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才色メイドと完璧主人  作者: 赤染 ルカ
5/8

何だ、彼女か。


「は…?」


俺は、柴崎の思わぬ言動に嘆息した。


「だからね、竜輝様と琴音様、付き合ってるんでしょう?」


大声で叫ぶ柴崎の口を俺は手で塞いだ。


「ん…んん!!!」


何か言いたげそうに眉をひそめる柴崎。


さっきの言葉で、クラス全体の視線が俺らに集まる。


密かに聞こえる話し声は、俺と琴音の話だけだった。


「何、大声で言ってんだよ!!馬鹿野郎」


「ぷはっ!だ、だって、昨日キス…」


俺は、また柴崎の口を手で塞ぐ。


今、ちょうど琴音はトイレ言ってるから良いが、


クラスで噂になってしまう。


俺は、純粋に単純に普通の生活を送りたいのに…


「来い!!」


俺は、ここで話すのも、難だと思い、柴崎を廊下の隅に連れて行った。


「お前、ちょっとは場の事を考えろよ。あんな、人がいっぱいいる教室で恋愛話するなよな」


「そ、それはすみませんでした」


柴崎が素直に謝ったもので俺は、少し驚く。


「で、でも!!!竜輝様と琴音様付き合ってるんですよね?それはハッキリ答えて下さい!!」


「…」


付き合ってる?って聞かれたら付き合ってないんだろう。


単純にキスとか愛してるとか言っただけで、付き合ってることなのだろうか?


俺は頭を悩ませる。


どこからが恋人でどこからが恋人じゃないのかが分からない。


恋愛経験豊富じゃないし。


「付き合って…ない?かな」


「じゃあ、何で昨日…キスしていらっしゃったのですか?あの場では、私、促したけれど、やっぱり腑に落ちませんわ」


昨日は、あのまま、俺と琴音は帰った。


柴崎もキスについてそこまで聞いてこなかった。


「好き…なのですか?」


柴崎は、目を潤ませて聞いてくる。


好き…


そういう感情を俺は琴音に抱いているのだろうか。


そりゃあ、琴音を見てたら、なんか胸が痛くなるし


ドキドキする。


けど、これが恋というものなのだろうか?


