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第1章 私と学校と集まりの異常性

新しい学校での初日。

本来なら緊張するはずだった。

けれど、今の僕が感じているのは――不安、好奇心……そして正直に言えば、恐怖だった。

授業や先生のことじゃない。

問題は、この場所について僕が聞いてきた“噂”だ。

サヤップ・ヒタム高校。

名前を聞いただけで、二度考えてしまう。

ベルリアン高校の友達に転校先を告げたとき、彼は目を丸くした。

「マジで? そこって学校? それとも人体実験の研究所?」

その時は笑った。冗談だと思った。

だが今、黒いペンキが剥がれかけた校門の前に立ち、右に傾いた校名板を見上げていると……

彼は、完全に冗談を言っていたわけじゃなかったのかもしれないと思い始める。

一歩踏み出す足が重い。

鞄のせいじゃない。視線だ。

生徒たちが僕を見る。まるで異物を見るように。

囁き声が聞こえる。

深く息を吸い、平静を装って事務室へ向かった。転入手続き、時間割の受け取り。

新しいクラス――2年MIPA2組。

理系クラス、のはずだ。

だがネットの掲示板では、こう呼ばれている。

――「異常者の檻」。

最も奇妙で、最も混沌としていて……

そして、噂では最も天才が集まるクラス。

教室の前に立ち、軽くノックする。

壊れた蝶番が軋み、ドアは勝手に開いた。

中は――教室というより、秘密研究所だった。

奇妙な装置が並ぶ棚。天井から垂れ下がるケーブル。

黒板には、何週間も前から消されていない数式と図。

誰かが肩を叩いた。

「転入生?」

振り向くと、灰色のカーディガンを羽織った女性教師が立っていた。

首から下げた眼鏡。鋭い目。

「私はマリスカ。あなたの担任よ」

「サンディです。サンディ・サンドロ」

「入りなさい、サンディ」

教室に足を踏み入れた瞬間、世界が切り替わった気がした。

全員がこちらを見る。

でも、否定的な視線じゃない。

――分析するような視線。

前列の男子は、ノートパソコンでゲームをしながら微分方程式を打ち込んでいる。

その隣では、机の下でドローンを組み立てている生徒。

教室の隅、パーカーを被った生徒は爆音の中で眠っていた。

「自己紹介してちょうだい」マリスカ先生が言う。

喉を鳴らし、前に出る。

「サンディ・サンドロ。ベルリアン高校から来ました」

教室がざわつく。

騒がしいというより、興味深そうな空気。

首にイヤホンをかけた男子が小さく口笛を吹いた。

「ベルリアンの子、か。

ようこそ黒い鴉の巣へ。

ここじゃ石炭がダイヤになることもあれば……爆発することもある」

笑いが起きる。

嘲笑ではない。

奇妙だけど、冷たくない“歓迎”だった。

「アレアの隣に座りなさい」先生が言う。

窓際の空いた席へ向かう。

そこに座っていた少女は、黒いマスクをつけ、制服はきっちり整っていた。

その瞳は――深い。まるで心の中を読まれているみたいだ。

「えっと……こんにちは」

彼女は前を向いたまま答える。

「噂を信じて来たなら……忘れた方がいい」

「どういう意味?」

少しだけ、こちらを見る。

「この学校の話。全部嘘じゃない。でも、全部本当でもない。

ここでは勉強だけじゃない。――生き残ることを学ぶの」

言葉に詰まる。

彼女は淡々と続けた。

「それと一つ。

自分が“普通”だと思ってるなら……まだ私たちを知らないだけ」

チャイムが鳴った。

教室は一瞬でカオスになる。

ドローンが飛び、紙が舞い、誰かが鞄から電動バイクを取り出す。

僕はただ、呆然と座っていた。

「……ここ、本当に学校か?」

「当然だろ。市内一番イカれた学校だ」

低い声がした。

振り向くと、筋肉質で黒い巻き毛の男子が立っていた。

「サンディ、だよな?」

頷く。

「アレックス。クラス委員長だ」

握手を交わす。

「たぶんアレアから聞いたろ」

肩を叩かれる。

「この学校は“最悪”って言われてる。

でもな、本は表紙と中身が違うこともある」

「俺たちは皆、はみ出し者だ。

でも、それぞれ才能があって……理由がある」

僕は黙って頷くしかなかった。

昼休み。

購買で軽食を買い、静かな場所を探す。

選んだのは――屋上。

軋む階段。埃まみれの手すり。重い鉄の扉。

押し開けた瞬間、風が顔を撫でた。

静かで、澄んでいる。

端に座り、パンとヨーグルトを広げる。

腹は満たせても、心までは満たせない。

その時、彼女を見つけた。

扉の上のパネルに腰掛けた少女。

短い髪が風に揺れ、視線は遠くを見ている。

空っぽじゃない。

世界を上から読んでいるような目。

迷った末、声をかけた。

「……静かな場所、好きなんだ?」

彼女はちらりとこちらを見て、静かに言った。

「静かな場所は……一番正直なの」

返事はできなかった。

彼女の弁当を見る。――完璧な料理。

一口味見して、呟く。

「香りが少し足りない。来週はコンフィの技法を試そうかな」

よく見る。

顔……声……。

「もしかして……ナヤラ・アテイラ、ですか?」

彼女は止まり、こちらを見る。

一瞬否定しかけて……小さく頷いた。

「テレビ見すぎ」

言葉を失う。

驚くべきか、感動すべきか分からない。

有名な若手シェフ。

数々の料理大会の優勝者。

――そんな彼女が、

“最悪”と呼ばれる学校の屋上で、僕と並んで座っている。

「……どうして、ここに?」

小さく尋ねる。

彼女は空を見上げた。

「あなたと同じ理由。

一番混沌とした場所が……一番安全な隠れ家になることもある」

僕は黙って彼女を見つめた。

そして、その日――確信した。

“最悪”と言われるこの学校は、

もしかすると、

僕が今まで想像もしなかったものを見つけるための、

最高の場所なのかもしれない。

心の中で、思わず呟く。

――これって……小説みたいな運命?

本当に、僕に起きてるのか?

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