの様子を見た。
カエトは相変わらずぐっすり眠っている。
「いい気なもんだぜ全く!、こっちは魔物が襲ってこないか見張ってるってのに!」
俺はそう言って自分の太ももを軽く殴りつけた。
俺は今、テントの外で胡座をかいて座っている。
もちろん、剣もしっかり持ってだ。
此処は、通称“魔物の森”って言われてるくらい魔物が出やすい場所だからな。
ここがいくら“比較的”安全だからって気は抜けない。
俺は、あたりにしっかり注意しながら剣を抜き、月の光にかざして剣を見た。
「そろそろ買い換え時だな。刃こぼれしてやがる。」
そう言って俺は道具袋から水筒と砥石を取り出し剣を研ぎ始めた。
シャリンッ シャリンッ シャリンッ
シャリンッ シャリンッ シャリンッ
シャリンッ ガサガサッ シャリンッ
シャリンッ シャリッ
ん?今物音がしたような・・・・。
俺は剣に付いた水滴を払い、あたりを警戒した。
ガサガサッ、ガサガサッガサガサッ、ガサッ
(気配からすると・・・3、4・・いや、5匹!)
あたりに張り詰めた空気が漂う、俺はテントから離れこの広場の真ん中に移動した。
そして、少し息を吸い叫んだ。
「かかってこい!!魔物ども!!」
俺がそう言った瞬間、前方の茂みから二匹、左右から一匹ずつ“蛇オオカミ”が現れた。
「スネークウルフか、上等!!」
俺はまず、前方から来た二匹を無視して右から来た一匹にねらいをつけ、疾風のごとく斬りかかった。
しかし、スネークウルフは体をくねらせ、俺の攻撃をかわした。
「チッ!さすがにやるな!。」
すると、今度は前方から来た二匹が俺の背後から飛びついてきた。
俺はすぐに右に飛び退いて、二匹が地面に着地したのを見計らって、突進し剣を横薙ぎに振り切った。
すると、奥にいた奴はかろうじてよけたが手前に居た奴は見事に真っ二つになって、地面に落ちた。
そして、左から来ていたスネークウルフが「隙有り!」と言わんばかりの勢いで俺の右肩に噛み付こうとした。
グシャッ!
嫌な音がした。
「カッ、ガッ、(ピクピク)」
スネークウルフは、見事に大口をあけたまま串刺しになっている。
なぜ、こうなったかというと。
俺はとっさに剣を持ち替えて、そのまま剣を後ろに突き出すように構えたからだ。
危なかった、あとちょっと剣を出すのが遅れていたら、噛み付かれていただろう。
俺はそのまま三日月を描くように剣を後ろから目の前に振りきって、スネークウルフを真っ二つにした。
「あと・・・三匹」
俺は、ゆっくりと立ち上がりながら残ったスネークウルフたちをにらみつけた。
すると、スネークウルフたちは、一瞬ひるんで後ずさったが、すぐに低い唸り声を上げながらジリジリとガルトの周りを囲んだ。
「逃げないか、馬鹿な奴らだ」
ガルトは剣を構え直し、グルグル回りながら隙を窺っている。
いくら待っても隙なんかみせねーよ。
俺はそう心の中で魔物を罵った。
そして、そのまましばらく待っていたら、俺の後ろに来た奴がしびれを切らして飛びかかってきた。
それと同時に、後の二匹も俺に飛びかかってきた。
この時を待っていた。
俺は、剣を一度鞘にしまって、低い体制を保っていつでも剣が抜ける状態になった。
まだだ。
どんどん距離は縮まってくる。
すでに、前足が俺の体に届きそうなほど近づいていた。
まだ、あと少し。
キシャァァアオォォォォン!
スネークウルフが、蛇とオオカミの鳴き声を混ぜたような勝利の雄叫びを上げ、俺の体に噛み付こうとした。
「今だぁっ!!」
シュバッ!
