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7 何もない1日があっても良いと思いませんか


 登校してからその日の放課後、つまりは今まで目を見張るような何かはなかった。口が裂けても進学校とは言えない、中間層にあたる我が校の最初の授業は概要を説明する程度で、何もない平凡な1日だった。


 唯の専門は現代文で、今日は授業すらなかったので今日はまだ彼女と目すら合わせていない。できることならこのまま彼女と会わなければ夢のような事態にはならないのだが、予知夢の能力上、いや、そもそもの話で担任である以上は放課後のHRで顔を合わす事は避けられない。


「はぁ、どうしたものか」

 

「おいおい、ため息なんてついちゃって。恋の悩みか?」


 肩に手を置いてきているイケメン。夜野 太陽がいつのまにか真横まで寄ってきていた。鞄を肩にかけているところを見るに、これから帰るところだったのだろう。的外れな指摘にまた溜息が出てしまった。


「俺の顔を見て溜息吐くの辞めない!?俺の顔はそんなに酷いか!」


「そんな事はないよ。ただ、お前は良いよなと思っただけだ」


「それって俺を能天気扱いしてるじゃん。どの道悪口だろ!」


 肩に置いていた手を徐に頭の上へ持っていき、太陽によって髪をぐしゃぐしゃにされる。元々、整ってもいなかった髪が更に乱れ、ヲタクとロッキンボーイが合わさったカオスな髪型へと変貌した。因みに元がヲタク風だ。1000円カットにしか行かない髪型が整っている訳がない。


「大丈夫。思ってても態度には出さない」


「それ、全然フォローになってないからね?じゃあ、一体何だってんだよ」


「まぁ、()()()の方だよ」


 頭をトントンとして、何があったのかを口に出さずに伝える。


「こっちって……おいおい、嘘だろ?見ちまったのか、予知を」


 興奮して声のボリュームが上がっている事にも太陽は、気づかないまま千代が濁したものをそのまま声に出してしまう。


「バカ!声が大きい!」


「ヤベヤベ。ま、多分大丈夫だろ。ほら、話してる連中も全然気に留めてなさそうだし」


 周りを見てみると、確かにこちらの話に食いついてくる人も居なければ、聞き耳を立てていそうな人もいなかった。あくまで一見しただけなので、実は聞いていたなんて言われればどう誤魔化しをつければ良いか。


「はぁ。やっぱりお前に話したのは間違いだった。俺は帰る」


「待て待て待て。なんで俺が話しかけにきたか。まだ本題を話してないよな?」


 一方的に会話を終了して、そのままフェードアウトするつもりだったが確かに言われみればそうだ。てっきり溜息を見て話しかけに来たと思ったが、会話内容的には何か用があってもおかしくはなかった。


「じゃあ、一体何の用だよ」


「これから女子と一緒にカラオケを」


「じゃあな」


 鞄を持ち上げ、席を立とうとした千代を太陽が両肩に手を置き座らせる。カラオケにも女子にも興味のない千代からすればその誘いには何の魅力も感じない事なので、できれば早く帰って誰にも会わないように引きこもりたいのが本音だ。そんな千代の考えを知ってか知らずか、太陽は懲りずに説得を続けた。


「なあ、たまには良いだろ?折角、クラス替えしたんだし、ここらで友達作っておくのもきっとお前の為に」


「ならない。俺はできるだけ関わる人間を減らしたいんだ。それになんで女子に限定する?」


「それは俺が女子と仲良くしたいからだ。単純だろ?女子と戯れるのは心が癒される。俺はそれを千代にもわかって欲しいんだ」


「わかりたくない。煩悩にまみれすぎだお前は」


 太陽のガラ空きだったデコにチョップを入れて、さっと教室から逃げ出す。チラッと後ろをみると、後ろから追いかけてきている太陽の更に後ろ、扉から顔を出してこちらに向かって手を振る唯の姿が見えて、心の中で冷や汗が流れた。

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