何だ、辛いのか。
「神高様、霧生様。ご到着致しました。」
執事が、車のドアを開け、琴音に手を差し出す。
車を降りて俺は一息つく。
…
くっ…琴音から、すっごい良い匂いするんですけどー!?
車の中では、理性を押さえつけるのに苦労した。
こんなに、俺は、飢えていたのか…
俺の理性が狂いそうだ…
俺は、手を額に当てて苦しんでいるかのようにもがいた。
「あの。大丈夫ですか?竜輝様」
琴音が俺の顔を覗く。
なんか、
よく見たら化粧してるし!?
「あ、あぁ。大丈夫だ」
俺は、目を逸らし、柴崎の家のインターホンを押した。
『はーい。いらっしゃい。竜輝様』
ガチッと扉の鍵が開く音がした。
「お邪魔します」
入ると、メイドがズラッと並んでいた。
「神高様と、霧生様ですね。さぁ、こちらの控え室へどうぞ」
俺たちは、誘われるがままに入っていく。
そこには、ぎっしりとドレスとスーツが並べられていた。
「いらっしゃぁぃ!今日は、あなたたちだけに、ドレスをオーダーメイドさせて頂いたわ。この中からどうぞ自分の好きなのを選んでください」
柴崎は、裏口から入ってくるなり、手を合わせて言う。
「お、おう…」
俺は引き目で、スーツを見ていった。
琴音も俺に続いてドレスを見る。
俺は、すぐにスーツを手に取り、更衣室に向かった。
「更衣はココか?」
カーテンで分かれている部屋があった。
「そうです」
柴崎は、微笑ましい笑顔で言った。
琴音も、俺が更衣室に入ったのを見て、慌てて、ドレスを手に取り、もう1つの更衣室へ向かった。
「あ、琴音様。私が着せてあげますわ。そのドレス、着にくいと思うので」
「あ…ありがとうございます」
琴音の更衣室に柴崎も入っていく。
「あっ…やだ」
「大人しくしてください!!!」
「そ、そこは。。ダメです…」
琴音の喘ぎ声が密かに聞こえてくる。
何してんだ。アイツらは…
俺は、溜息をつき、チャッチャとスーツを着た。
「まだかー。琴音」
「も、もう少し…で…す。あっ…ちょっと待って…くださ…いぃ!!」
あ、やば。
鼻血…
俺は、ポケットからティッシュをそっと取り出した。
いけないいけない。
思わず妄想してしまいそうだった。
ただ、着替えているだけだろうが。
まったく、俺はそんなに、愛に飢えているのか?バカらしい。
「お待たせ…しました」
琴音は優雅なドレスで登場する。
「素晴らしいわ!!琴音様ったら、スタイルも完璧で、胸もそこそこ…」
柴崎は、手で表現しようとする。
俺は、柴崎の頭をコツッと叩いた。
「イタッ!!何するのですか!!」
「黙れ」
呆れた風に俺は呟いた。
「あの…竜輝様。どうですか」
琴音に似合わない発言に俺は、驚く。
しかし、俺は、素っ気無い振りをして
「まぁまぁじゃないか」
「はい…」
琴音は少し拗ねた顔をした。
俺は、少し可哀想に思ったのか、俺の手は、琴音の手を握っていた。
本当は、物凄く綺麗だ。
赤いドレスで、まるでどこかの国の女王のようだ。
琴音は、驚いた様子を見せて、微笑んだ。
「行きましょう」
俺は、頷いて、パーティーがある会場へ向かった。
パーティー会場は、思わぬ広さだった。
外から見たら、この家は、普通の家の5倍程度だったが、しきりがないせいか、広く感じた。
もうすでに、祝福の音楽は流れており、祝いに来た客達は、ワインを飲みながら優雅なお喋りをしていた。
「どうですか?私も着替えてきました」
後ろから、声が聞こえ、振り向くと黄緑のドレスを着た柴崎がいた。
さっきとは一手変わった大人の女性の雰囲気を出している。
「良いんじゃないか」
俺は、呟いた。
すると、柴崎は、照れた顔から、いきなり満面の笑顔になり、俺に抱きついてくる。
「竜輝様!!大好きですっ」
「だ、抱きつくな…」
俺は、すぐに、柴崎から体を離す。
琴音と繋がっていた手も離れていた。
琴音は、不安そうに俺を見つめた。
何だ…。この可愛い物体は!!
