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僕が聞いた勇者の話  作者: 蛇炉
11/45

第十一話 セガンに向けて

大分遅くなりました。

「だ・か・ら、無理だって!。僕なんかに“勇者”なんて出来っこないよ。」


「だ・か・ら、私も色々手伝うって言ってるでしょ!!」



僕たちは、エレーナさんが「勇者になって!」と僕に言ってからずっとこんな調子で言い争っている。

なぜ言い争いになったかを簡単にわかりやすく説明するなら。



1、エレーナさんが僕に「勇者やって☆」と言う。



2、僕がこれを速攻っで断る。



3、エレーナさんは僕を説得しようとする。



4、僕はそれを断り続ける。



5、3番4番を無限ループ。



っと、こんな感じだ。

というわけで、今僕たちは説明でいう3・4番を永遠と繰り返している状態です。


(・・・って、誰に説明してるの僕?)


僕がそんな事を考えている間も、エレーナさんは僕に“勇者”をやらせようと必死になっている。



「カエト君が“勇者”やってくれたら、格好いい衣装とか剣とかあげるから!、魔王の居場所教えてあげるから、何だったら今すぐ魔王の所まで送ってあげるからー。だからお願い!!!!」



あんまり嬉しくない条件ばっかりだ。

最後に至っては、もう僕に死んでこいって言ってるようなものじゃないか!。

そもそも、



「・・・そもそも、こんな条件で引き受ける人なんていないよ!!。とにかく、僕は絶対やらない!!」



僕はエレーナさんにツッコミを入れつつ、エレーナさんの話を断った。

エレーナさんは悔しそうに唸ると、突然怒りだした。



「これだけ言っても分かってくれないの!!。だまって“勇者”やりなさい!!」



「ぜ・っ・た・い・い・や・だ・!」



僕とエレーナさんはお互いの顔を睨み合った。

しばらく睨み合っていると、エレーナさんはプイッとそっぽを向いて言った。



「いいわ、よーーーくわかったわよ。」



そう言って、エレーナさんは僕の顔を見て、呆れた様な顔でため息を吐いた。

僕はそんなエレーナさんをみて、スッと表情を和らげた。


(お、もしかして分かってくれた?。)


僕は一瞬そう思ったが、エレーナさんは僕の期待を簡単に打ち砕いた。



「それじゃあ、何でも願い事かなえてあげる。だから“勇者”やって?」




・・・はぁ。

一瞬でも期待した僕が馬鹿だった。


僕はそれを聞いてうなだれた。



(一体どうすれば諦めてくれるんだろう・・・・)



僕がうなだれながら考えを巡らせていると、エレーナさんが僕を見ながら小声で言った。



「・・・“ケンタ君”はすぐOKしてくれたのにな(ボソッ)」



僕はエレーナさんの言葉を聞き逃さなかった。



「“ケンタ君”って?」



僕がそう言うと、エレーナさんは「えっ!?」という顔で僕を見てきた。

なんなんだ、人を化け物を見るような目で見て。



「・・・聞こえた?」


「それはもう、しっかりと。」



エレーナさんは一つため息を吐き、「しまった~地獄耳だったんだ」と言ってうなだれた。

ちなみにコレもボソッと言ったのが聞こえた。


「誰なのさ、“ケンタ君”って」


エレーナさんは顔をあげ、淡々と告げた。


「“ケンタ君”って言うのはね、私がカエト君に話した勇者の話で出てきた人で、カエト君の一世代前の勇者やってた人よ。」



へ~、あの人ケンタって言う名前だったんだ~。



・・・

・・・・

・・・・・・え?



ちょっと待った。



「エレーナさん。ケンタって人があの話の勇者なら、もう魔王は倒してるんじゃないの?」



僕がそう言うと、エレーナさんは顔を曇らせて言った。



「私もそう思ってたんだけど、ケンタ君は・・・・魔王にとどめを刺してなかったのよ。」



僕は「何でケンタさんはとどめをささなかったの?」と聞くと、エレーナさんは言った。



「ケンタ君は・・・優しすぎたのよ。」


「え?」



僕がそう言うと、エレーナさんは語り始めた。



「彼はね、確かに魔王と戦って勝利を勝ち取った。そして、「魔王を始末した」とケンタ君は私に報告してくれた。もちろん、私はケンタ君の言ったことを信じてケンタ君を自由にしてあげたの。

