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戦国に咲く百合は夢幻の如く  作者: 十鳥ミミ
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これも夢?

・・・・・・・・・・


・・・・・・


「——り、 ——おり、——伊織!!」


名前を呼ばれた気がした


「おい、聞こえるか!?熱中症か?しっかりしろ!伊織!」


遠くから聞こえる怒鳴り声に意識が戻る、戻される


…ん?ああ、ここどこ?いや、覚えてる、そう私は今!


刹那、世界が生まれたような大歓声、歓声が熱風となって身を包む 

私を呼ぶ声はキャッチャーの山田だ、片手を上げて相棒に『大丈夫だ』と、頷いてみせる

陽炎が立つような熱気は真夏の大舞台

そう、ここは夏の甲子園、高校野球決勝のマウンドに私はいる


あまりの暑さに意識が飛んでたようだ、おかげでやけにリアルな変な夢をみた


振り返って現実を再認識、バックボードの掲示板に目をやる

そうだった、——9回裏2死満塁フルカウント、スコアは1対ゼロ

間違いなく、日本中の注目を今、私が、誰よりも集めてる

だが、その重圧が心地よい、だからソレを飲み込むように舌を舐める


大きく息を吐き、帽子をかぶり直し、腕を上げ肩口で額の汗を拭う


——バサッ


髪がほどけ湿度の高い風に髪が舞い踊る、結び直そうか——いや、次の一球ですべてが決まる、このままでいい


キャッチャーの山田から喝が飛ぶ

「伊織、伊織明日菜!ラスト一球だ、次で決めろ!夢を叶えろ、お前は日本高校野球史上初、女性の優勝ピッチャーになるんだー!」


任せろ!と、大きく振りかぶる事で返答する

体を捻り、延ばされた腕が鞭のようにしなる、地を這うようなアンダースロー、静電気で舞い上げられた地面の砂が竜巻をおこす


これこそ、私の決め球、誰にも打たれたことのない魔球!必ず殺すと書いて、

『必殺トルネードスパーク伊織一式だ——』

お約束の技名を叫ぶと共に放たれた時速180キロを超えるボールは、砂煙をカモフラージュに雷光の閃光をまとう

効果音が『ド・ド・ド』なのは絶対外せないお約束

バッドに当たれば——その瞬間バッターは雷鳴に打たれて死ぬ、もちろん受け止める山田のグローブをも突き破る、彼の短い生涯はこの時の為にある

審判は?…惜しい逃げた


これまで何人の山田を犠牲にしたか、だがこれで正真正銘の最後、

天国の山田、見てるか? お前の犠牲は無駄じゃなかった、私は勝つ、勝って深紅の優勝旗をお前の墓前に供えるんだー!


カン——!


刹那、山田の屍を確かめるはずの私の視線を上空に向かって何かが一閃する


な、んだと、打たれた!?


しかし頭上を飛び去ったソレを私は目で追うことはしない、振り返りざま走る、真っすぐ、誰よりも早く!やるべきことは明らかだ

だから走った、我知れず雄たけびを上げる

邪魔だ——! 途中セカンドのベースカバーに居たチームメイトを左手で一閃、薙ぎ飛ばされたセカンド殿間の悲鳴が綺麗なドップラー音を奏でる


駆ける私の眼前には飛球を追って走るセンターの香車、遅い!目障りだ

でも使い道はある、今、ここでなら、意味はある!追いつきざま、並走した私は真横から飛び蹴りをくらわす、蹴っ飛ばされたセンターはドップラー以下略

私それを反動に直角に進路を変える


そう、私は目でボールを追って走っているんじゃない、打たれた瞬間、一瞬の軌跡から弾道を予測したんだ、私が向う所にボールはあるんだ、あるはず!

でもそこに向かうには真っすぐボールを追うだけではダメ、ボールと交錯する軌跡はバックフェンス正面上空2mと予想

「おおおおー」 年頃の女子からぬ雄たけびをあげ、芝生をめくりあげながら疾走する

狙いはこの角度、左回りで弧を描くよう直角のバックフェンスを駆け上がり、一番高い所から渾身の力で飛び上がる


「何——!、まさか伊織選手追いついたー!自分が打たれたボールに、ピッチャがバックフェンスまで走って、信じられません!そして飛んだー、高い、高い!これは間違いなく世界記録だー!!」


いったい何の世界記録かは分らんが、自分自身の実況中継にも力が入る、いやコメントが長すぎだろ、どんな早口だよ、誰かツッコめよ!


——はたして伸ばした腕の先にボールは!?


「取ったど——!!」


確かな手ごたえを感じ、今この瞬間は私だけの為にと、あらん限りの声で絶叫する


——ガッ、ゴンッ


——ん?


伸ばした体の膝裏と太ももに走る衝撃に疑問

疑問を確かめるよりまずはと、グローブの中のボールを確認しようと見開いた瞳に映るのは


…ん? あれ?、何で?見知った学校の教室じゃんココ、どうして数学の岸本先生がこっちみてるの? 

天に届け、とばかりに両手を掲げ立ち上がった私は、振り返ったクラスメイト視線を一身に浴びている、そして悟る


ああ…、今は午後一の数学の授業中だったよ、数式の呪文にかかって居眠りしてたらしい、うん仕方ないね

あ、もしかして私寝言で叫んじゃった?これは恥ずい、JKにあるまじき失態だ

それよりハ〇の岸本の顔が真っ赤だ、いやいやいくらなんでも〇ゲの岸本をボールと間違えるなんて、思っててもそんな失礼はいたしません


ん、あれ?いや現実問題、今はそれよりも、体が、後ろに、倒れ——

何かにつかまろうとした両手が虚空を泳ぐ、踏みとどまろうとした足が倒れた椅子にひっ掛ってさらに体制を崩す


後ろの人、ごめん、避けて、じゃなくて助けてー!


——と思ったけど私、最後列だったよ、


「ア————!!」


・・・・・・・・・

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