第六話 正体
「大丈夫・・・もう落ち着いたから」
エレーナさんはそう言うと、僕に背を向けた。
あれから2時間後、エレーナさんはやっと泣きやんでくれた。
正直言って辛かった。
いくら声をかけ続けても泣きやんでくれなくて、少し収まってきたと思ったら、またポロポロと涙を流して鳴き出すの繰り返し、このまま泣きやんでくれないのかとも思ったほどだ。
・・・しかし、エレーナさんは大丈夫なんだろうか。
僕はエレーナさんを見た。
「ん?、どうかした?、もしかして私の顔になんかついてる?」
エレーナさんはそんなことを言いながら、どこからか鏡を取り出して自分の顔を見ている。
エレーナさんは見たとろ元気なようだが、本当に大丈夫なんだろうか?
確かに今までの経験上、エレーナさんは、一度落ち込んだりするとなかなか止まらない人だというのは分かっている。
しかし、今回はどう考えても異常だ。
なぜ、そう考えるのかというと、
涙の量がおかしい。
どう考えても人間の域を超えている。
その証拠に、今僕の足下には大きな水たまりができている。
いくら涙もろくてすごい量の涙を出す人でも、水たまりができるほど泣くなんてまずあり得ない。
仮に水たまりができるほど涙を流す人がいるとしても、この大きさはあり得ない。
今僕の足下に広がっている水たまりは軽く見ても直径5メートルほどある。
もし、普通の人間がこれだけの量の涙を流したら、脱水症状を通り越して干涸らびてしまうだろう。
干涸らびなくても間違いなくなる脱水症状を起こすか倒れて居るだろう。
しかし、エレーナさんは・・・
「それより、のど渇かない?私はもうカラッカラに渇いちゃって。」
あれだけ泣いといてたかが“のどが渇いた”程度ですんでいる。
これはどう考えてもおかしい。
僕はどうしても納得がいかないから思いきって聞いて見ることにした。
「あの、エレーナさん?。」
僕が呼びかけるとエレーナさんは振り返ってくれた。
なぜか右手に“コップ”を持って・・・。
「ん?、何?」
僕は色々ツッコミたかったが、グッとこらえて聞きたかったことを聞いた。
「単刀直入に聞くけど、エレーナさんって人間じゃないでしょ。」
「うん。そうだけど?。
カエト君、はじめから知ってると思ってたけど、何だ知らなかったか~。」
即答だ~!、しかも、僕がその事知ってたって事になってる~!。
僕は、予想外の返答に心の中で色々叫んでしまった。
人間じゃない?!・・・てことは、エレーナさんが言っていた“魔物”とか言う奴なのか?!それとも、“別のナニカ”なのか?!。
・・・・・・あ~、一人で考えても埒が明かない!。
本人に聞くのが一番だ!。
僕はそう考えて、エレーナさんに聞いた。
「じゃあ、一体エレーナさんは何者なの?」
すると、エレーナさんは手に持っていたコップを軽く揺すりながら言った。
「“五人の神精霊”の母であり、この世界の創造主。
“全てを司る精霊”カエト君の世界で言う“神様”ってやつ。」
・・・・・・・・・はい???。
今なんて?、・・・神様?!、エレーナさんが?!
まさか、こんな浮ついてて適当そうな人が?
・・・どうにも信用できないな~。
「本当に神様なの?エレーナさん。」
僕は半信半疑で聞いた。
すると、エレーナさんはコクリッとうなずいた。
その後、なぜか僕をジーッと見て、何かを待っている。
まるで、僕の返事を待っているような。
・・・何となく予想はつくけど、一応言ってみることにしてみた。
「あの「えっ?!、信じられない?!、しょうがないな~、カエト君がどうしてもって言うなら証拠を見せてあげるよ。」
僕が話そうとしたら見事に遮られてしまった。
どうやらエレーナさんは、どうしても自分が神様だと証明したいらしい。
僕としては別に証明してくれなくても口で説明してくれれば信じたんだけどな~。
そんなことを考えてる間に、エレーナさんはなにやら準備運動のような事を始めた。
まず、ぱっと見の感想を言えば・・・なにあれ。
なんか、両目をつぶり、地面に正座をして座ったと思ったら、今度は両手を額の前にかざして親指以外を忙しなく動かしてブツブツと何かをつぶやいている。
一体何をしているんだろう?。
僕には見当も付かない。
すると、いきなり目をカッと見開いて、今度は帽子を脱いで前髪を右手であげて、左手で額をこすり始めた。
頭でも痒いのかな?。
僕がそんなバカげた考えをしている間もエレーナさんはずっと額をこすり続けている。
しばらく左手で額をこすっていたら、不意に左手がピタッと動きを止めた。
そして、ゆっくり左手を額からどけた。
するとそこには、
ギョロッ
そこには、ギョロギョロとあたりに視線を飛ばす目があった。
「ふぅ、久しぶりだから時間かかっちゃったな。」