私はその時思ったわ、(ああ、やっとこの世界は平和になる)って。

でも、その平和はケンタ君が生きている間だけだった。ケンタ君が死んでからすぐ、また魔王が現れて魔物たちが暴れ出したの。

始めは新しい魔王が現れたのんだと思っていたけど、魔王は確かに言ったの


「フハッハッハッハッハッハッ!!。バカ勇者はもういない、あやつまんまとだまされおって。今再び我の時代がやってきたのだ!!」っと。


私はその時やっとカエト君が魔王を始末していない事に気づいた。ケンタ君はすでにこの世を去っていたから私自ら魔王を始末しようとしたの。

でも、魔王は前とは比べものにならないほどの強大な“魔力と力”を手に入れていたの。」



エレーナさんは悔しそうにグッと手を強く握った。

手のひらに爪が深く刺さって、そこから真っ赤な血が垂れていた。

それでも、エレーナさんは語るのをやめなかった。



「私は・・・何も出来なかった・・・・全く歯が立たなかった!。

私は自分を責めたわ。私がもっと速く気づいていれば!、手がつけられなくなる前に始末出来ていれば!、私はボロボロになりながらも魔王から逃げたの。魔王は追っ手を差し向けてきたけど何とか追っ手を振り切って逃げたの。そして、探し続けた、魔王を倒せる・・・勇者を。」



そして、エレーナさんは僕を見て言った。



「魔王に負けない・・・強い心を持った勇者を」



エレーナさんはゆっくり僕の方に近づいてきた。

そして僕の目の前まで来て止まった。



「お願い・・・勇者になって。貴方しかいないの。」



エレーナさんは胸の前で両手を握り、祈るように僕に言った。


(・・・そんな話聞いちゃったら、断れないよ)


僕はちょっと間をおいてから静かに頷いた。

すると、エレーナさんはパアッと顔を輝かせて僕の両手をとった。



「ありがと~、ホントにありがとう!、もう断られたらどうしようかと思ったわ!!。」



そう言いながら、僕の手をブンブン上下に振り回した。



「ちょっ!!、やめっ!、もげる!、もげるって!!!」



僕は必死に声を上げるが、エレーナさんは手を振り回すのをやめてはくれなかった。


   腕ごともってかれる!!


僕がそう思った瞬間、聞き慣れた声が聞こえた。


「おい、その辺にしといてやれよ。カエトの腕が無くなっちまうぞ」


その声を聞いて、エレーナさんはやっと僕の手を振り回すのをやめてくれた。


   た、助かった~。


僕はその場にへたり込んで座って、声のした方を見た。

そこには、ガルトがテントの前で仁王立ちしていた。



「た、助かったよガルト。」



僕がそう言うとガルトは右手を挙げて頷いた。

そして、ガルトは大きなあくびをした。



「ガルト君、もしかして起こしちゃった?」



エレーナさんは申し訳なさそうにガルトにそう言うと、ガルトはまた大きなあくびをした。

そして、足を伸ばしたり屈伸したりしながら言った。



「少し速く目が覚めちまっただけさ。」



そう言ってガルトは、そのまま柔軟を始めた。

エレーナさんは柔軟を始めたガルトの背後にまわった。



「手伝うね」


「おう!、ありがとな」



そして、二人で柔軟を始めた。


・・・お似合いだな~。


僕は二人を見て自然と顔がニヤケてしまった。

すると、エレーナさんが僕の顔を見て不思議そうに言った。



「何でニヤケてるの?カエト君」



僕は「何でもないよ」と両手を振ってごまかした。

もし、僕が思っていたことをそのまま言っていたら、冗談じゃすまなかったと思う。

特に、エレーナさんとか、エレーナさんとか・・・。

僕はそんなことを考えながら、さっきエレーナさんと話していた事を思い返した。


(僕が・・・勇者か)


僕は、改めて自分が引き受けたとんでもない事を心の中で呟いた。



「僕なんかに・・・“勇者”が務まるんだろうか・・」



僕は誰に言うでもなく、ただ空を見上げながら呟いた。





*****





「すごくおいし~~!!」



エレーナさんは料理を食べながら突然そう叫びだした。

僕たちは今、ガルトが採ってきた“跳ねる果実ジャンピングフルーツ”という果物とエレーナさんがどこからか捕ってきた(と言うより連れてきた)“土竜鳥モグラドリ”という珍獣を使った料理を食べていた。