俺はすぐに、また手を結ぼうとしたその時…
「おぉ。そこにいるのは琴音じゃないか。いやぁー久しぶりだな」
そこには、まさに貴族といった様な、男が立っていた。
30代程度の赤いスーツを着た男。
その男を見て、琴音の血の気は去っていた。
「な、なぜあなたが…」
その男は、ははっと見下したように笑い、
「そんなの決まってるじゃないか。柴崎家のパーティーがあると聞いて来たのだよ。でも、まさか君がいるとはねぇ。まだメイドやってるのか?」
「まぁ…」
琴音は、その男を厳つい顔で睨んでいた。
どういう関係なんだ…?
「で、その隣にいる君は誰かね?」
「俺は…神高竜輝です。」
「おやおや。神高家のご子息か。で、何で神高家のメイドに琴音がいるのだ?」
「俺は、一人暮らしで、父様が付けてくれました」
嫌な雰囲気が漂っている中、柴崎は、仲に入って
「さ、さぁ!!あそこのケーキでも…」
「香織さんとは、あなたの事でしたか…。いやー、お美しい。琴音には敵わないがな」
柴崎は、怒りを込みあがらせる。
「失礼ね…。それが、主催者に対する態度?」
「柴崎…止めとけ」
俺は、柴崎の肩を止める。
「あんたの名前は…?」
俺は、睨んだ姿勢は変えずに呟く。
「いやー、申し遅れました。須藤 玲と申します。どうぞお見知りおきを」
「で、あんたは、何で琴音を?」
「いやいや。僕は、琴音の前の主人だっただけですよ」
「主人…?」
琴音に視線を送ると、琴音は自分の手を必死に握り震えていた。
「でも、あの時は、楽しかった。メイドとしては役に立たないが、遊び相手としては、申し分なくてね!!!ははは。まあ、すぐに飽きてしまったが。すまなかったね。すぐ捨てて。」
俺の胸に棘が刺さったかのように痛み出す。
遊び…。この言葉の意味は、すぐに分かった。
そして、許せ切れない感情がこみ上げてくる。
琴音の目には涙が浮かんでいた。
俺は、琴音の肩に手を回し、また、須藤に目をやった。
「こっから出て行ってもらえますか…?琴音を侮辱する奴は俺が許しません」
須藤は驚いた表情をして、また、あざ笑う。
「アハハハハ!何だね。君。琴音を守るというのか?こんな遊び相手にしかならないメイドをか?愛想悪い上に、性格も悪い。体だけは良いがな。」
「性格が悪いんじゃない!琴音は、自分の感情を表せれないだけだ。それが分からないなんて、須藤家も落魄れた物だな」
「な、なんと。俺に刃向かうというのか?馬鹿らしい。神高家ともあろう者がそんな事していいとでも…」
「何?俺が、須藤不動産、握り潰してやろうか?神高家は須藤家なんぞすぐに潰せる」
俺は、憎悪に満ちた目で笑った。
須藤は、青白の顔になって、すぐに出口へ飛んで行った。
俺は、出て行ったのを確認して、俺の胸にうずくまっている琴音の頭に手を乗せた。
琴音は、驚いた顔を見せたが、すぐに、また、泣き出した。
こんなに感情を出している表情は初めてだ。
「柴崎。部屋を用意してもらって良いか?琴音。落ち着かないみたいだから」
「わ、分かったわ」
柴崎は呆気に取られているような表情から、すぐにハッとして、使用人の方へ向かった。
使用人たちは慌てて、部屋の準備へ向かった。
「もう、すぐに準備はできますわ。部屋まで案内します」
「ごめんな」
「い、いえ…。もともと、須藤家には、良く迷惑を掛けられていましたから。スカッとしましたわ」
部屋に着いて、ドアを開けると、既に、準備されていた。
俺は、琴音をソファーに座らせて、柴崎に言った。
「ごめん。二人っきりで話したいから」
「あ、分かりましたわ」
柴崎は慌てて、部屋から出て行く。
俺は、一息ついて、琴音の横に座った。
「大丈夫か?」
まだ、琴音の頬は、涙で濡れていた。
俺は、上のスーツを脱ぎ、シャツの袖で琴音の涙を拭った。
「竜輝…様…」
「ん?」
琴音は、震えた言葉で俺の名前を呼んだ。
なんて、儚くて可愛いんだろう。
感情を露にしている琴音をなぜか俺は愛しく思えた。
