現実逃避 頑張ります!
「では 質問を変えます。私が 3代目という事は 私が3人目。という事でしょうか?」
「はい そういう事です。イブキ様は未来を憂い 国の行く末を心配なさり ニブキ様が13歳になられ 入学なされた際には かなり気を配り 配慮なさった様です。しかし 自身が歳を重ね いつまでも干渉出来ない事を憂慮され 構築なさられたのが『悪役令嬢システム』です。ミブキ様御入学時に 初代悪役令嬢。シブキ様御入学時に 2代目悪役令嬢。そして 今回のゴブキ様御入学時に あなた『シレン ターコイズ』が 3代目悪役令嬢。となるのです」
「なるほど。要は 王太子様が御入学時に 必ず悪役令嬢が必要であると?」
「そうです。理由は王太子殿下暗殺の未来予言が必ずあるからです。ですが 学園はイブキ様が構築なされた制度。王太子が学園に通わない訳にはいきません。かといって 護衛を沢山付ける訳にもいきません。それに万が一 王太子が学園内で暗殺された場合 学園の責任問題となります。それも問題なのです。そこで イブキ様は 王太子が学園に入学する際 悪役令嬢を演じる者が 必ず一緒に入学する事を重要視なさり 途切れる事を恐れ これを継続させる為にシステム化を構築。『悪役令嬢システム』と名付けられたのです」
『なるほど。なるほど。最もらしく言っているが。。わからん!! けど『悪役令嬢システム』はなんとなく。。』
「要は 学園内での王太子殿下の護衛をすると言う事でしょうか?」
「そうです。学園内で誰に知られる事無く 王太子殿下を護衛。それだけではありません。通学時の安全確保。そして事態を未然に防ぐ事も 重要な任務です」
「では なぜ? 3人目では無く 3代目 なのでしょうか?」
「3人目で無く 3代目である理由は、、」
急に陛下が 視線を私に強く向けた。
「シレン ターコイズ。そなたは 今この時をもって『ヴィラン カシェット』を名乗れ!! これは王命である」
「はい?」『陛下 なんか言った?『ヴィラン カシェット』って誰? ますます意味フー なんですけど。。』
「つまり 3人目で無く 3代目である理由は 悪役令嬢は必ず『ヴィラン カシェット』を名乗るからです」
私は ひとまず思考を放棄する。だが 現実は甘く無い。いつまでも逃避を許してはくれない。
「えーっと。『ヴィラン カシェット』に 名前を変えよと?」
「そうだ! だが名前を変えるという言い方は間違いだ。『シレン ターコイズ』を捨て 『ヴィラン カシェット』その者に成る。という事だ」
「カシェットですので 私の娘。という事になります。要は 王族に次ぐ高位の貴族『カシェット宰相公爵家』であれば 権力も行使しやすい。また その様な身分の者が まさか王太子殿下の護衛をしているとは 誰も思わないのです」
私は ふたたび思考を放棄する。だが 現実はまたもや甘く無い。逃避は終わりを迎える。
「えっーと。『ヴィラン カシェット』という人物に成り 宰相閣下の養子になれとの解釈で間違い無いでしょうか?」
「そうだ! そなたが入学する迄に カシェット宰相公爵家の令嬢として また悪役令嬢として 様々な準備 相応の教育を受けてもらう事になる」
「あなたには これから入学迄の約2年間 カシェット家においてお過ごし頂きます。そして 生徒の皆が畏れる『悪役令嬢』という存在。また王太子殿下の『最強の護衛』という密かな任務をする存在。その両方に成って頂きます」
私は みたび思考を放棄する。だが 現実はもうそれは厳しい。『真冬の氷水で平泳ぎする』ぐらい厳しかった!!
