第四話 色々知った日
随分遅くなりました。前より少し長めです。
「うん!意外とおいしい」
「な!俺の言った通りだろ」
僕達は今、その辺にあった岩に座って、丁度よく焼けている化け物をおいしく頂いていた。
なぜこんな事になっているかと言うと、
ガルトが倒した化け物は、とても珍しい魔物で珍味としても有名らしく、一度食べてみたかったと言って調理し始めたのだ。
調理は至って簡単で、真っ二つになっている化け物を腕・足・頭・胴体に分け、食べやすい大きさにぶつ切りにし、ガルトが手から炎を出して焼いただけ。
僕は、ガルトが化け物を切っていく姿を見て吐きそうになったが、何とかこらえた。
化け物を焼いている時は良いにおいしていた。
「よし!出来た!『“手で喰らう物”のぶつ切り焼き』だ、食え」
ガルトはそう言うと焼いた化け物を手渡してきた、僕はガルトの姿を見て逃げ出しそうになった。
服や顔は血だらけ、右手には真っ赤に染まった剣、左手にグロテスクな見た目の『何か』を僕に差し出している。
もし今のガルトを普通の人が見たら、絶叫しながら一目さんに逃げるだろう。
初めは近寄るのもイヤだったが、ガルトに無理矢理食べさせられて今に至っている。
「ガルトって、料理上手なんだね。焼き加減も丁度良いし」
僕はムシャムシャと“イーターハンズ”を食べながら言った。
ガルトは鼻の頭を掻きながら照れくさそうにそっぽを向いた。
暫くイーターハンズを食べていて、ちょっと休憩していた。
すると、休んでる僕が暇そうしてたらか、ガルトがイーターハンズの説明をしてくれた。
***
ガルトの話によると、イーターハンズの場合は手の本数や毛の色で珍しさや強さが違うらしい。
手の本数で強さや生きた年月、毛の色が珍しさや賢さを示しているらしい
今まで確認されている中で最も強く珍しいのは、腕が八本生えていて毛の色がシルバーだったらしい。
今回倒したのは腕が六本の黒い毛だった。
イーターハンズの中でも上位の強さで結構な中年で、少し賢いがあまり珍しくもない毛の色の奴だったそうだ。
だが、そもそもイーターハンズに出会うこと事態が困難らしく、黒でも十分珍しいといえるそうだ。
肉も腕が六本~八本の長い年月を生きた奴が一番美味しいそうだ。
だからガルトは、僕が六本腕のイーターハンズに追いかけられている時腕の本数を聞いてきたのだ。
六本腕か?と初めに聞いてきたのは旨い奴で一番弱いから聞いたらしい。
六本腕と聞いた瞬間、ガルトは危険視もしていたが、旨い飯にありつけると喜んでいたらしい。
***
この話を聞いて僕は、眼の下をピクピクさせながら無理矢理笑顔を作ってに言った。
「じゃあガルトはあの時、ただ美味しいご飯にありつけると思ってただけで、僕のことは二の次だったの?」
「もちろん!おまえのことは正直ついでだった。」
「ぅおい!」
僕はカチンと来て、ガルトを怒鳴ってやった。
ガルトは「ごめんごめん」と適当に謝ってきた。
その態度を見ていくら言っても聞かないと思い、僕はまた肉を食べ始めた。
その時、ふと、ガルトが手や剣から炎を出していたのを思い出した。
僕は、その事をガルトに聞いた。
ガルトは、怪訝そうな顔をしながらも事細かに教えてくれた。
その結果、沢山の事が分かった。
***
どうやら、ガルトが使ったのは“魔法”らしくその中でも炎の魔法らしい。
元々魔法には“属性”と言うのがあって、“炎・水・地・風・雷”の五つがあるそうだ。
この五つは、この世の何処かに居る“五人の神精霊”と呼ばれる精霊が“五つの力”と呼ばれる魔法の元になる力を貸しているらしい。
この“五つの力”を戦闘に使えるように応用したのが“戦闘魔法”。
その“戦闘魔法”をさらに応用したのが“基本魔法”だそうだ。