「こわ…い…」
そう呟いた琴音は、俺の手を必死に握っていた。
「大丈夫だから」
俺は、琴音の前髪を手で上げて、小さく額にキスをした。
琴音は、目覚めたかのように、俺の背中に手を回して、きつく、強く抱きついてきた。
俺も、抱き返した。
「こんなに優しくしてくれるのは、竜輝様だけです。なぜ、ここまでしてくれるのですか?私は、使用人の分際なのに」
「なんか、ほっておけない。何でだろ…」
俺は、今になって不思議に思う。
そうだ。
俺がここまでする必要は無い筈。
でも…
悲しんでいる琴音を見ると、抱きしめたくなる。
「私の話、聞いていただけますか…」
琴音は、初めて、自分から話そうとしてくれた。
俺は、素直に、その言葉一つ一つを受け止めたいと思った。
「私は…こんな愛想の無いメイドとしても役立たずとして霧生家の端で生きてきました」
俺は、頷く。
すると、琴音は、小さく息を吸って、
「そして、私が与えられた道は、体をメイドとして売るという手段でした。私としても、こういう道は、物凄く反抗があったのですが、抗う道も無いまま、売られていきました。
売られて行く先は、いつも只、女性の体を求める男のみで、買われては一週間程で戻されの繰り返しで、色んな家を転々としてきました。もちろん、体を求められたときは、毎回反抗しました。けど、その度に無理やりされて、もう、どうしようもなくなりました。
だから、100人以上の主人を相手にしてきたのです。
しかし、100人以上とは、すごく恥じるべき事なのです。
普通なら、5人、10人程度が一般で。その程度が、良いメイドなのです。
買われた回数が多い程、そのメイドは、雑魚なのです。
買われて、良いメイドなら、その家でずっと居座るはずですから」
あまりにもシリアスな話に俺は、胸が痛くなる。
こんなに、琴音は追いやられていたのか。
「この性格をどうしろというのですか…直せるものなら最初から直していました。けど、やっぱり無理矢理脱がされるのは嫌です…。」
そして、琴音は、また涙を溢れさせて、小さく呟いた。
「愛されたいです…」
俺は、込み上げてきた思いをぶつけるかのように、琴音の唇に俺の唇を合わせた。
「俺が、これからお前を愛していくから…俺がお前をずっとメイドにしてやるから…」
琴音は、微笑んで、俺のキスに答えた。
甘く噛むようなキスは、琴音の寂しさを感じさせた。
琴音の辛さは、どれほどのものか。
俺が支えきれるものなのかは、分からないけど、俺が抱えれる分だけは、楽にしてやりたい。
「竜輝…様…」
乱れた息が俺をまた誘う。
「琴音…。大好きだよ…」
また、熱い口付けを交わす。
琴音の口の中は、甘くて頭がおかしくなりそうな程心地良い。
俺は快感に浸っているとドアの奥で小さな話し声が聞こえた。
俺はギョッとして、琴音の体を離し、慌てて、ドアを開けた。
バタッッ
「きゃぁぁぁ」
「うおお」
そこには、宮野と柴崎がいた。
「宮野…お前もか」
俺は、溜息をついた。
「いやぁ。すまんすまん。お邪魔したな」
「良いとこだったのに…」
俺はボソッと呟いた。
「何よぉぉ!琴音様だけズルいわ!!!私にも、キスしてぇぇぇ竜輝様ぁぁ」
柴崎は、口を尖らせて、俺の肩に手を回す。
「ふ ざ け る な!!」
俺は、柴崎の手をパチッと叩いた。
「いやぁん。もう!!竜輝様の意地悪~~」
「そうだぞ!!!琴音ちゃんは、俺のものなんだからな!!」
宮野も、ふんっと胸を張って言う。
「いつ、お前のモノになったんだ…」
俺は呆れ果てて、ため息をまたついた。
琴音は、騒がしい俺らを見て、優しい微笑みを見せた。
「ありがとうございます。皆さん」
俺たちは、その綺麗で儚げな笑顔に、頬を赤らませた。
「いいのよ」
「か、可愛いぞぉ…琴音ちゃぁん…」
柴崎と宮野は、顔を真っ赤にして照れ笑いした。
「良かったな」
俺は、琴音に微笑みかけた。
まだ、続きます(●´ェ`●)