エレーナさんは“モグラドリ”を料理するのをすごく嫌がっていたが、ガルトがすごい時間を掛けて説得すると、何とか納得してくれた。


僕はその間、ガルトが捕ってきた“ジャンピングフルーツ”をがんばって切り分けていた。

この果実、見た目は普通のリンゴみたいだったのだが、切り分けようとすると、突然僕から逃げるように飛び跳ね始めて、捕まえるのが大変だった。

どうすればいいかガルトに相談してみると、“ジャンピングフルーツ”を調理するアドバイスをいくつかくれた。

早速言われた通りに試してみると、驚くほど簡単に調理出来ました。


説得を終えたガルトは“モグラドリ”を軽く調理して、僕が切り分けた“ジャンピングフルーツ”をお皿に盛りつけて朝食は完成した。


エレーナさんは最初こそ食べるのを嫌がったが、僕とガルトの食べている姿を見て「やっぱり私も食べる~!!」と言って食べ始めた。



「ホントにおいし~!!」



それからずっとこんな調子だ。

自分の料理を褒めてもらっているガルトはエレーナさんのそんな姿を見て満足そうに笑っていたが、僕としてはもう少し静かに食べて欲しかった。

すると、朝食を食べ終えたエレーナさんがテントの入り口付近まで行って、帽子とマントをテントの中に放り投げた。

バサッと音を立ててテントの中に放り込まれた音を聞いて、僕とガルトは音のした方を見た。


「「!!!!」」


僕とガルトは絶句した。

エレーナさんがテントの前で上着を脱ぎ始めていた。

さらにズボンに手を掛けて・・・って。



「な、なにやってんのさ!」



僕がそう言うと、エレーナさんはくるっとこちらを向いた。

エレーナさんはすでに上着を脱いでいたので、上は下着一枚の状態で、ズボンのボタンを外しに掛かろうとしていた。

僕は、それを必死で止めた。

すると、エレーナさんが不思議そうな声で言った。



「なに?、一体どうしたの?」



そう言ってエレーナさんは僕の方に歩み寄ってきた。

僕は慌てて背を向けた。

すると、エレーナさんは僕の目の前に回り込んで来た。

僕はエレーナさんを見ないように両手で自分の目隠しをした。

そして、大きな声で言った。



「と、とにかく服着て!!!」



僕がそう言うと、エレーナさんの足音がどんどん遠ざかって行った。

僕はエレーナさんの足音がしなくなってから目隠しをとった。

とりあえず大きくため息を吐いてガルトを見た。

ガルトは、顔を真っ赤にさせて頭からすごい量の煙を出しながら硬直していた。



「・・・・・・大丈夫?」



とりあえず声を掛けてみたが全く反応がなかった。

僕はガルトの目の前まで行って、軽く揺すってみたりほっぺをペチペチ叩いてみたが全く動かなかった。


・・・ダメだ。

ショックが大きすぎてフリーズした。


僕はガルトの事を諦めて大人しく自分がいた石の上に戻った。

それとほぼ同時にエレーナさんが上着を着てテントから出てきた。



「何を考えてるのエレーナさん!!!気でも狂った!?」



僕がそう言うとエレーナさんは口をへの字にして言った。



「だってこれから“お風呂”行こうと思ってたから・・・。」



僕はそれを聞いてちょっと驚いた。


お風呂だって?

