第6章:たった一本の鉛筆のせいで
もし俺の人生がアニメだとしたら、今日のエピソードは完全に“ただの filler 回”――
……のはずが、なぜか突然美術トーナメント編に突入した。
原因は、とてもシンプルな一つの物。――鉛筆だ。
すべては美術の授業から始まった。
サヤップ・ヒタム高校――通称「世界一役に立たない学校」の生徒たちが、
急に即席アーティストにされる日。
道具は最低限、机の上は意味不明な落書きだらけ。
俺はというと、のんびり山と真ん中に太陽。
小学生から一切成長していない王道構図を描いていた。
そのとき、前の席で――
イスナが鉛筆を落とした。
コロコロと転がったそれは……
ピタリとディマスの足元へ。
そう、ディマス。
中学生レベルのツンデレで、無駄にクール気取りのあいつは、
まるで空から落ちてきた花を拾うかのように鉛筆を持ち上げた。
「……これ、お前の?」
ドラマ韓国版・第2話みたいな声で。
「え……うん、ありがとう」
二人は見つめ合う。
沈黙、5秒。
春風BGMは流れない。なぜなら教室の扇風機は壊れている。
そしてディマスの視線が、
イスナの画用紙に落ちた瞬間――彼は固まった。
「……これ、お前が描いたのか?」
イスナは小さくうなずく。
その絵は――本当にすごかった。
繊細で、丁寧で、まるでギャラリーに飾られていそうな雰囲気。
ディマスはごくりと喉を鳴らす。
「な、なんで……こんなに上手いんだよ!?」
「心で描いてるから」
「なんで手で描かないんだ?」 「……」
俺は横で、心の中だけで爆笑していた。
だが、ディマスが席に戻るとき――
その目に、競争心の炎が灯っていた。
ああ、知ってるぞ。
あれは――
「恋にはスキルが必要だ」と悟った男の目だ。
「俺も……イスナより上手く描く」 「何のために?」 「感心させるためだ。
『わあ、ディマスって芸術家なんだね』って言わせる」 「……本気で思ってる?」 「……ワンチャン」
俺は自分の山を見て、
ディマスの絵を見て、
イスナの絵を見て――
そして、つい言ってしまった。
「じゃあ俺も描く。
『わあ、サンディ才能ある!』って言われる絵」
「何言ってんだお前」 「え?競争じゃないの?」 「俺と!?いつから大会だよ!?」
――声が大きすぎた。
「え、デッサン大会!?」
非公式実況係・ベベンが叫ぶ。
「俺も出る!」 「俺も!」
イヤホン刺してるのに音楽流れてないリノ。
「あ、怪物描こうぜ!」
「ゲンタ、撮影スタンバイ!」
……気づけば、完全に番組化していた。
ゲンタが黒板前に立ち、
消しゴムで作った木製(風)三脚を構える。
「ようこそ!
番組名――**『Draw or Die!』
学校史上最も意味不明なアートバトル!」
「司会は、率直すぎる男・ベベン!」 「そして私は、ブレーキの壊れた解説者・リノ!」
「本日のメインコンテスタント!
平坦な山のサンディ!
恋に命をかけるディマス!
ホラー担当アディット!
そして――エレン・イェーガー……じゃなくてリノ!」
「さっき俺紹介しただろ!」
俺が抗議する前に、
アディットがチョークで床に魔法陣を描き始めた。
「第13次元の角付き悪魔を描く」 「それ、アウトじゃない?」 「美術の先生コーヒー飲んでるから大丈夫!」
その間、ディマスは本気だった。
リアル調、陰影、比率――
しかも横目で見ていたイスナが、
小さく微笑む。
……それだけで、ディマスは赤面。
俺は白紙を見つめ、
なぜか――ナイヤラの顔を描き始めて、すぐ消した。
「なんであいつ描いた?」
ディマスが疑う。
「反射だ。頭の中に住んでる」
リノが即ツッコミ。
「おお!サンディ、過去の記憶を描いてるっぽい!
ドラマ点アップ!」
そして最悪なことに――
ゲンタがスマホを掲げた。
「LIVE配信!
サヤップ・ヒタム高校・即席アートバトル!」
逃げたかった。
でも、もう遅かった。
――鉛筆バトルロワイヤル、開幕。
*
一時間後。
アディットは、
三つの頭を持ち、泣きながらカラオケを歌う怪物を完成させた。
「これは……疲れた心の象徴だ」
リノは、
全ての国がバナナの形をした世界地図。
「グローバリズムへの批判だ!」
ディマスは――
イスナの肖像画。
……本当に、すごかった。
まつ毛一本一本まで丁寧。
「……わあ……」
イスナが呟く。
ディマス、即ノックダウン。
俺は――
自転車に乗る猫。
発想はいい。
でも完全にLINEスタンプ向き。
「さあ、審査の時間です!」
そこへ美術教師・シスカ先生が入ってくる。
普段は表情が変わらない人だが――
今日は、笑った。
「どれも素晴らしい。
でも……“芸術”だと感じたのは、この一枚」
教室が息を呑む。
指されたのは――
隅で静かに描いていたヴァニアの絵。
先生のリアルな肖像画。
朝日を背景に、感動的な表情。
全員、言葉を失う。
「すごい……」
イスナが目を輝かせる。
ディマスは――
完全に座り込んだ。
「……なんで……俺じゃないんだ……」
俺は肩を叩く。
「安心しろ。
少なくとも、お前の絵はミームにならない」
授業後、
ディマスはまだ黒板を見つめていた。
『本日のテーマ:絵で自分を表現しよう』
今の彼の表情は――
卒業式の服でテスト結果42点を見た人の顔だった。
「鉛筆一本で、ここまで騒ぎになるとはな」 「しかも……イスナが感動したのはヴァニアだ」
「まあ……いつか言ってもらえるさ。
でも、絵じゃないかもな」 「じゃあ何で?」 「学校中に落ちた鉛筆を配る人になったとか」
二人で笑う。
そこへリノが掲示板を持ってくる。
「おいディマス!
お前、ノミネートされてるぞ!」
「マジで!?」
「カテゴリー
『報われない恋にインスパイアされた美しい絵』」
……。
下には小さく。
サンディ:特別賞3位
『自転車に乗る猫』
「まあ……入っただけマシか」 「俺もだ」 「『警察呼ばれかけた絵』部門」
チャイムが鳴る。
変で、騒がしくて、でも最高に楽しい一日だった。
教室を出る前、
俺はイスナとヴァニアが話しているのを見た。
イスナの目は、輝いていた。
――嫉妬じゃない。
ただ、思っただけだ。
人はそれぞれ、
違う方法で“感心される”。
俺は一番上手くはない。
でも――
自転車に乗る猫が描けた。
今日は、それで十分だ。