そんな音とともにスネークウルフたちは地面に着地した。
スネークウルフたちは、その場から消えた俺の姿を探して、キョロキョロしている。
シャキン!
その音と同時にスネークウルフたちは血を吹き出してその場に崩れ落ちた。
「“居合い”成功!いや~すっきりした~。」
そう、今俺がやったのは“居合い”と言って、目にもとまらぬ早さで敵を斬りつける技だ。
別に剣をいちいち鞘にしまう必要はないんだが、こっちの方が格好いいから良いだろう。
ちなみに、説明していなかったが、“スネークウルフ”は見た目はただのオオカミなのだが、体をクネクネと蛇の様に動かす事ができるのでそう呼ばれるようになったらしい。
「って、俺誰に説明してんだよ・・・。」
俺は一人ノリツッコミをして、とても虚しい気持ちになりながら、スネークウルフの死骸から牙や毛皮などの使えそうな部分をはぎ取り、食べられる部位の肉を採り終え、後は魔法で燃やした。
明日はうまい飯にありつけそうだ。
俺がそんなことを一人で考えて、少しニヤニヤしてしまったが、気を取り直して、魔物の死骸をあさった。
そして、全ての死骸を燃や終え、一段落付いた。
「さってと、採取も終わったし、体洗って寝るかな。」
俺は、そう思ってくるときに見かけた湖に行こうと思って、テントの横を通り過ぎ、森の中に入ろうとした。
その瞬間、
いぎゃああぁぁぁぁああ!
テントの中から凄まじい叫び声が聞こえた!。
俺はテントに目をやった。
すると、テントの壁には派手に血しぶきが飛んでいた。
俺は慌ててテントの中に入って、カエトが無事か確認した。
「カエト!!、ダイジョブッ・・・なんだこりゃ?!。」
そこにある景色に俺は息を呑んだ。
さっき叫び声を上げたカエトはグッスリ眠っているが、寝袋の右足があると思われる部分から大量の血が出ていた。
「カエト!!」
俺はすぐさまカエトの元に駆け寄り、カエトの真横に移動した。
「おいカエト!!、しっかりしろ!!、寝てる場合じゃねーぞ!、起きろ!!。」
俺は何とかカエトを起こそうと体を揺すって必死で呼びかけた。
しかし、カエトは起きるどころか微動だにしない。
「クソ!!、傷みるぞッ!」
俺はカエトの寝袋を引き裂き、血の出所を探した。
「ッ!!、こりゃヒデェ・・・。」
カエトの足には、まるで何かで打ち抜かれた様な大きな穴が空いていた。
そこから、まるで泉の様な勢いで血が噴き出している。
「ヤベェ!!早く止血しねーと」
俺は《サーチライト》でテントの中を明るくし、道具箱から包帯を取り出し、カエトの足をグルグル巻きにして、血が出ない様にした。
しかし、出血は一向に収まる事はなかった。
「クソッ!!仕方ねえ!、俺回復魔法なれてねーんだが・・・」
俺はカエトの傷口に手をかざし、そして呪文を唱え始めた。
クソッ!、こんな事なら練習しとかよかった・・・。
そして、呪文を唱え終え、魔法名を叫んだ。
「うまくいってくれよっ!《|治癒を促す風!(ヒールウィンド!)》」
俺がそう叫んだ瞬間、一瞬静まりかえったが、やがてカエト足に風が吹き始め、傷に覆い被さった。
よし!うまくいった。
後はこいつの生命力に賭けるしかねぇ!。
俺は安心して息を一つ吐いて、回復を待った。
しかし、いくら時間が経っても傷が塞がる気配がない。
それどころか、時間が経つにつれ血がどんどん出てきて、むしろ状況が悪化していく。
「どうなってんだっ?!、傷が治らない!。」
そして、俺のかけた《ヒールウィンド》も効力が切れ、消えてしまった。
『クソ!どうなってやがる!、・・・何で治らねぇ!。』
俺はもう一度同じ魔法を掛けてみたが、さっきと同じで、何も起きないまま効力が切れ消えてしまった。
