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僕がこうして、闇に引きずられることなくここにいられるのは、仲間がいてくれたからだーー。
ああ、リリッシュの声がする。
そうだ、今日自分は華ミュを観にきて、えーっと、リリッシュが最高で、それからーー。
花梨はゆっくりと目を開ける。
そこには、木々が茂った、およそ東京の都会とは思えない景色が広がっていた。
「えーっと、森?」
ここは、どこだろう、花梨はとりあえず情報を得るためにあたりを見まわす。
「あっ、あれ私の鞄!」
急いで立ち上がりカバンを拾い上げる。
中にはペンライトとトレカ、そして社員証が無造作に突っ込まれていた。
「やっぱり、仕事帰りに華ミュ観たのは夢じゃないよね?」
首を傾げる花梨。どうにも状況が掴めない。
「あぶなーい!!!!!」
「え?」
花梨は大声に驚き慌てて振り向く。
すると、1人の女性が花梨めがけて飛び込んできた。
「うわあ!」
2人は思いっきり衝突し地面に転がった。その勢いで花梨のカバンからペンライトとトレカが落ちた。
「痛ったいなあ……」
花梨が体を起こすと、ぶつかってきた女性はペンライトとトレカと花梨を交互に見て驚いた顔をしている。一体どうしたのだろうか。
「あの」
声をかけようとする花梨。すると女性は勢いよく顔を近づけてきた。今度はなんだ。
「あなた救世主なのね!」
ん?今なんて言った?
「ここで会えるなんて私はラッキーねって言っても私はもう帰るんだけど」
女性は花梨のことなど見えていないかのように腕を組みブツクサと早口に呟く。
「あの、ここどこですか?」
しかし、全く意味がわからないけれど、この人は何か事情を知っていそうである。
とりあえず、現状を知るべく花梨は尋ねてみることにした。
「ここ?ここは異世界よ!」
斜め上の回答が返ってきた。なんて?
「えっと、私家に帰りたいんですけど」
とりあえず、異世界というのは横に置いておいて、家に帰る道を聞こう。
そう思い、口を開いたところで背後から大きな声が聞こえてきた。
「見つけたぞ!!!」
花梨はびくりと肩を飛び上がらせた。振り返ると男性4人が走ってこちらに向かってきていた。
「ええ〜、もう一体なに!?」
「もう時間がないわね、元の世界に戻るためには真実の愛を見つけることよ」
「あ、愛!?」
突然あたりが光り、女性の姿が薄れ始める。
「ま、待って、あなたは一体誰なの?」
「しがないオタクよ」
そして女性は消えていき、あたりは静寂に包まれた。