罰
2.罰
「本当!?精霊ってどんななの!?」
興味津々のミリアに対し、うんうんと頷いたノル。
それを傍から見たトヴォは、始まった。と言わんばかりに肩をすくめた。
「僕が見た時はな!…ええと。」
木刀を手に持ったノルが地面をえぐるように絵を描いていく。
「羽が生えてて…こう、こういう…ヒラヒラって感じで…。」
ガリガリと音を立て、絵を完成させた。
当の本人は木刀を地面に投げて腕を組んだ。
「よし、こんな感じ!」
細い棒にハチのような羽を生やし、下向きに長い耳。
とても生き物とは思えない絵をミリアに見せた。
「ごめんね、ノル。私、そこまで想像力が豊かじゃないって言うか…うん!素敵な精霊だね!ね!トヴォ!」
「俺に振んなよ。」
少し離れたところで、腰に手を当てていたトヴォ。
ノルの絵の下手さは今に始まったことではない。
幼い頃からあの学校で一緒に生活していたからこそわかる。
彼に美的センスなどないのだ。
「それにこーんな小さくて、最初は空に舞う埃かなんかだと思ってたんだ。」
人差し指と親指で幅1cm程の大きさを示した。
「そんな小さいのによく見つけられたね。」
「実はあの時…。」
ノルが口を開いた瞬間、ゴロロと何かが唸りを上げた。
「また今度なミリア!腹減った!」
「先生が飯だって言ってたからな。早く戻ろうぜ。」
木刀を抱え上げたノルが先陣を切って走り出した。
二人も後に続いて走り出す―。
「ありがとう、ミリア。」
三人が学校に着くと、既にテーブルには人数分のスープとパンが用意されていた。
「先生、あの二人また喧嘩してたみたいだよ。」
「喧嘩じゃないよ。」
「勝負な。」
ミリアの言葉に、二人は否定をしながら椅子に座った。
「遅いよノル。」
「ごめんごめん。」
「お腹空いちゃったよ。」
「悪い。」
隣同士座ったノルとトヴォが急に肩を震わせた。
その正体は、背後に立った人物によるもの。
「何はともあれ。」
ラーダが二人の頭を掌で抑えたのだ。
「授業をサボるのは…いけませんね。」
「先…生…。」
「勘弁してよ…。」
ゆっくり後ろを振り向いた二人に対して優しく微笑んだラーダ。
「罰として、食器の片づけは二人にお願いしましょうか。」
では、いただきましょう。と付け加えたラーダの合図により、児童が手を合わせた。
これはこの学校では、当たり前の光景なのだ―。
カチャカチャと食器の当たる音が響く。
「ノルの所為だかんな。」
「えー、また僕の所為かよ。勝負に乗ったのはトヴォだろ?」
「まあ俺は勝ったからいいけどー。」
わざとらしく煽るようにノルを横目で見たトヴォ。
食器をトヴォから受け取り、慣れた手つきで綺麗に拭き上げ重ねていく。
食器を洗うことなど、何度目の罰なのだろうか。
数えるまでもない。
「ノル、トヴォ。午後からお遣いに行ってくれませんか?」
拭き上げられた食器を棚に収めていくラーダが、二人に問いかけた。
お遣い、という言葉に眉をひそめたトヴォ。
「お遣い?どこまで?」
「隣町のソーミャさんの所まで。明日の朝食分の材料を頼んでいたのですが、荷馬車が壊れてしまったらしく、こちらに運んでこられないそうです。」
エプロンのポケットから手紙を出し、手の濡れていないノルに渡した。
「昨晩、文が届きました。」
「それを取りに行けってことか?」
皿を洗い終え、手を拭いたトヴォが不機嫌そうに腕を組む。
「今日の朝から二人に頼もうと思っていたのですが、二人ともいなかったので。」
今日の出来事を強調するかのように言うと、目を見開いたトヴォがため息を吐いた。
「いいよ先生!僕一人で行ってくるよ。」
「じゃあノル、頼めますか?荷物はたくさんあるけれど…。」
「大丈夫!トヴォ、行きたくないみたいだし。」
トヴォがノルの顔を見ると、それは嫌味でもない笑顔。
彼は純粋な心から一人でお遣いを引き受けようとしている。
「待てノル。お前一人で帰ってこれんのか。」
「何言ってんだよ。ソーミャおばさんの所には、何回も行ってるだろ?」
「違う、買い食いして帰ってこねーって話だよ。」
うーんと顎に手を当てて考え込んだノル。
「…よし、トヴォ!一緒に行こう!」
よほど自分の欲に自信がなかったのか、潔いほどの笑顔でトヴォを誘う。
「お願いしますね、ノル。トヴォ。ここで馬を扱える生徒は貴方たちだけです。私は子供たちを見ていないといけませんから。」
「任せてよ、先生。馬の準備をしよう、トヴォ。」
「はいはい。」
外へ出て馬小屋へ向かった二人。
馬小屋に入って栗毛と芦毛の頭を撫でるノル。
「隣町までよろしくな、ヴィクト。ヴォール。」
ノルの言葉に応えるように鼻を鳴らした2頭。
颯爽と馬に跨ったトヴォが芦毛の腹を鐙で打つ。
「何してんだノル。行くぞ。夕飯前に帰らねーと先生に怒られる。」
「待ってトヴォ!」
そのまま馬小屋から駆け出したトヴォを追いかけるように栗毛に跨った―。