「何でだ!何で治んねーんだよ!。」
俺は必死になりながら、回復魔法をかけ続けた。
しかし、何度魔法をかけても治らない。
俺は、カエトの顔色を見た。
カエトの顔はすでに青白くなり、生気が失われているのが見て取れた。
血を出しすぎている!、ヤベェ!、このままじゃ・・・カエトが死んじまう!。
俺はそう思った瞬間、体の芯から寒気が走った。
「クッソオオォォォ!、死なせてたまるかああぁぁぁぁぁ!」
俺はまた気合いを入れ直し、傷を治す様魔法をかけ続けた。
しかし、傷は治らない。
どんどん、時間だけが過ぎていく。
「クソ!せめて、意識が戻りゃ・・・何とかなるのに!」
俺は自分が何もできなくて、悔しくて、ただ、叫び続けた。
「おい、頼む!起きてくれ!!」
「おい!しっかりしろっ!!ックソ!何で起きねぇんだ!」
俺はその後も叫び続けた。
ただ、目を覚ましてくれるよう祈りながら。
「血が止まらねぇ・・・クソ!!何で止まんねーんだよぉ!!」
俺は回復はあきらめ、直接手で傷を押さえ、血を止めようとした。
しかし、出血は止まらず、カエトがどんどん“死”に近づいていく。
「なぁ、・・・頼むよ、・・・止まってくれぇぇ!」
俺は悲痛な叫びを上げた。
しかし、その叫びはただ静かな森に木霊するだけで、何も起きなかった。
俺は、何度も何度も血が止まるのを祈った。
祈ったら治るわけではないが、今の俺にできるのは、傷を押さえて、血が止まるのを祈る事しかなかった。
そして、俺は心の底から思った。
『頼む、神様でも何だったら悪魔でも良い!、・・・こいつを・・・助けてくれぇぇ・・・。』
俺はただ、カエトが助かる事を一心に願った。
そして、カエトから血が出る勢いが弱まってきて、顔色がどんどん白くなっていく。
『もう・・・ここまでか!。』
俺があきらめかけてた。
その時、
・・・キュィィィィイイン
突然、奇怪な音がしてカエトの体が光に包まれた。
「な、なんだ?!」
俺は二、三歩後ろに下がり、様子を見た。
すると、光はどんどん強くなり、カエトが見えなくなった。
そして、目も開けられない位の光を出した。
俺はとっさに腕を顔の前にかざして、カエトを見ようとした。
「まぶっ、カエト!、カエトぉぉぉぉぉぉ!」
俺がそう叫んで、その後しばらく視界が真っ白になり、意識が飛んだ。
*****
===カエト視点===
真っ暗だ・・・此処は・・・どこだろう?。
あれ?、僕・・・一体何してたんだっけ?。
何も見えない・・・何も聞こえない・・・何も思い出せない。
何も・・・感じない。
僕は、今何もない真っ暗な空間にいる。
だが、何も見えない。
今、宙に浮いているのか、それとも地面に足を付いて立っているのか、そんなことすら分からない。
身体の感覚がない、いや、まず身体がない。
何も・・・無い。
僕は自分でも何が言いたいのか分からなくなってきた。
何も見えず、聞こえず、感じないという、何ともいえないこの感覚。
これが“死”という物なのか?。
ということは、僕は死んだのか?。
そうか、僕は死んでしまったのか。
ああ、もしこれが死と言うものなら・・・何もないな・・・。
ただ、真っ暗な空間何も感じない無限の闇。
僕はこのまま・・・闇の中に消えゆくんだろうか・・・。
僕の意識がだんだん遠くなっていくのが分かる。
たぶん、僕はもういなくなってしまうだろう。
僕は、そのまま消えゆくのを待った。
もう・・・抗っても無駄だと・・・瞬間的に分かった。
僕がそうあきらめた。
その時
【か・・・・・・・ろ・!】
どこからか声が聞こえてきた。
何で声が聞こえるんだろう?。
もしかして、走馬燈というのだろうか?、それともただの聞き違いだろうか?。
【か・と・・・・し・よ!】