エレーナさんはそう言って立ち上がった。
そして僕の方に向き直った。
それと同時にさっき出てきた目も僕のことをまっすぐに見据えた。
正直言って気持ち悪い。
「どう?これで私が神様だって分かってくれた?」
エレーナさんは笑顔でそう言ったが、額にある目のせいで気持ち悪い。
まず、額に目が出てきて何で“神様だ”と確信できよう。
どうも納得がいかない。
「エレーナさん。おでこに目が出てきたら何なの?」
僕がそう言うとエレーナさんはギョッとした顔をして驚いた。
「いやだって“目”だよ!“目”!こんな事できるのは“神様”以外いないでしょ!!」
いや、まずなんで目を出せたら神様なのかが疑問なんだけど。
僕のイメージだったら神様って“何でもできる”みたいな感じで、なんか目だけじゃなくて、なんかこう・・・とにかくすごい事できそうなんだけど。
僕はそんなことを考えていたら、
「・・・そうだ!」
僕は手をポンッと叩くと、今思いついた事をできないかエレーナさんに聞いた。
「ねえ、エレーナさん。
エレーナさんが神様なら、僕がこっちの世界に来てから今までの様子をずっと見てたんだよね。」
僕の質問に、エレーナさんは頷いてくれた。
だったら話が早い。
「じゃあ、どうやって見てたのか教えてよ!、そっちの方が納得できるよ!」
僕がそう提案すると、エレーナさんは「えぇ、別にかまわないけど」と了承してくれた。
しかし、エレーナさんはなぜか浮かない顔をしている。
やっぱり何かまずいでもあるんだろうか。
僕はなぜそんな浮かない顔をしているのか聞いたら、エレーナさんは言った。
「だって、そんなんで信じてくれるの?下界の様子を見るだけで?
私はてっきり“コレ”を見せたら信じてくれると思ってたからちょっと拍子抜けしちゃった。」
エレーナさんは額の目を指差しながらそう言った。
いや、目が出てこようがきまいがエレーナさんの性格が神様っぽくないから、結局信じなかっただろう。
そんな事を考えながら、僕はさっきから言おうと思っていたことがある。
それは、
ギョロッ、ギョロギョロッ!
さっきからギョロギョロ動いている目が気持ち悪い。
しかも、その目はさっきから僕のことを見てきている。
何とかならないんだろうか、あの目・・・ホントに気持ち悪い。
そんなことはつゆ知らず、エレーナさんはまた何か説明し始めた。
「いや、別にいいんだよ。下界の様子なんかすぐ見られるし、いいんだよ。でもさ・・・もっとこう・・・派手な事の方が・・・いいな~、なんて思ってたり思ってなかったり・・・ははは。」
要するに、エレーナさんは僕に「お~、すげ~」とか「さすが!神様って何でもできるんだね」とか言ってもらいたいようだ。
でも僕は今、エレーナさんの言ってる“下界”とやらの“ガルトの様子”が気になるのだ。
僕が此処に来てから随分長い時間がたっているから、向こうが今何時なのかが気になる。
もし、向こうが朝だったら、ガルトも僕の事をきっと心配するだろう。
・・・いや、案外僕のこと忘れて、そのままどっかに行っちゃうかもしれないけど。
とにかく、様子を見ないと何も分からない。
「エレーナさん、後で色々見せてもらうから、早くガルトの様子見してよ。」
僕がそう言うとエレーナさんはニコッと笑って下を指差した。
「足下見てみてよ。」
僕は言われるがままに足下を見た。
しかし、そこには真っ白な地面があるだけで何もない。
エレーナさんに目で「どういう事?」と訴えるとエレーナさんはまた、ニコッと笑って何かブツブツ唱え始めた。
すると、突然風が吹き始め、そして白い地面がどんどん風の方向に流れ始めた。
僕はあたりを見渡してみた、地面全体が動いている!。
下を見ると、地面の白以外に緑色が見える。
あれ・・・何だろう。
徐々に白から緑に変わっていく。
・・・そうか!、森だ!ガルトと一緒に居た森だ!。
僕がそう確信した途端、真っ白だった地面が森に変わった。
時間はまだ夜のようだ。
僕はホッとして、ため息をはいた。
そして、真下に広がる景色を見ながら、ガルトを探した。
「・・・・・・いた!。」
僕は思わず見つけた場所を指差した。
すると、エレーナさんはまた何か呟くと、景色がガルトの居るテントの真上に移った。
テントはなぜか明かりがともっている。
おかしいな、ガルトは眠ってるはずなのに。
僕は不自然なテントの光をまじまじと見た。
すると、突然その光が弱くなって消えかかっている。
だが、またすぐに明かりが強くなった。
一体何が起きてるんだろう?。
僕はそんな事を思いながらエレーナさんに視線を飛ばした。
すると、エレーナさんは珍しく真面目な顔をして、テントを見ている。
「どうしたの?、エレーナさん。」
「・・・・・・」
返事がない、聞いてないのかな?。