「分からない」


曖昧な返事に柴崎は、さらに目を潤ませる。


「でも、例え好きだとしても、メイドと主人の恋なんて報われるはずもないですよね」


直球に突き刺してきた柴崎の言葉は、俺を深く締め付ける。


そうだ。


元々、メイドと主人が、キスしあうのも間違っている。


そりゃあ、主人が遊び人だったら別だが、本気なら、きっと許されないだろう。


柴崎は、何かを決意したかのように俺を真っ直ぐに見つめた。


「私じゃ、駄目なのでしょうか」


思わぬ言葉に俺は、唾を呑んだ。


柴崎は真剣な眼差しで俺を見る。


胸が締め付けられて息が苦しくなる。


こんな俺は不甲斐ない。


琴音にもキスしておきながら、柴崎までもをはぐらかそうとしている。


俺は自分の心を落ち着かせるかのように柴崎の頭に手を乗せた。


「俺は、誰も好きにならない。これで良いだろ?俺は恋愛なんて興味ないから」


嘘をついた。


本当は、恋愛したいって思っていた。


今まで、親に自由を奪われただ只管、勉強して、


周りの他人たちが、彼氏や彼女と遊んでいるのを見て、羨ましい一面もあった。


俺は、切なげな気持ちになる。


「じゃあ…」


柴崎は、俺の肩に手を回して、


「私にも昨日みたいなキスして下さい」


俺は、あまりにも馬鹿らしい発言に呆れる。


「ふざけるな。お前、本当に俺の事好きでもないのに、そういう事言うな」


柴崎は、目を見開いて、


「本当に好きじゃないですって!?私は、いつでもあなたが好きでしたわ!!出会ってから2週間程しかたってないけれど、好きになるには十分すぎです」


「あのなぁ…軽々しく好き好き言うなって」


俺がまた、面倒くさそうに言うと、柴崎は、俺の足を思いっきり踏みつけてきた。


「もう知りません!!!勝手にイチャイチャしてなさいよ!!報われない恋を存分に味わいなさい!!!」


柴崎は足早に去っていった。


何なんだ…俺は、ハァ…と溜息をつく。


何か命令文だし。


「分かってるよ…報われない事ぐらい」


俺は、小さく呟いた。


冷たい壁にもたれかかっていると、誰かが、俺の肩を叩く。


後ろを振り返ると、笑顔の琴音がいた。


「教室に帰ってもいないから、探しましたよ。購買でパン、買って来ましたから、屋上行きましょう?」


微笑む琴音は、いつもより輝いて見えた。


そして、俺は胸が痛くなる。


俺は、琴音の事を好きなのか。


俺は、琴音をじっと見つめる。


「何ですか?」


「いや…何もない」


不思議そうな顔をして、また、すたすたと歩いていく。


ほのかに匂う琴音の良い香りが昨日の場面を脳裏に甦らせる。


たとえ、叶わない恋だとしても、好きならば突き通すものなのか?


「どうしたのですか?竜輝様」


屋上に着き、琴音は、不安そうに俺の顔を覗く。


「いや…」


「いつもなら、屋上に来たら笑顔になるのに…」


ボトッ


琴音は、パンの入った紙袋を落とす。


「琴音…?」


「今日の竜輝様は、気分が良くない様です。理由を話して頂けますか?私だけが、助けられてるみたいで嫌なので…」


琴音は、苦笑を描きながら、俺の手を掴んだ。


そうだ。


俺は、琴音が好きなんだ。


最初にあった刺々しい琴音はもういなくて。


まるで琴音の本音を覆っていた殻が割れたかのように、優しい表情が多くなった。


本当の琴音は優しくて、儚くて、鈴のように可愛くて、


守ってあげたくなる。


いや、俺が守られているのかもしれないけれど。


ハッキリした答えが分かったような気がした。


昨日のキスのときも俺はハッキリと分かっていた。


本当の俺の心を。


「付き合おう」


この言葉に琴音は相当驚いているようだった。


頬が真っ赤になっていく。


「あ、あの…付き合うって…」


「彼氏彼女になるってこと」


俺はキッパリと断言する。


琴音はあたふたして、


「え、で、でも…」


「俺が、琴音と、そういう関係になりたいんだって」


俺は、強引に琴音に抱きつく。


「でも、私は使用人の分際で…」


「俺、このままの関係だったら、手出ししようが無いじゃん。俺、昨日なんでキスしたんだよ。お前に。」


琴音も、俺の背中に手を回す。


そして、少し微笑んだ。


「私を女性として見てくれると思って良いのですか?」


俺は、コクンと頷く。


「当然だ」


すると、琴音はさらにキツく抱きつく。


「大好き…。竜輝様…」


「二人っきりの時は竜輝で良いから。俺、メイドとして琴音を好きなんじゃないから」


「そ、そんな…」


「良いから。ほら、竜輝って言って」


琴音は、目に涙を浮かばせて、


「竜輝…」


「琴音っ」


俺は、また、そう言って、琴音の柔らかくて艶やかな唇に俺の唇を合わせた。


目を瞑っている琴音は、メイドとしての琴音じゃなくて、女性の琴音で。


昨日交わした甘く噛むようなキスじゃなくて、優しいキス。


誓いを立てるかのように、求め合う。


琴音の手が小刻みに震えている。


俺は、またその白く透き通った綺麗な手を掴んだ。


恋人繋ぎで。


甘く漏れる琴音の声は、キスしている事を実感させた。


長くて深いキスは、俺たちの気持ちが本当に通じ合った印だった。


俺たちを隔てる壁は、俺が絶対に壊してやるから。


俺はそう、心に決めた。




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