それでいいの?
きゅう…、理解が疲れた、限界が説明だ
えーと、要約すればこういう事かな
私達がいるここ、オロチ国には王様は居ない、
城主様とかお館様、当主様と呼ばれてて、王子様は若様と呼ばれていたらしい
元々は『倭国』と呼ばれる一つの国だったんだけど、ここ数十年は日本の戦国時代みたいな感じで、
小国に分かれて領土争いを繰り広げているらしい
その城主様はこの世界の私の父でもあるけど、10日ほど前から寝たきりで意識がなく、
次期当主にして双子の兄である若様(伊織明日成)が代行していた
そんな中、オロチの国の城主不在を隙とみた、『松月鈴鹿』って人が城主を務める東の隣国、ミクネ国が戦争を仕掛けてきた
それに対抗すべく、若様は以前から話のあった『佐賀道乱』が治める北の隣国、ミオ国の姫様との縁談をすすめて同盟関係を結び、
戦力を東に集中して対抗、可能なら援軍を得ようとしてたんだが
なんてこったい!?明日の婚約を前にして若様が行方不明、
なんでも川べりに乗ってた馬を残したまま忽然と消えたらしい、
これが昨日の事で、この国でも一部の者しか知らない機密事項
何しろ今は戦時下で、当事国の世継ぎが消えたのが知れ渡れば、戦争中のこの国の体制そのものが崩壊する危険がある
その為大っぴらに捜索する事も出来ず、かといって当人不在で縁談なんて出来るはずも無い
じゃあ、どうするか?っていうととりあえず若様の双子の妹である、伊織明日香姫がミオ国に交渉に赴いて
『理由は言えないんだけど~、うちのお兄ちゃん今日は来れないんだ~、それにいつ来れるかも分かんないの、でも仲良くしましょ、ついでに援軍は今すぐ出してほしいな、よろぴくキャピ』
とでも言って、同盟を結んでこい、ってのが我が国の重鎮が考えた秘策らしい
この国ダメかもしれんね…そんなの無理ゲーじゃん、
第一交渉役の姫様の中身入れ替わって私になっちゃったし、まったくの別人よ?
それに若様が行方不明って隠せるもんじゃないでしょ?
同盟を結ぶまでの一時しのぎ?いやバレたら絶対ヤバいやつじゃん
アヤメさんも対策を立てよう、とは言ったものの。どうすりゃいいのよと頭抱かえてる
——だいたいこの状況ってっさ
「え~と、これってゲームやドラマでよくあるやつじゃん、若さんがいなくなった事を向こうは知らないと思って顔出したら実はバレバレで、ノコノコやってきた私達を逮捕~!みたいな感じ」
「それに、こんなタイミングで行方不明って何よ?絶対裏があるよ、本当は向こうが手をまわして暗殺と監禁とか、それに戦争をしかけてきたミクネって国もグルで、ミオ国もそれを口実に『縁談を結ばんなら戦争じゃ~!』とか言って攻めてくるんじゃないの?」
「——え、しかし、そんなことって」
言葉に詰まったアヤメさんだが、何かの線が繋がったのか
「——言われてみれば確かにタイミングが良すぎますね、実は縁談の話は以前からありました、しかし進まなかったのはミオ国の次期当主である『佐賀道次』様が反対していたからだと聞いてます」
「それが10日ほど前、道次様自らお館様にお会いになって、縁談を進めると、同盟を結ぼう、と話が進みました、その後です、お館様が意識を失われたのは」
「家臣の間では、明日成様のご成婚と、ミオ国との同盟が決まって気が緩んだ、と噂されてましたが、何かしら遅延性の毒の可能性もありますね」
「そしてそのタイミングを見計らったかのようなミクネ国からの侵略、加えて若様の件、武芸だけでなく泳ぎも達者な若様に限って不覚を取るはずありませんし、現場を見ていた者も居ないと聞いてます」
「縁談自体はミオ国の領主である佐賀道乱様の肝入りですが、それ自体も罠では無いと言い切れません、いや、やはり反対派である道次様の独断?それなら明日の縁談そのモノも…」
ん、もしも~し?悩みこむアヤメさんからの反応が無い
でも、仮にそうだったとしても、それでどうなる?って話
真相を暴いてモラルや常識で問い詰めたら、相手さんが涙を流し、悔い改め全面降伏、ってわきゃないし、縁談なんてなかった事にすりゃいいだけし、
やっぱ、ミクネ国と裏で手を組んで攻め込むための口実を探してるのか?
——そうだ!
「ヨシ、いっそのことアレだ!向こうの姫様捕まえて人質にしちゃおう(デデン)、いや生ヌルいな、さらに若様が生きてた事にして『よくもやってくれたなー』とか言ってコッチが逆に攻め込む口実にしちゃおう!」
アッハッハ、我ながら隙の無い完璧な愚策、
東のミクネ国から攻められて苦境のオロチ国が、北のミオ国に宣戦布告、
死中に活あり、これぞ背水の陣!
——あれれ、アヤメさん?ここは『アホかーい』とでも言ってツッコムとこですよ?
そんな真剣に考えなくても、根っからの真面目人間なんでしょうか?人生苦労しますよ
眉間のしわが深くなるアヤメさん、綺麗なお顔がもったいないですよ、そんな彼女が一言
「なるほど、良案かもしれません、それでいきましょう」