『プレスマンとブラフマン』
掲載日:2026/03/26
ある男が町を歩いていると、長く会わなかった知人に会った。最近はどうしているのか尋ねると、速記三昧さ、といって、胸に差したプレスマンをちらちらさせた。男は、賢いほうではなかったので、人間にとって常識である速記のこともよくわからなかったし、プレスマンが何だかもわからなかったが、何だかうらやましくなってしまい、家に戻って、女房に、うちにプレスマンはないか、と尋ねると、女房は、それは何のことでしょう、と尋ね返した、しかし、男のほうも、プレスマンが何だかわかっていないので、とにかく格好いいものだ、すごいのだ、と言うと、この女房の父というのが、寺の生まれで、哲学の道に詳しかったこともあって、それはきっと、ブラフマンのことでございましょう、と早合点し、父から受け継いだ東洋哲学の書物を差し出した。男は、出かけるたび、その書物をふところに入れて、ちらちら見えるようにしていたが、誰からもそのことに触れてもらえず、人生とは何かを深く考えるようになってしまった。
教訓:で、インドに自分探しの旅に行ってみたが、そこに自分はいなかったという。