そして、その“五つの力”を一時的にもらうために呼びかけるのが“呪文”なんだそうだ。
エレーナさんもガルトも、魔法を使うときブツブツ言っていたけど、呪文を唱えていたらしい。
それを聞いた僕は。
「化け物を倒す時に剣から炎が出てたけど、あれも魔法なの?」と質問したら、
「おう!“炎”を武器にまとわせて武器の威力を上げる《ブーストファイア》って言う戦闘魔法だ!」と言っていた。
***
一通り説明し終えたのか、ガルトはまた肉を食べ始めた。
「他に・・・ゴクッ・・質問あるか?」
ガルトは、肉を食べながら僕に言ってきた。
僕は魔法に興味が沸いてきた。
駄目もとで聞いてみよう。
「じゃあさ、僕も魔法って使える?」
それを聞いたガルトは、不思議そうな顔をして僕に言ってきた。
「なあなあカエト、おまえ・・・もしかして記憶喪失?」
ガルトにそう言われて、僕はすぐ言い返した。
「僕は記憶喪失なんかじゃないよ。」
するとガルトは、眉間にシワをよせ睨むようにこちらを見てきた。
どうやら信じてもらえてないらしい。
容姿がいいから睨まれると半端無く怖い。
僕は、ビビリながらも言葉を絞り出した。
「だ、だって、魔法使ってみたいから」
僕がそう言うと、ガルトは疑うような攻めるような口調で言った。
「それが可笑しい。何で魔法が使えない」
ガルトはそう僕に言ってきた。
僕は、半ばやけくそになりながらもガルトに言った。
「魔法なんて使えないよ!だって、元居た世界に魔法なんて無かったんだから!」
僕はこの時、深く考えもせずガルトにそう言った。
するとガルトは疑う様な、心底驚いた様な、よく分からない顔をして言った。
「・・・は?! 元居た世界?! じゃあおまえ・・異世界から来たのか?!」
ガルトの反応を見て、僕はやっと自分の過ちに気づいた。
いきなり「違う世界から来た」と言われても信じてもらえるはずがない。
下手をしたら変人扱いされたりするかもしれないのに。
僕は急いで訂正しようと必死に弁解した。
「い、いや、あの、その・・・、そうだ、ぼ、僕、記憶力ないから・・・その・・・ど忘れって言うか・・・覚えて無かったと言うか・・・その・・・・・」
自分でも何言ってるか分からない。
しかし、ガルトは僕の言い訳じみた話をきかず、胡座をかきながら何か考え事をしている。
「あの~、ガルトさん?」
何故か敬語になってしまった。
とにかく話しかけてみたが、ガルトはぴくりとも動かない。
まるで時間が止まってしまったんじゃないかと思うくらいに動かない。
暫くそのまま固まって動かなかったガルトだったが、いきなりこっちを見て言ってきた。
「カエト、本当に・・・・・異世界から来たのか?」
ガルトは、静かにそう言ってきた。
僕は何でそんなことを聞くのか疑問に思った。
とりあえずガルトの質問に「うん」と答えた。
「なるほど、それで知らなかったのか・・・」
納得したように呟くと、ガルトはいつもの口調で言った。
「そうかそうか!異世界から来たのか、そりゃあ魔法のことを知らなくて当然だ!、
悪かったな~変に疑っちまって。」
ガルトは口ではそう言ってるが、全く謝る気がないのが見て取れた。
僕は腑に落ちない顔をしつつ、ガルトにもう一度魔法を教えてもらえないか聞いたら、快くOKしてくれた。
さっきまでの真面目なガルトは何処へ行ったんだろうか。
「まあ、とりあえず近くの町まで行こう」
「何で町まで行くの?今教えてくれれば良いのに。」
僕はガルトにそう質問するとガルトは答えた。
「そうもいかないんだよ、色々な物が不足しすぎてる、だから町に行って物資を集めてから魔法の練習だ」
そう言うとガルトは、余った“イーターハンズ”を『鞄』にしまっていった。
・・・ん?
『鞄』だって?
・・・鞄なんてガルト持ってたっけ?
ていうか何で鞄にあんな入るんだ?
