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鈴木花梨 26歳。
オタクで腐女子、最近のブームは2.5次元ミュージカル。
稼いだ金は推しに貢献。働く理由は推しのため。
これが花梨の基本プロフィールでモットーだ。
「鈴木さん今日なんだか1日嬉しそうですね?」
仕事中、隣の席の山崎さんに声をかけられる。
「えっ?そうですか?」
「はい、そういう風に見えました!」
「実は今日は大事な予定があって、ずっと楽しみにしていたんです」
花梨は満面の笑みで答える。
「あら!デートですか!?」
「そんな感じですね」
「楽しんできてください!今日はさっさとあがりましょう!」
そう、今日はずっと楽しみにしていた『華咲伝説』の新作解禁日なのだ。
※華咲伝説は花をモチーフにしたキャラクターが花言葉を決め台詞に魔法を使い花を脅かす虫型の敵と戦うゲーム。昨年ミュージカルになり大ヒットし一部の界隈では有名である。
華咲伝説のキャラクターで百合の花こと『リリッシュ』が私の推しである。
リリッシュが大好きで、リリッシュが溺愛されている設定の同人誌は読み漁った。
語ると長いのだが、リリッシュは花言葉『純潔』を決め台詞としているが彼自身は己のことを純潔と思ってなく汚らわしい存在だと思っているのだ。ちなみにそれは彼の生い立ちのせいなのだがここでは割愛しよう。
初めて華咲伝説のミュージカル(華ミュ)を見に行った時、一言で言えばそれは「衝撃」だった。
「リリッシュが!歩いて歌って踊ってる!!」
その日の帰り、共に観劇した友人と居酒屋で膝をついて語り合ったが、推しが現実世界にやってきたとはこのことだと震えたのだった。
そういうわけで、本日はその華ミュの新作の初演なのだ。
実質、推しとデートにいくようなものだ。だから先ほどの返答は何も間違っていない。
ピロンと音を立てスマホが鳴った。
『ついに今日だな…待ち合わせは駅前でよろしく』
相手はいつもの同伴者である友人だった。
『ついにこの日が来ちまったか…観たら私死ぬかもしれない』
花梨はさっと返事を返す。
推しが尊すぎて死ぬかもしれない、その時私は本当にそう思って返事を返した。
まさか物理的に死ぬなんて、この時は思わなかった。