『今日は いい天気だったなぁ。寝てるにしては この夢 リアルだなぁー。きっと 私さっきの調度品持って 王都に買い物に行ったはず。いや 王城に来るあたりから夢なら。まだターコイズ領だ。明日起きたら きっとベッドの上だね』
「おい! 現実逃避しても無駄だぞ。世からの命令だからな」
「・・・」陛下により 妄想の世界から 厳しい現実に引き戻されそうになる。が抵抗する。
「10億ジュエル」
「はっ! 私は? あっ! 陛下」5億ジュエルの小切手に 目が行く。現実に来てしまった。
「よいですか。先程もお伝えしました様に『あなたの様な悪役令嬢が まさかの王太子殿下の護衛』でなくてはならないのです。周囲に悪役令嬢である事を刷り込めれば刷り込める程 良いのです」
「また 悪役令嬢なら 噂話や情報が集めやすい。真の友人等出来ず 孤独である方が調査・護衛等 活動は行いやすいのです。護衛に友人は邪魔なのです。孤独で居て下さい。友人とは 浅い 表面のみの付き合いをして頂きます。孤高で孤独なのです。存分に悪態を付いて 嫌がられて下さい。また学園内では教師ですら 信じてはいけないのです。その為秘匿性も大切なのです」
『今の説明を聞いて もう どんだけ 嫌われたら良いのか?』
私は『学園に行きたいという楽しみが待つ筈の欲求』が既に 消え去って行く。
そして ここで思わぬ言葉を耳にする。
「『シレン ターコイズ』子爵令嬢は 死んだ事とする。そなたは たった今『ヴィラン カシェット』宰相公爵家令嬢となった」
「えっ! 聞き間違いましたでしょうか? 『シレン ターコイズ』が死ぬと 聞こえましたが?」あまりの事に 失礼な聞き直しをしてしまった。
「間違ってはおらん」再度断言される。
『えっ?『シレン ターコイズ』は死ぬ?』
『え!?。え??。そっか 死ぬんだ シレン。。』
私は『シレン ターコイズ』に愛着があったのかもしれない。自分が本当に死ぬ訳では無いし 貴族ならば養子縁組もよくある事だ。だけど頭でわかってはいるが、、『シレン ターコイズ』が死ぬと聞かされて 悲しみが溢れて 涙が出てくる。
「『シレン ターコイズ』は この世から消え去って貰う」
「あなたに 更に追い討ちをかける事になりますが。ターコイズ子爵家には もう戻れません。つまり ご家族も捨てて頂きます」
「え??。え!?。。」
私は 愕然として 膝から崩れ落ちる。
『名前も捨てて 家族も捨てろ。って、、』
「えぐっ。うぐっ」涙が出て来て 止まらない。
「や、、やっぱり こ、こんな重大な事案。保護者の許可を得てからでないと 決められませんーー」
「そのー」
私は 大声で泣きながら言う。
『こんな重要案件 やっぱり11歳の私の一存では 決められない。名前は捨てる事は出来ても 家族を捨てるなんて、、出来ない』
「そうですか。。残念です。出来れば お伝えしたく無かったのですが。うーん。あなたへの配慮から 隠しておきたかったのですが。。止む得ませんね。しばらく お待ち下さい」
そう言うと 少し悩んだ表情をした宰相は1度 退出する。しばらくすると ガタガタと震えて青白い顔をした父と一緒に 戻って来た。
「あなたには『ご自身の意思でお引き受け頂きたい』との 陛下と私の配慮から 黙っているつもりでしたが」
「うん?お父様?」
「実は あなたの父上は 公金横領の罪が明らかとなっております」
『えっーー!! んな事初めて聞いたわーー』
急に涙がとまった。
「お、お父様。一体どういう事でしょうか?」
「我が家は貧乏なのだ。だがどうしても欲しい物があるだろう!!シレン」『意味わからん!』
「あなたの父上は 本来なら絞首刑か断頭台です。ですが あなたの『カシェット家』への養子の件 任務の件 ご納得頂けるなら ターコイズ子爵を譲爵。蟄居の上 塔での生涯幽閉に減刑する事をご説明しましたところ ご快諾なさってます」
「シレン。私の為だ お前は 有難くお引き受けしなさい。私は 当然了承済みだ。だって命が惜しいだろう。死にたくないんだよ。シレン 助けてくれー」
そう言って 土下座をして泣きながら 私に命乞いをしてくる 何とも情け無い父の姿が 目の前にあった。
『泣きたいのは こっちだ。娘の命はどうだっていいのか?ってか お父様ってこんなんだったの?』
「えっ、では 母や兄は?」
「まず あなたが お引き受け下さるなら。本来なら連座制の為 ターコイズ子爵家は取り潰し 母上と兄君は 塔での幽閉となるところですが 父上以外罪には問いません。その上 任務を成功させた暁には 兄君は『ターコイズ子爵家』次期当主と致します。母上は兄君次第ですが 領地でこれまで通りお過ごし頂きます。任務お引き受けから終了までの間は ターコイズ子爵家当主代理として 兄君を暫定的にしておきます。この辺りは 陛下と私の配慮です。ですが あなたが『シレン ターコイズ』として会う事はもうありません。また『ヴィラン カシェット』としても入学迄の約2年間は 会わせる訳には参りません」最初は厳しく 後半は申し訳無さそうに言った。
「・・・」
『会えなくなる? えっ。親子 兄妹として会う事は もう無いの。。えっ!?』
正直 あまり考えられない。現実を受け止め切れない。ついさっきまで『シレン ターコイズ』で これからもそのつもりだった。
まさか 自分が死んで。別人になる? しかも父親がこんなの?
再度 涙が溢れてくる。
「うぐっ。うぐっ。」声が出ない。嗚咽しか出ない。
正直 自分がこんなに泣けるとは思っても無かった。
「大変申し訳無く思います。ましてや まだ11歳の子供。ですが 本日この時から この国にとって あなたはとても重要な人物なのです。そして あなたも貴族である以上 国に尽くさねばなりません。国の為 民の為 悲しみを拾い胸に仕舞って 状況を受け入れて 前を向いて全力を尽くして頂きたい。また そう思っていたからこそ。父上の件は 取引材料の様で卑怯と思い 伏せていたのです」
「名前を捨て 家族も捨てて。どうか お引き受け頂きたい」
宰相は 立ち上がると 嗚咽し 涙している11歳の令嬢に 頭を下げる。
「『シレン ターコイズ』すまないが この国の為に死んでくれ」
陛下も 立ち上がると 宰相同様に頭を下げた。
私は 先程の運動の疲れも有ったのだと思う。今の衝撃のストレスが主だろうけど。。
意識を失ってしまったのだった。