あったんだこの世界に・・・。


僕がそう考えていると何を勘違いしたのか、エレーナさんは「ああ、そっか」と言って僕とガルトを見た。

すると、エレーナさんはテントの中に入っていき、自分の帽子を持って戻ってきた。



「ちょっとまってね・・・・・・あった!」



そう言って帽子から何か取り出した。

よく見ると、タオルと洗面道具が二式。

それを僕とガルトに渡し、意気揚々とエレーナさんが言った。



「それじゃあ、みんなでしゅっぱーつ!!」



「えーーー!?。何でそうなるの!?。」



するとエレーナさんはきょとんとした顔で言った。



「何でって、一緒に行きたいんじゃないの?」



「いやだから、何で混浴覚悟なの?。そもそも、僕が聞きたいのは何でいきなり服を脱ぎだしたのかって事なんだけど。」



僕がそう言うと、エレーナさんは「あ~そういうことね」と言ってから堂々と言った。



「私が気にしないからよ」



うわぁ、さすが神様。

考えてることが全く理解できない。

僕がそう考えていると、エレーナさんはそのままもう一言付け加えた。



「それに、カエト君もガルト君もやましいことしないって分かってるもの。」



どこからそんな信頼と自信が・・・。

まあ嬉しいけど。



「それでも、僕たちの前で服を脱ぎ出すのはどうかと思うけど・・・」



そう言うとエレーナさんは、テントの方に行きながら言った。



「だって、もしお風呂中に服が無くなったら嫌じゃない?。だから、二人がいる此処に置いていく方が私の服は安全じゃない。」



なんか、もっともらしい理由を言っているようだけど・・・何かちょっとおかしいような気がする。



「そう言うわけで」



すると、エレーナさんはまた上着を脱ぎ始めた。



「だからちょっと待って!!。ガルトも黙ってないでなんか言ってや・・・・」



僕がそう言いながらガルトの方を見た。

ガルトはすでに顔を真っ赤にさせて倒れていた。



「わーーーー!。ガルトしっかりして!!!!」



結局、ガルトが倒れてくれたおかげでその場は収まった。

その後、ガルトは何の問題もなく気がついて、当初の予定道理“セガン”に向かった。





*****





あれからどの位歩いただろうか。

僕たちは今“セガン”を目指してひたすら歩いているが、一向に街が見えてこない。



「ねえガルト、まだ着かないの?。そろそろ休憩したいんだけど。」



僕はガルトにそう言うと、ガルトは赤光を放っているコンパスを見ながら言った。



「まあそうぼやくなよ。まだ“セガン”は見えてこないが、このまま歩いてれば今日中には絶対にたどり着く。」



ガルトはそう言ってるが、僕は本当にこんな調子で街なんかに着くのか心配でならない。

それも、



「ZZZZZzzzzz」



僕に引っ張られてるエレーナさんのせいだ。




*****




何で僕がエレーナさんを引っ張っているかというと、突然エレーナさんが「私寝るから運んで」と言って睡眠を取り始めたのだ。

しかも、魔法でフワフワ空中に浮いた状態で・・・。

僕は始めこそ驚いたが、ガルトになだめられて何とか落ち着いた。

それから、ガルトに「何があってこうなった」と言われたのでエレーナさんに言われたことをそのままガルトに伝えると、ガルトは「そうか・・・まあ、がんばれよ」とだけ言って先に歩き始めてしまった。



「ま、待ってよガルトっ」



僕は、エレーナさんの足に片手を引っかけて、そのままガルトを追おうとした。

でも、エレーナさんは動かなかった。

まるで、何かに引っかかっている様な感じで。



「が、ガルト。エレーナさんが動かないんだけど・・・」



僕がそう言うとガルトは右手の人差し指を下に向けて上下に動かした。



「えっ?・・・下?、下に何かあるの?」



僕は自分の足下を見てみた。

すると、僕の右足の付け根あたりに、なにやら黒い物が巻き付いていた。



「何これ?」



僕は黒い物をたどってみることにした。すると、それは宙に浮いているエレーナさんが地面に作っている“影”から伸びていた。

訳が分からない。

一体なんなんだ?。

僕は、ガルトに聞いた方が早いと思い、ガルトの後を追いながら言った。



「ねえ、ガルト。この黒いのっていったい何なのっ!!!(ビタンッ!)」



僕はガルトの後を追って歩き出して見ると、突然何かに引っ張られて、僕はすごい勢いで地面に倒れ込んだ。

僕は顔を押さえながら立ち上がった。



「いててて、・・・なんだ?、誰だ!?」



僕は辺りを見渡して見たが誰もいない。

何かにつまずいたのかと足下を見てみたが、何もない。

あるのは、僕の右足にからみついている“影”だけだ。



「蹴躓いただけかな。」



僕はそう考えてまた歩き出そうと右足を前に出そうとした。



「・・・あれ?、フッ!、よっ!、おりゃっ!」



しかし、右足が全く動かない。


・・・なんで?


