いよいよ?
「どうやら、あの場所で行うようですな…」
先行した岸本とその配下が両国の国境線でもある河川の堤防を上がり、後方で控える私たちを振り返る
なるほど、幅150m程の川の中州に仮組みといったふうの5m四方の板間が組み上げられている
縁談自体は以前先方から話があったので向こうが場所の準備を行ったらしい
河の中州は雑草が生えてないから雨天の時は水没するのかな
お互いの両岸には1艘の小舟が用意されている
恐らく両国の代表数名が船で中州まで渡河して会談し、護衛は両岸で見守る感じか
——おい! 岸本が合図を送ると後方に控えていた家臣数名が河川に降りて、船に仕掛けがないか確認をする
また、先方が用意した場でもあるので、船で中州まで渡り伏兵が潜んでないか調べ上げる
その家臣達が戻り、岸本に『問題ありません』と報告する
ゴクリ——いよいよこれからってことなんだろう
これからの私は極力会話を控えて、なるべく低い声で相づち程度に済ます段取り
今のうちに『ん、んっ』と喉を慣らしておく
「なんか、すっごいドキドキしてきた、それで今更なんだけど縁談って事は相手は当然女の子なんだよね、どんな人だろ?」
「ほんと、今更ですね…、相手の姫君は『胡蝶』様、年は若様の1つ下、確か領内の豪族に嫁に行かれてましたが、今回の同盟の為に離縁させられて再婚になります」
「な、によ、それ!? 初耳っていうか再婚?年下?一体いくつで結婚したのよ?そんで無理やり離婚?マッテマッテ情報がおっつかない!」
「おや、若様は初物好きですか?ってのは置いといて、今の世ではよくある事です、領主の姫となれば国の定めと割り切っておりましょう」
「あ、そうなの?——いや、それにしてもだよ?離婚させられて嫁ぐ相手は影武者の私で中身女!でも本当は時間稼ぎの為であって結婚する気なし、相手の子可哀想過ぎない、いいのそれ?」
「確かに、そう言われれば私達悪者ですね、でも可能性として若様の件に相手の一派が絡んだ可能性ありますし、そこは割り切って…」
「う、う~でも凄いよね、いくら親の命令だ、つっても戦争中で滅んじゃうかもしれない国に嫁に行くんだよ!?私だったら絶対無理、ってかワザと嫌われて縁談ぶっ壊すね!」
「あっ…その可能性もありましたね、え、えぇ分かってましたよ、大丈夫、たぶん大丈夫」
——ちょ!絶対今気づいたよこの人、えぇ~どうすんのよ?
座って頷いてたら勝手に縁談はまとまると思ってたけど、
ナニよ!私今から女の子を口説かないとダメなの?
「——あ~なんか、頭変になりそ、それにもし本当に結婚して、明日香姫が戻ってこれたらビックリでしょ!女の子と同性婚?いったいどうして?ってならない」
「私は姫様と他の女との結婚を許す気はありませんが?最悪、今日中に戻ってくるであろう影武者と結婚すればいいのであって、あくまで今だけです ギロ」
アヤメさんが怖い、いや私だってそのつもりだし、ってなんか言葉に引っ掛かる
つか大声出したせいかうまく喉が枯れたよ
・・・・・・・・・・
両陣営川岸に陣取っていよいよ渡河、船上から、しぜん縁談相手の姫である胡蝶って子を探す、
うぅ~ゴメンね、せめて悪役令嬢みたいに感じ悪い子だったら、私の良心の呵責が少しはましに…
「若様あちらに胡蝶様です…先方の護衛は男二人ですか、」
とアヤメは目を細めて品定め、といってのアヤメの品定めの相手は御供
相手の出方次第では、その護衛二人を斬り捨てて姫様を人質にするケースを想定してのことだろう
あ~物騒だな、ストレスでどうにかなりそう、中学で陸上部だった私は逃げ足なら自信ある、
しかし場所は川の中州、当然船なんて漕いだことない
アヤメが目で追う先には…なるほど確かに時代劇風の足元まである着物姿のお姫様
でも重ね着はしてないのか小柄な上に痩せて見える、顔を伏せがちで表情は分からないが微かに震えてる、
姫様といっても年端もいかない女の子、怖いよね、設定からして絶対美少女に決まってるじゃん!
互いの代表は三名、こちらは私(イケメン風美女?)、アヤメ(文句なしの美人さん)、岸本(禿)
先方は 胡蝶(可愛い決定)、おっさん(イカツイ)、若禿って3:3で合コンでも始めるのか? いや見かけは男4:女2だったね
それにしても向こうはは姫さんの可愛さが引き立つ陣営、だからどうしたっていわれても意味は無い
互いの座る場所の間には長机が置かれ、2m程の距離を挟んで座布団が準備されている、私の左にアヤメ、右に岸本、その岸本が口上を述べる
交渉はアヤメと岸本がメイン、私は基本的に首を上下か左右に振るだけ、いうまでもなく喋ると女声でバレる可能性があるからである
私の正面向かいが胡蝶姫、うぅ~リアルの見合いってこんな感じなんだろうか?
まさか齢15で男のフリして見合いするとは…
『あとは若い者に任せて、我々は…』って感じで早く終わらせてくれ
でも二人っきりにされてもどうしようもないんだけどね…
そんな刹那、こちらの口上が終わるのを待たず、私の視界に影が落ちる、
私の理解より早く胡蝶姫が間の長机をも飛び超えてくる、まさかこれは伝説のジャンピングババアが使うという正座ジャンプ!?
か、顔が近い!?かろうじてぶつかるのを止めたのはアヤメが間髪入れず間に入ったから、
いったい何事!?心臓に悪い
アヤメを押しのけるように私の顔を覗き込む胡蝶姫がのたまった
「ふふ…ははは!これはこれは(顔をガシっとロック)グッドだ!ストライクだ!文句なしだ!顔で決めた、もう我慢できん、すぐ結婚しよう、さぁ祝言だ、者ども祝えー!」
どうやって口説こうかと思ってたら相手の方からグイグイきた