第7章:ジョーク
休み時間。
それはただお腹を満たす時間じゃない。
XI理科2組にとっては、心を解放するための神聖な儀式だ。
そしてなぜか今日は、男子全員が教室の中央に集まっていた。
まるで同窓会。
――いや、まだ入学して一週間しか経ってない。
机に座るやつ、床に寝そべるやつ、
窓枠に乗ってるやつまでいる。
完全に「ご飯を待つ猫」状態。
騒がしくて、うるさくて、
そしてとても……男臭い空間だった。
そんな中、ゲンタが円の中心に立つ。
安っぽいバラエティ番組の司会者みたいなノリで。
「よし、兄弟たち。
今日は――ジョークバトルだ!」
歓声が上がる。
ディマスは勢いで紙を空に投げた。完全に紙吹雪。
「ルールは一つ!」
ゲンタが指を立てる。
「全員を黙らせるか、逃げ出したくさせたやつは――
即レジェンド。
でも、滑ったやつは……
LINEグループから追放な!」
「俺、まだ入ってない!」
アレックスが叫ぶ。
「だからこそ、これ以上呼ばれなくなるなよ」
ベベンが即ツッコミ。
こうして、ジョークバトルが始まった。
まずはゲンタ。
表情は真剣。就活面接レベル。
「なんでオンライン授業のとき、
ノートパソコンって重くなると思う?」
全員、沈黙。
オチ待ち。
「――だって、
毎日タダ働きさせられて、
もうストレス限界だからだよ!」
爆笑。
リノは椅子から転げ落ち、
ディマスは頬を真っ赤にして笑い、
アディットはサンダルを投げ上げたまま、
最後まで落ちてこなかった。
次はアディット。
パンをかじりながら、
政治風刺ジョーク。
「なあ、なんで今の政治家って、
嘘ついてもバレないと思う?」
一瞬、空気が張り詰める。
答えたら指導室行きかもしれない。
「だって、
笑顔で嘘つきながら、
ついでに支援物資配ってるから」
ベベンは目を覆い、
リオは倒れたフリ、
ゲンタは叫ぶ。
「この国、試されてるーー!!」
続いてリノ。
日本映画の悪役みたいなスローモーションで前へ。
「俺のジョークは……
ちょっとダークだ」
俺は壁に寄る。
ディマスはBGM担当の覚悟を決めた。
「想像してみろ。
壁の時計が落ちて、壊れる。
その瞬間――
時間は戻らないって気づく」
……沈黙。
エアコンが自動で止まった気がした。
リオは財布からティッシュを探し始める。
アディットが一言。
「休み時間に実存主義持ち込むな」
リノは何事もなかったように席へ戻った。
完全に空気を殺して。
次はリオ。
なぜか自信満々。
「俺……
親父ギャグある」
ゲンタが即しゃがむ。
「それは……危険だ」
「なんで蚊は歌手になれないと思う?」
全員、息を止める。
「だって……
“ニャムニャム”であって、
“ニャニィ”じゃないから」
大爆笑。
廊下にいた警備員さんまでニヤッとした。
そして――俺の番。
立ち上がった瞬間、
なぜか全員が静かになる。
たぶん、期待じゃなくて恐怖。
「真面目にいくぞ」
俺は深呼吸した。
「なんで色鉛筆って、
ケンカしないと思う?」
全員、希望に満ちた顔。
「だって……
同じ箱の中だから」
……
…………
沈黙。
ベベンはゆっくり座り込み、
床を見つめた。
ディマスは俺を見る。
親友に裏切られた目。
「お前……
笑わせたいのか、
同情されたいのか、どっちだ?」
アレックスが小声で。
リオが壁にもたれ、呟く。
「静けさって……
こんなにうるさかったっけ」
ゲンタが出口に向かって歩き出す。
「どこ行くんだ?」
アディットが聞く。
「……人生を見つめ直しに。
サンディのジョーク聞いた後だから」
俺は苦笑い。
半分恥ずかしくて、
半分、最短脱出ルートを探していた。
そのとき――
リノが立ち上がる。
「最後に一つだけ」
「もう暗いのやめろよ」
ディマスが頼む。
「大丈夫。
これは……不条理系だ」
全員、待つ。
「ヤギがニワトリのフリしてて、
『おい、ヤギ!』って呼ばれたら、
なんて答えると思う?」
全員、眉を上げる。
「『違います。私は……卵です』」
――爆笑。
意味不明。
ランダム。
論理ゼロ。
でも、めちゃくちゃ笑った。
ゲンタは床を叩き、
ベベンは机から落ちてリオの足に引っかかり、
アディットは自分のカバンを蹴った。
こうして、ジョークバトルは
勝者なしで終了。
でも、笑いはあった。
たぶん、
全部のジョークが面白かったわけじゃない。
ただ――
一緒にバカをやれたからだ。
俺のジョークは、
しばらくネタにされるだろう。
でも、それでもいい。
笑い声の中で、俺は思った。
――俺は、この物語の一部だ。
たとえ
「一言で教室を黙らせた男」
という伝説でも。
……でもさ、
一文で空気を完全に凍らせられるって、
逆に才能じゃないか?