いや、聞き違いじゃない。
今度はさっきよりもはっきり聞こえた。
誰の声だろう?何処かで聞き覚えが・・・。
【・えと!し・かり・ろ!】
・・・そうだ!、ガルトだ!、ガルトの声だ!。
僕は、声の主がガルトだと分かった途端、なぜかとてもうれしくなった。
記憶もだんだんはっきりしてきた。
そうだ、僕は・・・死にかけて・・・。
【カエト!しっかりしろ!】
この瞬間僕は全て思い出した。
そうだ!、僕、早く戻らないと!。
自分の体に!!。
そう思った時、ガルトの声がした方から真っ白な光が指してきた。
そして、その光がだんだん強くなり、やがて視界が真っ白になった。
*****
【おい!しっかりしろカエト!、起きてくれ!】
ぼんやりとしたガルトの声が聞こえる。
僕は体を揺すられているのか、さっきから視線が揺れている。
僕は、目を軽くこすって起きようとした。
「いった!!!」
だが、下半身からすごい激痛が走って起きられない。
叫び声を上げた僕を見て、ガルトはパッと顔を明るくさせた。
「カエト!ああ、よかった!目を覚ましたか!よし待ってろ、今足の傷治してやっから。」
ガルトはそう言うと、僕の足に《ヒールウィンド》を掛けてくれた。
傷はみるみる治っていったが、エレーナさんの時と同じで凄まじい痛さだった。
僕は、足を曲げたり伸ばしたりしたあと立ち上がって、二,三度軽く飛び跳ねたり、屈伸をした。
どうやら、足は完全に治っているようだ。
「おい、いきなり動いたらだめだ、大人しく寝てろ。」
ガルトは、僕を心配してくれているようだ。
「大丈夫!僕はもうピンピンして―――」
僕は大丈夫だと言おうとしたら、突然フラフラして視界が真っ暗になった。
*****
「お~い、無事か~、起きてたら目ぇ覚ませ~。」
僕はそんなちょっと気の抜けたガルトの声で目が覚めた。
どうやら僕は眠っていたらしい。
「やっと起きたか・・・だから言っただろ、いきなり動くと危ねーって、ただでさえお前は血を出し過ぎてんだから。」
ガルトは、僕がこうなるのを見越していたんだろう。
僕は、ガルトの説教を聞いて反省した。
「僕・・・どの位寝てたの?」
僕がそう言うと、ガルトは立ち上がってテントの外に出た。
そして、テントの中に入ってきて僕の近くに腰を下ろして言った。
「ザッと、一時間ってとこだな。」
一時間・・・そんなに寝ていたのか・・・。
「ガルト・・・ごめん、心配掛けて・・・」
僕は申し訳ない気持ちになってガルトに謝った。
すると、ガルトは照れくさそうに手を振りながら言った。
「いいって、気にすんな!、お前はただ、早くよくなるよう努力すればいい。」
僕は、ガルトのその言葉がうれしかった。
僕はお礼を言おうとしたが、涙がポロポロと出てきた。
「おいおい、なに泣いてんだよ・・・まだどっか痛むのか?」
「――――ありがとう」
僕は何とか言葉を振り絞った。
するとガルトは、ただ黙って僕の背中を軽くポンとたたき、ニッと笑った。
そして、ガルトは立ち上がると、テントの出口に向かって行った。
「どこ行くの?」
「ちょっと朝飯作ってくるだけだ、大人しく待ってろよ。」
そう言ってガルトはテントの外に出て行った。
そして僕は、寝返りを打ちながら昨日のことを振り返った。
昨日は、ホントいろんな事があったよな~。
いきなり化け物に襲われたり、またエレーナさんに会ったり、僕が死にかけたり。
そう言えばエレーナさん、僕を体に帰す時、何か言ってた様な・・・何だったっけ?。
僕はぼんやりと、昨日のその瞬間を思いでしてみた。
確かあのとき、僕が光に包まれて、気が遠くなって気絶しそうになったとき・・・
【だ・じ・・!、あ・で・・・・ら!。】
だじあでら?
