吐息が動力源。~下半身ロボットの世知辛い日常~
この作品は『春チャレンジ2026』に向けて執筆した作品です。
東京湾の最果て、埋立地の隅に佇む「特災」基地に、気の抜けた音が響き渡った。
『プー――、プー――、プー――』
安物のキッチンタイマーのような音に、操縦士のハルトはおにぎりを口に運びながらモニターを見上げた。怪獣『ゲジュ・ムドラン』が出現し、悶絶級の悪臭粘液を撒き散らしている。
支部長「ハルト君、緊急出動だ。……すまない、今回は『下半身ユニット』のみの不完全な構成で行ってもらう」
後ろめたそうに告げる佐藤支部長の視線の先には、腕も肩も頭もない、無残な二本の脚だけが直立していた。
ハルト「……正気ですか。下半身だけで、どうやって戦えと……」
かつては『鋼鉄の巨人』と呼ばれ、全身の重装甲で華々しく戦っていた機体だ。それが今や、怪獣と戦うたびに削られる莫大な予算のせいで、人手不足となり修理もままならず『脚』だけになってしまった。
支部長「新装された『呼気・口臭変換エンジン』を信じろ。君の必死の呼吸とストレスで溜まった口臭が、理論上は全身時を上回る出力を生む」
ハルトは激しい自己嫌悪と共にコクピットへ潜り込んだ。
ハルト「……っ、くっせ。俺の口、ガソリンより燃えそうだな」
ハルトが基地を一歩踏み出した直後――現場の第4区画では、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開していた。避難を始めた一人の男性が愛車を振り返って絶叫した。上空から緑色の粘液が直撃し、新車のルーフを汚していく。
男性「車が――! 嘘だろ、まだ……まだローンが残ってるのに!!」
その混乱をチャンスと捉えた男が、女性のバッグを奪って路地へと駆け出す。
女性「きゃあああ!私のバッグ…」
泥棒「ヒヒッ、お宝ごっつぁんです! こんな時に誰も追ってこねえよな、最高だぜ!!」
直後、ゲジュ・ムドランの喉が「グチャリ」と鳴り泥棒の頭上に別の粘液が直撃する。
泥棒「ゴフッ……!? げ、ゲボォッ! ク、クセェェェッ!! 鼻が死ぬぅ!!」
泥棒は悶絶してバッグを放り出し、のたうち回る。追いかけてきた被害者の女性は、バッグを拾い左手の指で鼻をキツく摘み、泥棒を冷たく見下ろした。
女性「…………(鼻声で)ざまぁ。自業自得よ、バカ!」
そこへ、自衛隊の精鋭部隊が到着する。「撃てッ!!」 ズガァァァン! ドドドドッ!! 10式戦車が砲撃し、F-35が誘導弾を放つが、怪獣が噴射した『悶絶・毒霧』の前に、隊員たちが次々と嘔吐し、自衛隊は「臭い」によって撤退を余儀なくされた。
その時、カシャン、カシャン……と油圧の抜けた音を立てて二本の『脚』が現れた。
ハルト「……おえっ……くせぇ……。だが、俺は毎日この『自分の口臭』と戦ってんだよ。怪獣の臭いくらい、今更怖くねえんだよ!!」
ハルトたちが平気な理由。それは、普段から劣悪な基地の臭いに耐え続けているため、鼻が麻痺しているからだ。
ハルトは意図的に機体を大きく転倒させた。
(ドガァァァン!!)
