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第2章 奈良を起こすことを禁じられた

黒板を、僕は気だるげに見つめていた。

正直に言えば、今日は学校に来たくなかった。

それなのに、なぜか今――僕は図書館で、まだよく知らない六人と一緒にいる。

円卓を囲んで座る僕たちは、見た目こそ勉強会。

でも実際は……運命共同体みたいなものだった。

歴史の教師であり、担任でもあるマリスカ先生が、クラス全員を四つのグループに分けたばかりだ。

そして不運にも、僕は第二グループ。

メンバーは、アレックス、アレア、ナヤラ、そして他に三人。

……正直、まだ全員を把握しきれていない。

アレックス――背が高く、自信満々な男子が、さっそく席を立つ。

「よし。サンディはまだ全員知らないだろうから、自己紹介しようか」

いかにもクラス委員長らしい、妙に馴れ馴れしい口調だ。

「まぁ、実は何日か前に軽く話したけどさ。

でも、ちゃんと名乗るべきだろ」

僕は黙って頷き、静かに聞くことにした。

本音を言えば、今すぐ購買に逃げたい。

「俺はアレックス・フェルディナン。

2年MIPA2組の委員長。趣味はスポーツ」

次に立ち上がったのは、ヒジャブを被った少女。

その笑顔は、不思議と人を落ち着かせる。

「イスナ・ヌル・ファヤダです。

クラスでは芸術担当。趣味は絵を描くこと。よろしくね」

声が柔らかくて、自然と好感を持ってしまう。

……だが、その瞬間。

テーブルの向かい側から、鋭い視線が突き刺さった。

殴られそうなほどの圧。

「次、ディマス」

アレックスが空気を察して言う。

「ディマス・アンガラ。

同じく芸術担当。趣味はバドミントン」

……目が逸れない。

まるで、僕が彼のサンダルを式典で盗んだかのような視線だ。

慌てて視線を外す。

「次は私ね」

アレアが淡々と立ち上がる。

「どうぞ」アレックスが促す。

「アレア・ハニファ。

クラスでの役職はなし。趣味は歌。以上」

短い。

でも不思議と印象に残る。

(……この人、まだ謎だな)

落ち着いているのに、存在感が強い。

「じゃあ最後、ナヤラ――」

アレックスが言いかけた、その時。

「待ってください!」

思わず手を挙げていた。

全員がこちらを見る。

――一人を除いて。

彼は壁にもたれ、フードで顔を隠し、完全に眠っている。

さっきから一度も会話に参加していない。

「“最後”じゃなくて、二人ですよね?」

アレックスに言う。

「まだ一人、紹介されてない」

アレックスはため息をつき、皆に近づくよう合図した。

「……あいつは、数に入れてない」

小声だった。

元の位置に戻る。

「なんで?」

僕は納得できない。

「……違うんだ、あいつは」

アレックスが歯切れ悪く答える。

「でも同じグループでしょ。

助け合うべきじゃないですか」

「問題はね、サンディ……」

イスナが口を挟む。

「あの人は、私たちと“同じレベル”じゃないの」

「どういう意味ですか!?」

思わず声が強くなる。

「ちゃんと理由がある」

アレックスが言う。

「それでもダメです!」

僕は立ち上がった。

「グループ課題ですよ?

サボって成果だけもらうなんて許せない!」

その瞬間――

「ちょっと黙れよ」

ディマスが立ち上がり、僕の服を掴んだ。

イスナとアレックスが慌てて止めに入る。

「もういい!俺が起こします!」

僕は叫び、前に出ようとした。

だが――

誰かが、僕の手首を掴んだ。

振り向いた瞬間、顔が一気に熱くなる。

ナヤラだった。

顔が近い。視線が鋭い。

「離して……邪魔しないで!」

動揺しながら言う。

「転入生のくせに、度胸あるわね」

「俺の何が悪いんですか!」

彼女を見つめ――

ふと、悪戯な笑みが浮かぶ。

(そうだ……先週の学校TVのインタビュー)

「ねぇ」

僕は小声で言った。

「ゴキブリ、怖いんでしょ?」

ナヤラの顔が一瞬で青ざめた。

「言わないで!!」

必死に囁く。

僕は小さく笑う。

「だったら、止めないで」

そして、フードの少年のもとへ歩く。

「ナラ」

肩に触れた。

「起きて。グループ課題だ」

――次の瞬間。

彼の目が開いた。

静かに立ち上がる。

「……歴史のプロジェクト?」

「うん――」

言い終わる前に、彼は鞄からノートパソコンを取り出し、

ファイルを開き、無言で打ち始めた。

僕たちは、ただ固まる。

十分もしないうちに――

背景説明、構成、歴史資料、デジタル可視化案、

脚注、参考文献まで完璧に揃った。

「……うそだろ」

アレックスは椅子に崩れ落ち、

イスナは頭を抱え、

アレアは言葉を失う。

ディマスは――

初めて僕を睨まず、窓の外を虚ろに見ていた。

ナヤラは拳を握りしめる。

「……私たち、必要ない」

ナラは作業を終え、淡々と言った。

「終わり。

あとは発表するだけ」

全員、沈黙。

脱力。

「私……今週、まだ教科書すら開いてない……」

アレアが呟く。

「委員長なのに……完敗だ……」

アレックスが俯く。

「芸術担当って……何だったの……」

イスナが大げさに嘆く。

「俺……キレてたんじゃなくて、

劣等感だったんだ……」

ディマスが涙目でイスナを見る。

僕は――ただ、ため息をついた。

「……起こすべきじゃなかった」

するとアレックスが立ち上がり、僕を指差す。

「だから言っただろ、サンディ!

ナラを起こすなって!」

「そう……」

ナヤラが静かに言う。

「彼は、天才すぎるの」

「全部一人でやっちゃうんだもん!」

イスナが続ける。

「私たち、完全にモブよ。

モブでも台詞あるのに!」

「アイツは……AIモードだ」

ディマスの声が震える。

「起動したら、全部終わる。

でも……俺たちが無力だって思い知らされる」

ナラはノートパソコンを閉じ、

何事もなかったように壁にもたれた。

まるで――

買い物リストを書いただけみたいに。

僕は天井を見上げ、心の中で呟く。

――戦争兵器を起こしてしまった。

――これはきっと、将来、子どもや孫に語る“伝説”になる。

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