一体どういう意味だったんだろう?。
いやそもそも、気が遠くなってたから言葉がとびとびに聞こえてたから・・・。
う~ん・・・なんて言いたかったんだろう・・・エレーナさん。
僕は何度も寝返りを打ちながら、色々考えたが、ピンとくるものは一つも思い浮かばなかった。
「う~ん・・・う~~ん・・・う~~~~~ん。」
・・・そうだ!
「お~い!、朝飯作ってきたぞ~、・・・って何やってんだ?」
ガルトは両手に木製の丸皿を持って、テントの中に入ってきた。
「・・・グットタイミングだよガルト!、ちょうどガルトに聞きたいことがあったんだよ!。」
僕は、上半身だけを勢いよく起こし、ガルトに言った。
すると、ガルトは眉毛をピクピクさせながら言った。
「わかったから、大人しく寝てろ!!」
僕はいきなりガルトに怒鳴られてビックリした。
何であんなに怒っているんだろう?。
僕は訳が分からないままとにかくまた横になった。
「ったく、ほら!、朝飯食ってから何でも聞いてやるよ。」
そう言ってガルトは、手に持っていた丸皿を二つとも僕に差し出した。
片方は、肉や野菜がたくさん入ったシチューの様な物。
もう一方には、昨日食べた“イーターハンズ”と思う肉料理だった。
僕はその二つを見て、最初に思ったことが、
『こ、こんなに食べられるかな~・・・』
そう、普段だったらどうって事無い量なのだが、あまり食欲がない今、果たして食べきれるんだろうか。
僕は、ガルトの方を見るとニコニコしながら僕に言った。
「ど~だ、お前が早く元気になるよう腕によりを掛けて作ったんだぞ!、冷めないうちに食え。」
ううぅ、言えない。
残してもいい?、なんて口が裂けても言えない。
「どうした?早く食えよ」
ガルトはニカッと“悩殺満天笑顔フラッシュ”を僕に繰り出していった。
説明しよう、ガルトの“悩殺満天笑顔フラッシュ”とは、その容姿を活かし、満面の笑みをすることによって、彼の背後から光りが降り注ぐ幻覚が見え、相手に言うことを聞かせる、ガルト本人は知らない必殺技だ。
もし、コレを女性受けたら、きっとその人はその神々しさとかっこよさで気絶するだろう。
ちなみに、これは僕が今作った。
観念した僕は、備え付けてあった木製のスプーンを手に取り、シチューみたいな物の方から食べ始めた。
・・・おいしい。
僕は小声でそう言った。
「あ?・・・なんか言ったか?」
「いや、な、何も言ってないよ。」
なんて地獄耳。
ガルトは不思議そうな顔をしながら僕を見た。
僕はごまかすようにシチューを飲み続けた。
すると、突然お腹かがグゥーとなった。
ガルトはそれを聞くと「腹が喜んでるぞ!」とか言いながらゲラゲラ笑い転げた。
僕は、ちょっと恥ずかしくなって、一気にシチューを飲みきった。
そして、肉料理を食べ始めようとお皿に手を伸ばしたとき、僕はふと思った。
「そういえば、ガルトは食べないの?」
僕がそう言うと、ガルトはちょっと慌てたように言った。
「あ、ああ~、俺は・・もう先に食ったからよ、ホラ早く食っちまえ!。」
僕はガルトの不自然な態度が気になったが、とにかくご飯を食べてしまおう。
僕は残った肉料理も食べ始めた。
・・・おいしい。
さっきも同じような事を考えた様な気がするが、とにかくおいしい。
僕は肉料理をどんどん口に放り込んでいく。
僕はガルトをチラッと見た。
するとガルトは、少し辛そうな顔をして僕を眺めている。
「・・・もしかして・・・これってガルトの分だったの?」
僕がそう聞くと、ガルトはギクッと音が聞こえそうなくらいの勢いで動揺した。
