やだね
カチッと音を立てて、ライターの先から小さい炎が灯る。数秒その姿を眺め、そして口に咥えた煙草の先に近づけ、目一杯に吸い込む。
机の上には明日が期日の仕事。したくもない課題。鳴りやない携帯電話。目を背けたくなる現実が広がっている。
次第にまわりに煙草特有の匂いが充満する。喉の奥に煙が侵入してくる。普段吸うわけでもない、異端のものに対しての拒否反応なのか、盛大に噎せる。
ーーー苦い。
元来辛いことや苦いものは好きじゃない。煙草なんてその筆頭だ。だと言うのに、何かあればつい吸ってしまう。否、愛煙家からしたら吸えていない程度の煙を享受してしまう。慣れないなりに、少量の煙を口に含んで呑み込む。咳き込む。また呑み込む。
数回それを繰り返せば、頭がぼんやりと、靄がかかるような、重たいような、痛いような、そんな感覚が襲ってくる。
目線の先には、ぽやぽや天へ昇る白い線。まだまだ煙草は長い。先が灰に包まれ、赤く光る部分は隠されてしまっている。とんとんと下に落とし、ふう、と息を落とす。
何をしているのか、なんて考えることさえ拒否されえしまう。煙草というものは不思議だ。重たくした頭は思考さえ放棄して、ただただニコチンをもう一度吸えと命令してくる。こんなたかだか数センチメートルに支配されてしまう。
もう一度吸い込めば、喉の奥を苦いなにかがノックする。痛い、苦い。そんなことしか思えないのに、何度も呑み込む。
口先からもわ、と白い塊を吐き出す。
なにも考えたくない。そんな時は煙草を吸ってしまえばいい。麻薬のようにすべての考えを取り去ってしまう代物だから。煙は黒い思いを白くして出してしまう。
気がつけばもう、吸えるところはほぼなくなっている。脳はガンガンと収縮している。
最後にと、吸い込めるだけ吸い込む。噎せそうになっても無視して吸う。喉が痛い。肺も限界。そこまでいったらはぁっと吐き出す。
失くなってしまった。そんな気持ちで短く短くなったそれを灰皿に押し付ける。
ーーーやだなぁ。
そんな一言を残して、続きの作業に身体を向けた。