僕は右足を見てみた。

すると、右足にまとわりついてた“影”がピンッとまっすぐ伸びていた。

僕は、もう一度右足を動かそうとした。

すると、影が少し動き、その動きと一緒に宙に浮いてるエレーナさんも動いていた。



「もしかして・・・これって・・・」


「たぶん、お前の思ってる通りだ」



いつの間にか僕の後ろまで戻ってきていたガルトが、僕の右肩をポンッと叩き、哀れむように言った。

僕はそのまま大きなため息を吐いてうなだれた。




*****




と、言うわけで僕はヘトヘトになっていた。



「はぁ、・・・疲れた」



僕はガルトに休憩をとらせてもらっていた。

あんなに重い物を運んだのは生まれて初めてだ。


(全く、どうなってるんだ“魔法”。便利だったり不便だったり)


僕は休憩しながらそんな事を考えていた。

すると、ガルトが僕に水筒を差し出してきた。

僕は「ありがとう」と言って水筒を受け取って、そのままグビグビと水筒の中身を飲み始めた。

う~ん、冷たくておいしい。

ただの水なのに、なぜかいつもよりとてもおいしく感じた。

僕はそのまま水筒の中身を飲み干し、プハァ~と声をだしてから水筒をガルトに返した。

すると、ガルトは驚いたような訝しむような顔をして、水筒を受け取った。



「・・・なあ、カエト。・・・何ともないか?」



???、何のことだろう。

僕は答える代わりに首をかしげて見せた。

すると、ガルトは慌てた様子で言った。



「い、いやー。・・・ははは、ちょっと待っててくれよ。」



そう言ってガルトは水筒を鞄にしまうと、そのまま少し僕から離れて、鞄の中をガサゴソと漁り始めた。

何を探してるのか分からないが、なかなか見つからず鞄につっこんでいる腕が大きく左右に動かされている。

しばらくしてからガルトは目的の物を見つけたのか、顔を明るくさせてから鞄を地面に下ろした。

そして、鞄に両手を深く突っ込んだ。



「おっ、いたいた。・・・せ~のっ!」


「えっ?何?」



僕は、突然声を上げたガルトにそう言って聞き返した。



「よいしょっっっと!!!」



するとガルトはかけ声とともに鞄から“何か”を引っ張り出した。



ブォヒヒィイイイインッ!!



