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6 目覚めの朝


 結論から言うと、気分は最悪だった。予期せぬ不調が起こっている時点で気づいておくべきだったが、体は考えているよりも疲れていたようだ。


 始業式だった昨日、伝えていた帰宅時間よりも遅れてしまった事に母親から心配されたが、友人と遊んでいたとありふれた言い訳をし、何事もなかったかのように夕飯を食した。その後、いつも通りに風呂に入り、自室へ戻った。


 そして勉強机へ座ると、急激に眠気が襲ったのだ。睡眠時間を極限まで削っているので、眠気がくるのはいつもの事だった。いつもならそこで、眠気対策グッズを使うのだが、何故かその時は椅子についたリクライニング機能もフルに使い、天井を仰ぐ形をとってしまっていた。


 例え、そこが椅子だからとは言っても、眠気が襲えば仰向けになった時点でベット同然。急激に高まる睡眠欲に溜まった疲労困憊の体が勝てるはずもなく、できるだけ寝ないと誓ったにも関わらず、朝までしっかりと眠ってしまった。


 しかし、寝てしまった事は限界を迎えたとして割り切ればいい。問題は寝ない事にした原因。椅子なのでぐっすりとはいかずもそこそこ気持ちよく寝たにも関わらず、気分を害された夢。


 人生で3度目の予知夢を見てしまった事だ。


 それだけで朝の気分は最悪だ。それも相手は昨日知り会ったばかりだったあの唯だ。予知夢は強く意識した者、もしくは自分目線でしか見ることができない。唯との会話相手が誰かはわからないが、昨日強い関わりがあったのは唯か辛うじて太陽のみ。唯と太陽が会話していた説もあり得なくはないが、太陽の事を思い浮かべながら寝るなんて事はないはずなので、自分目線だと仮定付けておく。


 因みに声判断をすればいいと言われた事があるのだが、夢の世界では音に靄がかかっており、声で判断するのが難しいのだ。とは言っても姿は隠れていないので、声が分からずともそんなに問題はないのだが。


 そして問題はその夢の内容だ。


「身の上話は置いておくとしても、最後の光と轟音。あれば場所からして、車が突っ込んできたに違いない。いや、絶対にそうだ。そうとわかればすぐに……」


 急いで学校へ行く為に、扉へ手をかける。が部屋から出ようとした瞬間にある事に気づく。


「駄目だ。そんな与太話、信じてもらえるのか?前だって拒否されて、否定された上に……くそ!」


 蓋をしていた記憶が頭をよぎり、つい壁を強く叩いてしまう。結果、階下へと聞こえるような大きな物音が鳴ってしまう。


「千代ー?起きたのー?大きな物音がしたけど大丈夫ー?」


「大丈夫だよ、母さん。寝ぼけて足をぶつけただけだ」


「それは大丈夫じゃないんじゃない?とにかく起きたなら降りてらっしゃい。朝ご飯にするわよ」


 階段から顔を見せていた母親と目が合い、早く降りてこいと手を招かれる。既に目はこれでもかと言うほど覚めていた上に、母親の声で頭まで冷静にさせられたのでとりあえず朝ご飯へと向かう。


 冷静に考えてみると、場面は夜であった以上は今すぐに事は起こらない。逆に朝からそんな事を告げられる方が向こうの心情と心臓が悪くなる。


 なのでここは大人しくいつも通りの質素な朝ごはんを頂くことにしよう。机の上には白飯と味噌汁、それに納豆と缶詰のフルーツ。このセットが3人分。千代と母、それにまだ起きてきていない妹の分だ。


 朝から多く食べない千代の家庭ではこれがデフォルトの朝ごはんだ。妹は朝が極端に弱いので、ここから更に白飯と納豆を抜いた分しか食べない事が多くある。それで昼まで保つのか疑問である。


 そんな事を考えている間にも箸は進み、ちょうど半分辺りまで食べた頃に背後から声をかけられる。


「おはよう、千代」


 振り向かずとも誰かはわかっている。なので一度箸を止めて「おはよう」とだけ伝える。妹との関係は冷めきっている訳ではないが、特に仲が良いという訳ではない。それでも家の中で会えば多少の雑談はするし、必要な事があれば会話する。世の中の兄妹は大体この関係値だろう。デレデレし合うのはアニメや妄想の中に過ぎない。


 そう。妹からすればそれはただの雑談の一つに過ぎなかったのだ。


「ねぇ、千代のクラスの担任ってどんな人なの」


「ブハッ」


 会話の内容があまりにタイムリーなもの過ぎて、口に含んでいた白飯が飛び出る。


「うわっ、きたな」


「な……なんで急に?」


「え?だって新任の女教師なんでしょ。年齢も私達と近いって聞いたし、どんな人なのかなー?って気になっただけだけど。何、何かあった?」


 ぐいーっと反対の席から乗り出してくる妹に「なんでもない」とだけ伝え、それ以降は黙々と中断していた朝飯を再開した。「変なの」とだけ言われたが、それ以降は彼女が話しかけてくる事はなかった。

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