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4 寝過ごしたらどうなりますか


「おはよう、浅野君。随分と不気味な寝方だったけど大丈夫?」


「大丈夫です。それより今は何時……ってもう5時!?」


 黒板の上にある時計は既に5時と10分を過ぎたところを指している。今日はクラス発表の後は始業式、そして諸々の説明が終われば解散というスケジュールになっていたはずだ。時間通り順調に進んでいれば、予定のない者は12時過ぎには下校している。


 ちなみに千代は部活に所属していないので、17時時点では余裕に家へ帰れているはずである。それどころか日課であるひたすらにボーッとする事すら何時間もできていただろう。


 そんな失った時間に関して思いを馳せても仕方がないので、目の前、というよりも背後から回り込んできた唯の方へ焦点を当てる。


「こんな時間までなんで残ってるんですか。先生方も予定がなければ帰っているはずでは」


「予定ならあったよ。私は担任として浅野君が帰るのを見届けないといけないから」


「松野先生、僕は高校生です。放っておいても1人で帰れますよ」


 彼女の言い分もわからなくもないが、どれだけ不健康に見えたとしてもこちらは一端の男子高校生。心配には及ばないとは思うが、数時間も寝ていると思われていたのなら心配もされるのはわかる。


「でもすいません、これは僕の過失でした」


「よろしい。じゃあ、渡せなかったプリントや連絡事項を伝えちゃうね」


 プリントを手渡され、律儀な先生だと心底思う。夕暮れ時まで1人の生徒の為に残って、嫌な顔ひとつ見せず仕事をこなす。今時、本当に珍しい人種だ。


 渡されたプリントをひとつひとつ、指を差しながら説明し始める。


「これは親御さん宛、これは浅野君宛。ちゃんと目を通してね」


「わざわざ、ありがとうございます。というか、1つ疑問なんですけど、僕がずっとここにいて誰かに何か言われなかったんですか」


「勿論、言われたわ。けど、上手く言い繕っておいたから安心して。バレているのはうちのクラスの生徒だけよ」


「きっと」と言って、サムズアップしている。そのポーズはとても可愛いが、相手が相手なので苦笑いしか浮かばない。兎にも角にも、今の時間は他の部活も終わって下校時間。貰うものを貰い、聞く事は聞いて、早く帰ってしまおう。


「ありがとうございます。それで、何か連絡事項や共有事項なんかはあったりしませんでしたか」


「あるけど時間も時間だし、プリントに書いてある分は端折って伝えていくね。まずは5月に行く校外学習についてだね。それについてはこの紙、親御さん宛に書いてあるから、気になったら読んでおいて。後は明日からの時間割だよ。これは要チェックね。絶対に伝えないといけないのはこれくらいかな」


 考えていたよりも少なくてホッとする。これくらいならその場で聞いておいた方が早かったなと少し後悔したくらいだ。唯は持っていたファイルの中をパラパラと確認し、顔を上げてこちらに笑顔を向ける。


「うん、大丈夫。じゃ、帰ってオーケー……だけど1つだけ言わせて」

 

「なんです?」


「何かあったら遠慮なく私に相談してね」


 相談なんかできる訳ない。そんな事を伝えれば話すことができない重い何かを抱えていると余計に心配されるのがオチ。なのでここは何もないと普通に返すことしかできない。


「……はい」


 学校での新しい1年の始まりはそう締め括られた。

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