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「花梨〜!」
待ち合わせ場所である会場の最寄駅の前に立っていると、友人の奏がやってきた。
基本的に彼女とばかり遊んでいる。いわゆる気の合う友人だ。
「はい、これお土産〜」
「お、私もお土産〜」
※これは腐女子同士で行われる儀式、お土産(同人誌)の交換である。即売会に行けなかった際には友人に購入を代行してもらうのだ。
「今日めっちゃ楽しみだよね…」
「だってリリッシュ様の過去編だもんね」
今回の舞台はゲーム中のストーリーの舞台化であり、ちょうどリリッシュの過去が明らかになる部分であった。
紆余曲折を経て、リリッシュは仲間に心を開くこととなるのだが。
「想像しただけでエモい」
これに尽きる。オタクに語彙力はない。
「あ、物販行くでしょ?」
「もちろん、もちろん」
トレカは絶対に欲しいし、新作グッズも絶対に欲しい。
あ、そういえば円盤の予約もできるんだっけか、特典があるからしておきたいけど、時間あるかな。
「あ、そういえば私彼氏できた」
不意に奏の声が花梨の思考を遮った。
「え、奏彼氏できたの?」
「うん、会社の人」
奏は、なんだかんだと顔が良いので(喋るとアレだが)
ちょっと彼氏が欲しくなればすぐにできるタイプなのだ。
「今彼氏に華ミュ布教中」
そう言ってニコニコする奏に、いい彼氏ができて良かったねと拍手をする。
一緒にオタクを楽しんでくれる彼氏は楽しそうだなあ。
まあ、自分には縁のないことだけれど。
だって、今までの人生で唯一付き合った人にはついに自分がオタクであることを言えずに、結局別れてしまったのだから。彼は、今はどこで何をしているのだろうか。
あの時、自分がオタクであることを話せていたら、まだ一緒にいたのだろうか。
そう思いを馳せながら奏の話を聞いているうちに会場へと着いた。
さあ、祭りだ。