僕はそんなことを考えながらも、ガルトの準備が終わるのを待った。
正確には、ガルトが鞄にイーターハンズをしまい終えるまでだが・・・。
ガルトの準備が終わった時には、山の様にあったイーターハンズもガルトの持っている小さな鞄に全て収まっている。
僕はガルトの鞄をしげしげと見つめて質問した。
「ガルト、この鞄どうなってんの?こんなに小さいのに・・・」
鞄の大きさは、
深さ39センチメートル、幅36センチメートルの正方形に近い形をしていて。
斜めにかけるタイプの物だった。
ガルトが鞄にイーターハンズをしまっている様子をずっと見ていたが、鞄が一杯になる気配は無かった。
鞄が膨らむ訳でもなく、鞄が重量を増している様子もない。
そんな摩訶不思議な現象を目の当たりにして、質問しない人はを恐らく居ないだろう。
僕の質問にガルトは答えた。
「どうって言われても・・・まあ、あれだ、魔法の一種だと思ってればいい」
ガルトはそう答えると暗黒の森の方に歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよガルト。」
「ん?どうかしたか?」
「そっちはさっきの森じゃないか、あっちの川がある方に行こうよ」
僕は森とは反対に見える川の方を指さした。
そんな僕を見て、ガルトは腰につけている巾着袋からコンパスの様な物を取り出した。
そして、それを持って何かブツブツと喋ると、コンパスが淡い赤光を出した。
その光はまっすぐ森に伸びていた。
「いや、こっちで合ってるぞ、おまえが指してるのは“水の都 ミネズラン”、俺達が向かうのは
“中心都市 セガン”だ。」
「え?・・・みねずらん? せがん?」
僕は聞き慣れない言葉を聞き、首をひねった。
「あ~そう言えば教えてなかったな、・・・町に着いてから説明するは。」
ガルトは暫く考えてからそう言った、どうやら説明が面倒なことらしい。
「とにかく町に着かなきゃ何も出来ない、話も説明もそれからだ。ほら、さっさと準備しろ。」
そう言うとガルトは、呪文を唱え始めた。
準備と言われても何も持ってないのだが。
暫くしてガルトが大声を出した。
《照らし出す炎》
すると、ガルトの前に強烈な光を放つ物が現れた。
光が強すぎてガルトの方をみられない。
「おお、わりぃわりぃ、光強すぎた。」
ガルトがそう言った瞬間光が弱まり、ガルトをみることが出来る程度までになった。
僕は眼を擦りながら言った。
「それって、初めて会ったときに見えてた光?」
「おう!《サーチライト》ってんだ。しかも光の強・弱自由」
ガルトは自慢げにそう言うと、光を強くしたり弱くしたりを繰り返した。
「ちょ!、わかったから弱くして!」
「おお、悪のりした、すまん。・・・まあ、とにかく行こう。」
ガルトはそう言うと森の中に入っていった。
「ま、待って!置いていかないでよ~」
僕は急いでガルトの後を追いかけて森に入っていった。
*****
「お~い!ちゃんとついてきてるか~」
「大声出さなくても、ちゃんとついてってるよ~」
森に入って約1時間が経っている。
モンスターに会ったり、問題が起きたりはしていない。
それと同時に、まだこの暗い森を抜ける事が出来ない。
永遠とガルトのシルエットの後について行っている。
「ねえ、ガルト」
「なんだ?」
「まだ着かないの?もう疲れたよ。」
僕は若干ヒソヒソ声でガルトに言った。
大きな声を出すと襲われると思ったからだ。
するとガルトは、またコンパスの様な物で何か確認した。
「・・・・・・」
ガルトはコンパスを見ているのか、その場に立ち止まっている。
するとガルトはコンパスをしまって僕に言ってきた。
「あともう少しで分かれ道に出る、そこまで行けば休める所がある。そこで一晩過ごしてからセガンに行く。」
ガルトはそう言うとまた歩き始めた。
(まだ着かないのか・・・)
僕はそんなことを思いながら、周りをキョロキョロしながらついて行った。
「お!見えてきた!おいカエト、出口だぞ!」
「ほ、ほんと!」
僕は、ガルトの横から顔を出して前を見た。
そこには、ガルトの魔法の光よりも明るくて真っ赤な光がさしていた。
「と、とうとうこの暗い森から出られる・・・」
僕はその光を見て、眼に泣をため、泣きそうなってしまった。
そんな僕を見て、ガルトは言った。
「おいおい、大げさだな~。それに、まだ目的の場所までたどり着いて無いんだぞ」
「う、うん・・・でも・・・あまりにも嬉しかったから・・・」
僕はガルトにそう言うと、とうとう涙を少し流して泣いてしまった。
ガルトは少し僕に近づいて、僕の頭をガシガシとなでた。
「ちょ・・・ガルト・・・やめ・・・」
僕がそう言うと、ガルトは頭をなでるのをやめて出口に向かった。
僕はただその後ろ姿を見る事しかできなかった。
何だか何処かで見たような、懐かしいような、そんな感じの後ろ姿だった。
「おい、何してんだ。さっさと行くぞ。」
その言葉で僕は我に帰り、駆け足でガルトの後を追いかけて外に出た。
*****
「あれ?ここって・・・あの分かれ道?」
そこには、さっきイーターハンズに会った分かれ道があった。
「なんだ?ここ来たことあるのか?」
「うん、この世界に来て初めて魔物に会った所だよ」
僕がそう言うとガルトは左にある看板を見た。
そう、初めにここに来た時全く読めなかった看板だ。
ガルトは看板を見ると、迷わず右の道に行った。
「え、左に行かないの?」
僕がそう言うと、ガルトは看板を指さして言ってきた。
「そっちは“セガン”に行く道だ、こっちが目的地だ。看板にもそう書いてあるだろ。」
僕は看板を見た。
しかし、やっぱりあのよく分からない文字が並んでるだけだった。
(この世界の言葉なのかな?)
