何だ、このメイドは。
俺は、神高 竜輝。
生まれた時から俺は恵まれた生活だった。
大企業の社長の息子として生まれた俺は何不自由なく育てられてきた。
しかし、今日から俺は親元を離れて一人立ちする事になった。
東京の高校を見事主席合格した俺は、福岡にいる実家を離れて住むことになった。
42階建ての高級マンション。
その4101号室に住むことになった。要するに、41階の1号室だ。
俺は、胸を弾ませながら、家の扉を開けた。
「良い部屋じゃん」
4Lもある、この部屋を俺は一つづつ見渡した。
荷物は既に整えられているらしい。
バスルームも、心地良さそうだ。
俺の部屋は一番広い8帖の部屋だった。
リビングには、52型テレビも置いてあった。
しかし、唯一、不安なのが、料理だ。
俺は、文武両道ではあるが、家庭科だけはどうも苦手らしい。
まあ、近くにスーパーがあるし、適当に買うか。
実家では、メイドがついていたのだが、今回は手配できなかったらしい。
まあ、たまには庶民の生活を味わってみても良いか。
俺は、そう思い、唸っている腹を押さえつけた。
けど、福岡から東京という長旅のせいか、疲労が達し、眠気が襲う。
「新幹線より飛行機のほうが良かったかもな…」
新幹線で降りたとこから、このマンションまでは想像以上に遠かった。
タクシーを取ろうとも思ったが、今日の俺は運が悪いのか手配ができなかった。
もう少し、日常的な事を身につけなければ…
そんな反省をしながらも、俺はソファーにもたれかかり、眠りに付いた。
もう、誰もが眠りについている時間、突然インターホンが鳴り出した。
「こんな時間に誰だ…」
俺は、虚ろな体を立ち上がらせる事ができず、そのまま、また眠ってしまった。
眩しい光が俺の顔を照らした。
「ふぁあぁぁ…おーい、水ー」
乾いた咽を潤そうと叫んだが、誰も来ない。
当然だ。
「あ~、俺、一人暮らし始めたんだった」
だるい体を起き上がらせ、洗面所へ向かおうとすると、台所から水の音が聞こえた。
「…?」
俺は不振に思いながらも台所に目をやる。
そこには、見慣れない女がいた。
「…誰」
俺は、まだ頭がボーッとしているからか、今の状況がよく分からなかった。
よく見るとメイド服を着ている。
しかし、実家のメイドとはまた少し違う服だ。
しかも黒髪に薄い桃色の目。
何だこいつ。
普通メイドつったら、茶髪に茶色の目だろー。
実家が、そうだったせいか、俺はメイド=茶髪、茶色の目と認識していた。
てか、何で、俺んちにメイドがいるんだ?
親父は、手配できなかったって…。
「お水です。どうぞ」
そのメイドは俺に水の入ったコップを差し出した。
「あぁ、どうも」
俺は、とりあえず、落ち着こうと飲んでみた。
そして、一回洗面所で顔を洗って、もう一度、台所に行ってみた。
しかし、そこには、さっきと変わることなくメイドがいた。
朝ごはんの用意か…?
「おい。お前誰だ」
俺は、疑い気味で聞いてみた。
「霧生 琴音。あなたの専属メイドとして、あなたの父様から頼まれました」
霧生という苗字には聞き覚えがあった。
あ!!!
「霧生といえば、メイドを売ってる会社じゃん!!」
「はい。霧生家の長女です。お父様から、この仕事を承りました」
でも、霧生家のメイドは、美しく、そして華やか。才色兼備な女性ばかりで、海外からも人気があるとか、親父が狙っていたような…
良く見れば、こいつ。すごい顔整ってる…
透き通った白い肌に、艶やかな唇。鼻の形も綺麗だ。
こんなに美しい女性を見るのは初めてかもしれない。
「何でしょうか」
見た目は綺麗だけど、態度が気に入らないな。
なんか素っ気無いというか。
普通、メイドは、主人に向かって愛想よくするものだろう?
「お前。本当にあの霧生家の娘か?態度が悪すぎだろ」
「失礼しました。でも私、これでも今まで100人以上の主人相手にやってきました」
「ハァ…?」
何だ。100人以上って。メイドのプロじゃないか。
俺は目を疑った。
確かに、そんじゃそこらのメイドと比べたら外見は美しいが…。
「朝ごはんの仕度は整っております。どうぞ、こちらの席へ」
琴音は、リビングの中央に置いてあるテーブルに、料理を並ばせる。
確かに、料理の腕前はメイドだ。
まぁ、いっか。
これで、だいぶ、健康的には良くなるだろうが。
こんなメイドと、これから二人っきりで過ごしていくと思うと、
少し気が重い。
「学校はお供しますので」
「お供するって…。お前、車運転できないだろ?16歳ぐらいだろ?見た目から言うと」
「もちろん、電車です。私も、竜輝様と、同じ学校ですので」
「電車!?!?って、同じ学校!?」
同時に報告され、どちらに、驚けばいいのか分からなくなった。
「はい。竜輝様のお父様が、なるべく庶民の生活を味わうように。と仰っておりました」
庶民の生活を味わえ…?
あの糞親父!!!
俺は、これから、あんたの会社を受け継いでやろうってのに、庶民の生活なんか味わなくたって。
俺は、朝食も食べ終わり、制服を着ようとした。
「お待ちください。私が着せます」
「は…?さ、さすがにそこまでしてもらわなくても」
「あなたのお父様がそうさせろと」
「じゃあ、主人命令だ。俺で着れるから。そこまでしてもらう必要はない」
「かしこまりました…」
無表情のまま、琴音はその場に立っている。
「おい…」
「何か?」
「俺、着替えたいんだけど。」
女が男の着替えるとこを見るなんて聞いたことないぞ。
霧生家のメイドは変態なのか?
「失礼しました」
琴音は、部屋を出ていった。
着替えた俺は、鞄を持ち靴を履いた。
「いってきまー…」
「お待ちください」
琴音は、制服に着替えていた。
そして、何するかも分からずに琴音は俺の肩を掴み、顔を近づけてきた。
「え、ちょ!ハ!?」
俺は意味も分からず嘆いた。
そして、頬に意味も分からずキスをされた。
「な、何してるんだ?お前は…」
「いってらっしゃいのちゅーです」
無表情でそんな事言われても、全然萌えないのだが。
どうせ親父のたくらみだろう。
「明日から、そんな事しなくていいから」
俺は冷たく言い放った。
しかし、琴音は反応の1つもせず、ただ「はい」と言っただけだった。
なんて、虚しい奴。
こんなメイド初めてだ。
なんでこんな奴が100人ものの主人に相手されたんだ?
俺は、不振に少し、琴音を見つめた。
顔…だけか。
俺は、ハァ…と深いため息をつく。
このメイドを追い返せるはずもなく、俺はこれからの庶民生活に不安になった。