1 あなたは未来を知れるならどうしますか
あなたは未来を知る事ができたらどうしますか?
自分の将来、例えば結婚相手や就職先、果てには老後の生活まで。大きな良い夢を見たいだろう。そうでなくとも、明日の天気やテストのカンニングなんて小さい夢を思い浮かべるかもしれない。
理想だけを語るなら、それはそれは素晴らしい案ばかり思い浮かぶ事だろう。しかし、理想は理想。夢は夢でしかない訳で。
現実に確定した未来を知る事ができたとしても、それは足枷にしかならない。それは何故か。未来が決まっているという事は、どれだけ自分が何かを成そうと、どれだけ自分がその未来を変えようと努力をしたとしても、結果は全て見たまま。
例えその未来が死を予知していたとしても誰にも、視えた僕にも変えられない。できるのはただ傍観して、その時を待つのみだ。
「僕のせいだ。僕の……」
「誰か救急車を!」
「僕!怪我はない!?」
「……!……!」
様々な感情が篭もる声が飛び交う中、手にべっとりと着いた血と目の前に広がる惨劇を見て、未成熟の精神では今にも気を失ってしまいそうになる。しかし、己を支配する何かが意識を手放す事を許さない。まるでその光景から目を離すな。これはお前の業だと伝えるように。
フラフラと吸い寄せられるように惨劇の中心へと目を向ける。そこに転がっていたのは人の形をした赤色の塊。今の今まで自分と仲良く公園に行こうと会話をしていた幼き少女。
血みどろになってピクリとも動かなくなった彼女。そんな彼女を起こそうと、腰が抜けて動かなくなった足を無理矢理這いつくばりながら動かす。
「駄目だ。……死んじゃ駄目だ!」
聞こえていないだけ。そう僅かに願って声を上げるが彼女は何も変わらない。寝転がったまま一言も発さず、一切動きを見せない。
「こんな……こんなのあんまりだ。僕は……僕は!」
一縷の望みを捨てられず、動かない足の代わりに手を動かす。ここはアスファルトの上で、一歩動く度に肘や膝が削られて血が滲んでいくのがわかる。それでも歩みは止めない。止められない。知っている未来へ辿り着くために。
その間、その場にいた人達は這いつくばって動いていた事など気づいていたはずだ。今や、周りには人だかりができており、現場に視線は集中している。それでも誰もが手を出さない。まるで時が止まっているかのように。
「……僕の……僕のせいだ。僕が変な夢を見たせいでカナちゃんは」
亀のような遅さで彼女の元へと辿り着いた瞬間、止まっていた時間がようやく動き出す。今まで静観していた傍観者達が、「離れろ」だの「触るな」だの五月蝿く言葉を投げかける。
しかし、傍観者に過ぎない彼らの言葉なんて聞こえなくて。ただ、彼女にだけ聞こえるように幼子ながら贖罪を述べていた。
「ごめん。ごめんなさい。きっと僕が救わなくちゃ、助けなくちゃいけなかったのに。ごめん……ごめん…………」
既に亡骸となった彼女を抱え、口から言葉が、目からは涙が止まらない。
その瞬間は1週間前に夢で見たシーン。血だらけになった幼馴染を抱えて泣く、1週間前、いや、数分前にすら信じられないシーンだった。
それが現実になった事で、幼子ながらに自分の力がどういうものなのかを理解してしまった。自分の力は不幸の未来を呼ぶ、考えうる中で最悪の力が自分にはあるのだと。
それから10年後、僕の睡眠は驚くほどに減っていた。
ぼちぼち更新していきます。