「は、はぁ?、そそそ、そんなわけねーだろ!。」
ガルトは汗をダラダラ流している。
僕は、半分ほど食べきってしまった肉料理の入った丸皿を、ガルトに差し出して言った。
「ちょっとしか残ってないけど、はい!。」
ガルトは僕の差し出してる皿を見て、ゴクリッとつばを飲み込んだがプイッと顔を逸らして言った。
「いや!!お前が食え!、早く体力戻して“セガン”に行くぞ!」
そう言うとガルトは、お皿をグイッと僕に押し返し、外に出て行ってしまった。
僕は、テントの入り口を見て、お皿に視線を落とした。
「そんなに無理して気を遣わなくてもいいのに・・・」
僕は、ガルトの優しさを無駄にするのも悪いと思い、残ったご飯を食べた。
少し冷めてしまったが、とてもおいしい。
そして、肉料理を食べ終え、お皿を空っぽにした途端ガルトがテントの中に入ってきた。
「ほら、水持ってきたぞ。」
そしてガルトは、右手に持っていたコップを差し出した。
「ありがとう。」
僕はそれを受け取り、ゴクゴクと水を一気に飲んだ。
半分ほど飲んで「プハァ~」と息を吐いて、残った水をガルトに返した。
「もう飲まないのか?。」
「うん、わざわざありがとう。」
そう言うと、ガルトは残った水を飲み干して、また外に出て行こうと、テントの出口に向かっていた。
「待って!ガルト、さっきからどこに行ってるの?」
すると、ガルトはテントの縁に手を掛けながら振り返った。
そして、口元をニッと上げて笑いながら言った。
「心配すんな、ただの見張りだよ。」
そう言ってガルトはテントを出て行った。
僕はガルトの後ろ姿を見送り、また横になった。
ボーッとテントの屋根を見ながら、やがて意識が遠くなり、静かに目をつぶった。
***
しばらくして、僕は体を揺すられて目を覚ました。
一体どうしたと言うんだろう?。
僕は目を擦りながら大きくのびをして、体を起こしてテントの出入り口越しに外を見た。
どうやら、外の明るさからして、今は丁度お昼を過ぎたくらいだろう。
僕は大きなあくびをして、ガルトを探した。
しかし、テントの中にガルトの姿は無かった。
まだ外で見張りでもしてるんだろうか・・・。
僕は気になって、テントの中からガルトの姿が見えないか、辺りを見た。
しかし、ガルトどころか人影も見えない。
僕は、どうしようか少し考えた。
そして、僕はあることを思いついた。
「起きて・・・見ようかな、もう大分休んだし・・・。」
僕は、寝袋から自分の足を引っ張りだした。
そして、足を二、三回たたんだり、のばしたりして、しっかり動くか確かめた。
『とりあえず、問題なく動くようだ。でも、いきなり立ち上がるのは危険だ。』
僕は立つ前に少し練習することにした。
まず僕は、足を折りたたんで正座した。
これは問題なくできた。
次に、正座の格好からゆっくり立ち膝の状態になった。
この時、少しクラッとしたが、これも問題無かった。
『さて、そろそろ・・・』
僕は、立ち膝から立つ事にした。
しかし、いざ立とうと思うと少しためらっていまった。
もし、前みたいに倒れたら・・・
そんなよくない考えが頭をよぎる。
僕は、しばらく立ち膝のまま動けなかった。
しかし、このまま止まっていても、何の解決にもならない。
ここは・・・勇気を出して・・・。
僕は、意を決して勢いよく立ち上がった。
「わぁ!っとっと・・・ふぅ、危ない」
少しよろけてしまったが、何とか持ちこたえ、何とか立つことが出来た。
久しぶりに立ったから、周りの景色が少し変わって見えた。
そして僕は、テントの外に向かって歩き始めた。