それとも、聞こえているけど返事をする余裕がないのかな?。
その後、何度か声をかけたが、エレーナさんは一度も返事をしてくれなかった。
ただ、怪しく光っているテントを眺めている。
テントの中で一体何が起こっているんだろう?。
僕がどうかしたのか聞こうと思ったら、エレーナさんが先にしゃべった。
「カエト君、あなたが此処に来てから最低でも1時間は立ってるよね。」
僕はコクリと頷いて見せた。
すると、エレーナさんは僕の方を向いた。
それと同時に足下がまた真っ白になった。
そして、エレーナさんは真剣な顔をして言った。
「いいカエト君、よく聞いてね。」
一体なんだろう?。
僕は、不思議に思いながらも頷いて、エレーナさんの話に耳を傾けた。
「貴方は今、此処に魂だけの状態でいるの。
元の世界にある肉体は消滅しちゃったから元の世界には戻せないけど、こっちの世界では私の力で新しい肉体を用意できたの。
それで、君の魂をこっちの世界の肉体に入れたんだけど、不安定だった君の魂は、一度は新しい肉体に入ったんだけど、眠りに落ちた瞬間に魂が肉体と分離して、此処に来たの。
だから今、テントの中にはガルト君とカエト君の肉体だけがいるわけ。
それで、魂と肉体は“霊線”と言われる物で繋がっているからしばらくは魔法をかければ死なないの。とりあえず此処まではいい?」
僕は何とかついていけているので、頷いた。
エレーナさんは僕が頷くのを確認すると、またしゃべり始めた。
「この状態の人は、肉体か魂のどちらかがダメージを受けるとダメージを受けてない方にもダメージが行ってしまうの。
つまり、魂の状態で怪我をすると肉体にも同じ怪我を負ってしまうの。」
・・・っていうことは、魂の僕が傷つけば僕の体も傷つくってことか。
ん?そう言えば僕、足を怪我したんだっけ。
「それじゃあ僕の体は今、足に穴が空いて血を吹き出していると・・・そう言うこと?。
でも、足も傷はエレーナさんに直してもらったから、僕の体も治ってるんじゃないの?。」
「いいえ、回復魔法は生きてる人にしか効かないの。
魂は傷ついても魔法で治るんだけど、体の方は傷が残ったままそこにあり続ける。」
僕は嫌な予感がしてきた。
体の傷が治らないんだったら僕の体は今も危険な状態。
しかも、こっちに来てから相当な時間が経っている。
ということは!。
僕は、勢いよくエレーナさんの方を見た。
エレーナさんは静かに頷いた。
「エレーナさん!今すぐ僕を体に戻して!」
するとエレーナさんは、少しうつむいて暗い顔をした。
「ねえ!、お願いだから早く!」
すると、エレーナさんはまたさっきと同じようにブツブツと何か言い始め、また足下にテントが見えてきた。
今度はテントの中の風景になっている。
そこには、
【おい!、しっかりしろ!、ックソ!何で起きねぇんだ!】
テントのあちこちには激しく血が飛び散っていて、僕の足の周りには血だまりができている。
ガルトは僕の足の穴に包帯を巻いて、その上に手をかざしている。
どうやら、魔法をかけてくれているようだ。
しかし、僕の足から出る血は止まらない。
【クソ!、なんで止まんねーんだ!】
ガルトは魔法をあきらめ、直接手で押さえて血を止めている。
何だかガルトの声が遠くに聞こえる。
きっと僕の耳から聞こえる声だからだろう。
「どうするカエト君?、今戻ればきっとまだ間に合うけど、あの痛みをまた味わう事になるよ?、それでもいい?。」
エレーナさんが僕に質問するように言った。
しかし、そんなこと聞かれるまでもない。
「今すぐ戻して!早く!」
僕がそう言うとエレーナさんはニッコリ笑ってブツブツと何か言い始めた。
すると、僕の周りがまばゆい光に包まれた。
そして、僕の肉体の方も光に包まれた。
【なんだ?!。】
ガルトが驚いて僕から少し離れたのが見えた。
すると、エレーナさんが僕の前まで歩み寄ってきた。
「やっぱり君はいい人だ。自分を大切にしてね。」
僕にはよく分からないが、褒めてくれたんだろう。
僕が、お別れを言おうとしたら僕を包んでいた光が、一層強く光った。
そして、意識がだんだん遠くなって来た。
「だ・じ・・!、あ・で・・・ら!。」
エレーナさんが何か言っていたが、すでに意識がもうろうとしていた僕には何を言っていたのか分からなかった。
そして、そのまま僕の意識は光に包まれ真っ白になり、何も分からなくなった。
どうも~、MDS(全くダメな作者)の蛇炉で~す。
今回だいぶ短くなっていますので時間が空いたら読んでください。
いつも更新が遅い僕がなぜ今回はこんなに早いかというと。
休みが終わるまでに後2話更新するつもりだからです。
もしかしたら、1話しか出せないかもしれませんが、皆さんの広い器で多めに見てください。
よろしくお願いします