その全質量がゲジュ・ムドランの膝元を強かに打つ。
ゲジュ・ムドラン「グチャァッ!?」
ハルトは機体の体勢を立て直しゲジュ・ムドランの首を両脚で挟む。
ハルト「喰らえ……ッ! 『断罪の双璧』!!」
劣悪な職場で溜まりに溜まったストレス(口臭エネルギー)が、締め上げる脚に爆発的な駆動力を与える。
ゲジュ・ムドラン「ギ、ギギィッ……!?」
怪獣が必死に暴れ、ハルトの機体を振り落とす。地面を転がり、砂塵を上げながらも、ハルトの瞳にはまだ戦意が宿っていた。
ハルト「くそ!まだだ! 振り落とされてからが本番なんだよ……今度こそトドメを——」
怪獣が怯む。ハルトが逆噴射で起き上がろうとした、その時。
『ピピピッ、ピピピッ』
無慈悲な電子音がコクピットに響き渡った。
支部長「ハルト君、お疲れ様。定時だ。交代だ」
ハルト「……は? いや、今から再攻撃するところですよ!? 完全に隙を突いたんですって!」
支部長「サービス残業は、基地の予算をさらに圧迫する。 後のことは次のシフトの者に任せて、君は速やかにタイムカードを押しに戻りたまえ」
ハルト「ちっ…これからが本番なのに……。ったく、支部長、空気読めよ……!」
そこへ戦場に一台の軽自動車が横付けされ、ジャージ姿の美咲が降りてきた。
美咲「……ちょっとハルト、中マジで臭すぎ。どんだけパニックになったのよ」
ハルトは、男性のローンの嘆きと女性の罵声が入り混じる光景に困惑しつつ、両手の指でしっかりと鼻を摘みながら毒づいた。
ハルト「うっせえな…こんな状況初めてだから、仕方ねえだろう!」
ハルトは未練たらたらに文句を言いながら、美咲と交代してコクピットを降りた。
ハルト「しっかり、やれよ!」
美咲「うるさいわね!」
交代した美咲は操縦桿を除菌シートで、拭きながら呟いた。
美咲「……起動!!」
(ギギ…ギュイイイイン!!)
美咲は初めての下半身機体の挙動に振り回され、声を荒らげる。
美咲「……ちょっと、何これ!? 重心が滅茶苦茶じゃない! 動け、このポンコツ下半身!!」
美咲は機体をズボォォッ! と「逆さま」の状態で地面に突き刺すと、鉄の脚を猛回転させた。
(ブンブンブンブン!! シュォォォォン!!)
美咲「食らいなさい!! 『強制消臭・ジャイロキック』!!
(ドガーーーーーン!!)
逆さ回転蹴りがゲジュ・ムドランの脳天を直撃する。凄まじい衝撃と共に、辺り一面に不自然なほど爽やかな「せっけんの香り」が爆散した。
あれほど鼻を突いた悪臭粘液は一瞬で中和され、怪獣の巨体は真っ白な泡に包まれる。
ゲジュ・ムドラン「……キュゥ?」
全身を磨き上げられ、すっかり無臭になったゲジュ・ムドランは、戦意を喪失したように肩を落とし、泡を撒き散らしながらトボトボと海へ帰っていった。
戦闘終了後、美咲は基地へ戻り、佐藤支部長のデスクを叩いた。
美咲「支部長! 腕なし・頭なしで戦えなんて、いくらなんでも無茶苦茶よ! 修理予算、次こそは通してよね!」
美咲の剣幕に、佐藤支部長は頭を下げた。
支部長「わ、分かっているよ美咲君……。だが本庁が、予算を削れってうるさくてね……。次……次の四半期には、せめて『左腕』だけでも取り戻せるよう善処するから!」
美咲「……左腕だけ? 片腕でどうしろってのよ。もういいわ、帰る!」
さんざん文句をぶちまけた後、美咲の勤務時間も終わりを告げた。
基地の外、潮風の吹く埋立地。
美咲は夜空を見上げた。
美咲「……ま、やるしかないわよね。次はもっとうまくやってやるわ」
美咲は夜空に向かって、力強くガッツポーズを作った。
それが、下半身だけのヒーローとして、明日を戦い抜くための誓いだった。
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
脚だけのロボットが「消臭」で決着する不条理な一幕、笑っていただけたなら幸いです!
【本作の制作について】
本作は独自のアイデアに基づき、AIによる執筆補助(構成・補完)を導入して制作しています。最終的な仕上げ・修正はすべて作者自身の手で行い、独自の読後感にこだわっています。
※詳細はプロフィール(自己紹介)をご覧ください。