僕はそう思いながらガルトの後を追いかけて右の道に行った。
*****
「よーし着いた。ここが今日の寝床だ。」
「・・・ここって・・・」
僕はそう言って沈黙した。
なぜなら、ここは僕が目覚めたあの広場だったからだ。
「どうしたカエト、黙り込んで」
僕はガルトにここで目が覚めて、ガルトに会うまでにあった事を全て話した。
ガルトは、僕の話を聞きながらテントを立てて寝床作りを進めていた。
ガルトは、たまに質問をしてくる時以外は黙って話しを聞いてくれた。
僕が話し終えると、ガルトは言った。
「そうか・・・大変だったな・・・」
ガルトは哀れむような同情するような顔をして僕を見た。
「まあ気にすんな!きっと良いことあるって。」
ガルトはニコッと笑いながら言ってきた。
その笑顔は少し引きつっていたが、僕を励まそうとしてくれた気持ちだけでも嬉しかった。
僕がそう思っていたとき、ガルトが大きく伸びをして言った。
「さ~て、そろそろ暗くなるし飯狩ってくる。」
そう言うとガルトは、森に向かって行った。
「ガルト待って、僕も行くよ。」
「いや、おまえはここで待っててくれ。ここなら魔物も来ないし安全だ。」
そう言うとガルトは森の中に消えた。
「気を付けてね~」
僕はそう言うと、ただ外出待ってるより、テントの中に居る方が暖かいし安全だと思い、とりあえずテントの中に入った。
そしてとても驚いた。
「え?広い・・・」
中に入ってみるとテントのてっぺんが3メートル辺りにあり、広さが九畳くらいとかなり広い。
外から見たときは、僕の背丈くらいしかなかったのに。
ちなみに僕の背丈は160センチメートルくらいだ。
しかし、なぜ外と中でこんなに大きさが違うんだろうか。
「これも“魔法”か何かなのかな~?」
あとでガルトに聞くことにして、僕はテントの中でガルトを待った。
「はあぁ・・・」
僕は一つため息をついて、テントの床に寝転がった。
(何だか今日は疲れたな~。)
僕はそう思いながら、この世界について分かっていることを整理した。
まず、文字が違う。
これはガルトに教えてもらえば何の問題もない。
次に、魔物や魔王の存在。
これについては全く知らない。
そして、この世界と元居た世界の一番の違いは、魔法と呼ばれる物だ。
元居た世界では、魔法なんて物は存在しなかった。
魔法のことはガルトからある程度教えてもらったが、何が何だかさっぱりだった。
そもそも、何で僕はこの世界に来てしまったのだろうか。
原因に心当たりはない。
何で寝ただけで違う世界に来てしまったのか・・・
(あ~、いくら考えても分からないよ~)
僕は、頭を抱えながらゴロゴロと左右に転がった。
「何やってんだ・・・?カエト」
僕の頭上から声が聞こえた。
そっちを向くとガルトがテントの入り口であきれ顔をしていた。
「いや、その~、ちょっと考え事を・・・そんなことより、ご飯とれた?」
僕は話題をそらそうと別の話題をガルトに持ち出した。
すると、ガルトはニッと笑いテントの外に出た。
僕も後を追い、テントの外に出ると大きな熊が倒れていた。
「ど~よ。“|グリズリー(大熊)”を捕まえてきたぜ」
ガルトは胸を張り自慢げに言ってきた。
しかし、僕にはこの生き物が珍しいのか全く分からなかった。
「すごいよガルト!こんなにでっかいクマをしとめるなんて」
だが、とりあえずガルトをほめてみた。
「はっはっは、そうだろうそうだろう」
案の定ガルトは調子に乗った。
僕は駄目もとでガルトに言った
「ガルト、疲れてるかもしれないけど、このクマ調理してくれない」
「いや、ここは二人で・・・」
「頼むよ、強くて優しいガルトさん」
「よしまかしとけ!、すぐ調理する」
(わかりやすい正確してるな~)
僕はそう思いながら、ガルトがせっせと準備するのを黙ってみていた。
暫くして、さすがに悪いと思って、ガルトに手伝おうかと言ったが、「いや、俺一人で十分だ!」と言って何も手伝わせてもらえなかった。
なんだかんだでご飯の準備が出来て、見事完食するとテントに入った。
「明日は早いからとっとと寝ろよ」
ガルトはそう言うと、寝袋を取り出してそのまますぐ眠てしまった。
僕も特にやることもないので、目を閉じて、深い眠りについた。
どうも、蛇炉です。
今回は随分遅くなってしまいました。 ネタがないんです・・・。
恐らく、次の更新も1~2ヶ月くらいかかると思うので気長に待ってください。