「えっ!?、牛!?」



すごい鳴き声を上げながら、鞄から牛が出てきた。

・・・いや、馬かな?。

よく分からないけど、ガルトの鞄から・・・牛?、馬?・・・まあ、とにかく!、ソレが出てきた。

ガルトは、鞄から取り出したソレを地面に下ろし、そのまますごい勢いで首をなで始めた。



「よーしよしよしよしよし、元気だったか?、・・・ははは、くすぐったいからやめろよ。」



ガルトがそう言いながら、それを撫でるとソレはガルトの顔を何度か舐めた。

僕は、鞄から出てきたソレとじゃれ合うガルトを、ただ唖然としながら見ていた。

すると、ガルトがこっちを見ていった。



「カエト。紹介するぜ、俺の相棒の“スード”だ。」



ガルトがそう言うと、ソレは馬の嘶きのような鳴き声を上げ、返事をした。


・・・やっぱり馬なのかな?。


僕はとりあえず、聞いてみることにした。



「ねえ、ガルト。・・・ソレ何なの?」



するとガルトは、ソレの顔の横辺りを撫でながら言った。



「こいつは“馬鬼うまおに”って生き物で、比較的温厚な性格な“馬”だ。」



・・・やっぱり馬なんだ、これ。



自分の中でまたひとつ、どうでもいい疑問が解決した。

って、こんな事言ってる場合じゃない。



「それで、何でまたそのスードってのを出したの?」



・・・え?、鞄から馬が出てきたことは良いのかって?。

そんなの聞いたところで余計混乱するだけさっ!。

それに、こういう事にもう・・・慣れた。

僕は、そんな自分にため息をつきつつ、ガルトの説明に耳を傾けた。



「スードに乗れば、今までの倍以上の速さで進める、何せスードだからな!。それにカエトがスードに乗れば、カエトは歩かなくてもいいから大分楽になると思ってな!。」



そう言ってガルトはバシバシとスードの背中辺りを叩いた。

するとスードは、それに答えるように鳴き声を上げた。

確かに、僕がスードに乗れば僕自身も楽だし、ガルトも自分のペースで進める。

まさに一石二鳥!。

でも、



「でもガルト。そのスードって、一人しか乗れないよね」



僕はスードを指差しながらガルトにそう言った。

すると、ガルトは片手を僕の方に出して、人差し指を立てて、左右に振った。



「カエト、甘いな。俺がその事を考えに入れてないわけないだろう。」



なんだ、ちゃんとガルトも乗れるように考えてあるのか。

それなら安心だ。

僕がそう思っていたら、ガルトはとんでもない事を言い始めた。



「俺はスードと同じ速さで“走る”!!」



・・・えええぇぇええええぇぇぇええええ!!



「ガ、ガ、ガルト!。何考えてるの!?」



僕は思わず驚愕の声を上げた後、ガルトにそう言った。



「大丈夫だって、置いてったりしないからよ」



何を考えてるんだこの人は!!。

普通の人が馬と同じ速さで走る!?。しかも、抜かす気満々で!?。

あり得ない・・・。

僕が顔を引きつらせているのを見て、ガルトは言った。



「心配すんなって。俺のことより、自分の心配をした方が良いぞ」


「なんで?」



僕がそう聞き返すと、ガルトはスードの背中にかばんと剣を乗せながら言った。



「俺の勝手な予想だけどよ。お前、馬に乗ったこと無いだろ。」



僕は黙って頷くと、ガルトは「やっぱり」と言わんばかりの顔をして言った。



「んじゃ、そんな心配より、馬の乗り方の方が先だろ。」



僕はそれを聞いてちょっと不安になってきた。

ガルトがそこまで言うんだから、きっと大変な事なのだろう。

僕は気を引き締めて、ガルトに言った。



「そうだねガルト。 僕もがんばるから乗り方を教えてよ」



僕が意気込んでそう言うと、ガルトは言った。



「おっ、やる気満々だな。よし!まずは、カエトがどれくらい見込みがあるか見る。試しにスードに乗ってみろ。」



そう言ってガルトは手を大きく振って、僕に「こい!」と手招きした。

僕は、小走りでガルトとスードの方に駆けて行った。



「わぁ~。思ってたより大きい・・・」



僕はスードの真横に来たときそんな感想を言っていた。

そして、近くに来てもう一つ気づいたことがある。

・・・すごい見てる。

スードは僕の顔を穴が空くほど見つめてきている。

スード自身も何をされるか分からず、不安なのかもしれない。

僕は、スードに見られながらも背中に乗ろうとしたが、どうしても上れない。

そんな僕を見かねて、ガルトが僕の背中を押して手伝ってくれた。

そして、何とかスードに跨る事が出来た。

その瞬間。



ブルヒヒィィィイイイイン!!



突然スードが前足を高く上げて、鳴き声を上げながら暴れ出した。

僕は、そのまま背中から転げ落ちて、地面に尻餅をついた。

するとスードが、僕の方を向いて前足を高く上げ、そのまま僕の上に・・・振り下ろされなかった。

ガルトがギリギリのタイミングで僕とスードの間に入ってくれた。

するとスードは前足をゆっくり僕の真横に下ろして大人しくなった。

僕はホッとしてガルトにお礼を言おうとしたらガルトが僕の方を見ていった。



「全くダメだ。才能の欠片もない」



ガルトはため息を吐きながら、さらに続けた。



「スードが振り落とした事もあるが、あっという間に背中から落ちてたら命がいくつあっても足りないぞ。」



僕は尻餅をついたまま、がっくりと顔を伏せた。

するとガルトが僕を慰めるように言った。



「心配すんな!、始めはみんなこんな感じだ。俺がしっかり教えてやるから」



ガルトはそう言って僕に手を差し伸べてくれた。

僕は顔を上げてその手を掴み、立ち上がった。



「それじゃ、特訓始めるか!!」


「うん!」



こうして僕の乗馬の訓練が始まった。









どうも、脈絡の無い文で有名な蛇炉です。


今回久々の投稿になってしまいました。


・・・テストに追われてたんです。


テストまみれだったんです。


しかもまだ“期末”も残ってるんです。


なので、次の投稿も遅くなると思うのであしからず。


なるべく早めに次話投稿いたしますので、どうか見捨てないでください(泣)

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