まだフラフラとした足取りだが、何とか歩けてはいる。
何とかテントの出入り口までたどり着き、外に出ようとした。
その時、
「うわっ!」「えッ?!」(同時)
突然入ってきた誰かと正面からぶつかって、その場に尻餅をついた。
「いてて・・・お尻打っちゃった。」
僕は、片手でお尻を撫でながらぶつかってきた人を見た。
ぶつかってきた人は、地面に大の字になってのびている。
その人をよく見ると、
「が、ガルト!」
ぶつかった相手はガルトだった。
僕がまだ寝てると思って入ってきたから、あんなに勢いよく・・・。
僕は急いでガルトの近くまで這って行って、ガルトに声を掛けた。
「ガルト大丈夫?!、しっかりして!」
しかし、ガルトから返事は返ってこない。
僕はガルトの両肩を掴み、上下に思いっきり揺すった。
「ガルト~、しっかりしてよ~」
ガルトの首はガクンッガクンッと大きく揺れ、やがてガルトは「はっ!」と言う声を上げた。
「ガルト!よかった~。」
ガルトは頭に?が浮かびそうな顔をして、僕を見て質問してきた。
「あれ?もう起きて大丈夫なのか?」
僕はガルトの質問にYESと答えると、ガルトは満足そうに笑って立ち上がった。
「よし!それじゃ、とっととテント片付けて出発すっか!」
ガルトはそう言うと僕に手を貸して、立たせてくれた。
するとガルトは、僕の背中を二回ドンッ、ドンッっと叩いて、テントの方へ歩いていった。
僕もガルトの後に続いて、テントに向かって走ろうとした。
しかし、まだ本調子じゃなくて足がもつれてしまった。
そんな僕を見て、ガルトは大笑いしていた。
そして、近くまできて、僕に手を貸してくれた。
「まったく、世話の焼けるやつだ。」
そう言ってガルトは、僕を近くの木陰に座らせてくれた。
「ここで少し待ってろ。」
そう言うとガルトはテントの中入っていき、しばらくして、テントから出てきた。
ガルトの手には、水筒が握られていた。
ガルトは小走りで僕のところまできて、その水筒を僕に手渡し、テントの片付けに取りかかった。
僕は、水筒の水を飲みながらガルトを見守った。
ガルトはテントを驚くほど早く片付けて小さくたたんであった。
僕がちょっと見てない間にどうやって片付けたんだろう?。
僕がそんなことを考えてる間もドンドン片付けが進んでいき、ガルトがテントをしまおうとした時、突然ガルトが大きな声で僕に言った。
「かえと~!、ちょっと向こう向いててくれるか~!」
僕は黙ってガルトが指差した方を見た。
そして、10秒くらい経って、ガルトが僕に声を掛けた。
「もういいぞ~!」
そう言われて、僕はガルトの方を見た。
「うわっ!」
振り返るとガルトは目の前にいた。
僕は声を上げて驚いて、ガルトはドヤ顔をしている。
「驚いたか?。」
「どうやって・・・ここからテントまでは結構距離があったのに。」
そう言うとガルトは何も無かったかの様に僕に言った。
「片付けも終わったし、そろそろ行くぞ!、立てるか?」
そう言ってガルトは、僕の手を掴んで立たせてくれた。
僕はガルトに支えてもらいながら、広場を出た。
森の中を歩きながら僕はガルトにさっきの事を質問した。
「ねえガルト、さっきどうやって僕のとこまで来たの?、あれは絶対何か理由があるんでしょ?」
するとガルトは、僕に向かってニッと笑うと子供のように言った。
「ヒミツ~!」
「なんだよそれ!、教えてくれても良いじゃないか!」
「ヒミツだ!」
「いいじゃないか!減る物じゃ無いんだし!」
「なんと言おうと、ヒミツだ~!」
僕とガルトはそんな言い合いをしながら、森の中を進んでいった。