悪役令嬢は聖女となる 頑張ります!
私は 現在パール領に到着致しました。
遠くに見えるパール柱の手前にある砦が 破壊されている。砦の石が壊されて散乱しており 鉄製の門が力任せに破壊された様に見える。
『王太后様 カシェットの皆んな 騎士さん達 大丈夫なんだろか、、』
不安が凄くよぎる。急いで走る。門をくぐる。
「王太后様! 王太后様!」誰かが 王太后様に声を掛けている。
王太后様が倒れているのが 目に飛び込んで来た。よく見ると 腕や足 頭に包帯を巻いている騎士達が多数居る。
石や木が散乱しており 消火された跡もある。戦いが苛烈だった事を物語っている。
「王太后さまーー」
私は急ぎ駆け寄る。王太后様は 全身に包帯を巻かれており ご意識が無いご様子。フローライトをそこに下ろして 寝かせる。
「あなたは?」
「失礼致しました。私 カシェット宰相公爵家が長女『ヴィラン カシェット』と申します」
「王太后様は どうなのでしょうか?」焦って伺う。
「私は 医師で『プレセリブルー』と申します。実は 王太后様は 全身の骨折 発熱 背中の火傷 裂傷が酷くて、、何とか治療を施しているのですが、、手の施し様が無く、、息をしておられる事自体が信じられないぐらいで、、」医師も私の相手をしている余裕が無い。ただ 手立てが無く、、半ば諦めている。
「何度も 呼びかけているのですが、、王太后様! 王太后様!」医師が呼びかける。
「・・・」
「私は パール領領主の『ラリマー パール』と申します。王太后様の御力とお声がけにより 我が領の騎士団 王都の騎士団 カシェット家の者達 全員怪我こそしておりますが 誰一人死んだ者はおりません。全ては王太后様のおかげなのです。。王太后様が全てを背負われて、、それなのに、、その、、その王太后様が! 私達にもっと もっと力があれば 王太后様にこれ程の、、くそーー! 私達に力が無いばかりに! このままでは 王太后様が、、」
王太后様に寄り添っていたラリマー様が 悔しそうに 苦しそうに 地面を叩く。
私も 王太后様に寄り添って手を握る。 手がとても冷たい。お顔に生気が無い。身体中に添木がされていて 痛々しい。いたたまれない。。
王太后様。。初代様。。涙が出て来て 止まらない。。
「王太后さま 王太后さま。私 強くなりました。頑張りました。初代様と2代様に 憧れて憧れて 大好きで お会いした時に認めて貰いたくて 褒めて頂きたくて 頑張りました。御二方の様になれてるのかなぁ とか 御二方も大変だったのかなぁ とか お会い出来たら お話したい事がたくさん たくさんありました」
話ながらも 涙が余計に溢れてくる。
「でも お会いしたら 緊張しちゃって、、お顔を見たら 恥ずかしくて、、まだまだ お伺いしたい事がたくさんあるんです、、昨日だって 私 サファイア柱の力 デスストーンに取られちゃいました。。まだまだ未熟なんです。わ、私 王太后様には いっぱい教えて頂きたいんです、、ねぇ 王太后さま、、私、、」
もう涙が溢れて 声にならない。。王太后様が死んじゃう。。嫌だ!嫌だ!
「あ、、あ、な たは じ、じま ん の こ、こうけ いよ、、わ、わたし も、、、」
意識の無かった王太后様が!
私は手を強く握る。
「王太后さま 死んじゃ やだ! 私 まだ 王 太后 さまに、、私 良い3代目でしょうか、、王太后さま、、みたく」
言葉が続かない、、このままだと 死んじゃう! どうしたら、、どうしたら、、
「だ い すき で 」
王太后様の 返事が無くなる。
死んじゃう 死んじゃう 嫌だ 嫌だ だめーーー!!
突然 指輪が黒く ブレスレットが青く アンクレットが白く ネックレスが赤く ローズストーンが赤く 眩いばかりに光る。
ヴィランを中心に 太陽が有るかのごとく 四色が混ざり合い オーロラ様に輝く。
光はとても眩しいのだが 神々しくもあり 優しく温かい 目も痛くない。周囲の誰もが 驚きの表情で ヴィランを見る。
手のひら程の大きさの 玄武 青龍 白虎 朱雀が 顕現する。
『我等が主 シレン様 あなた様の御心のままに。我等に御力を!』
「我の心に反応せり 四神獣よ! 我が力を受け取り 命に息吹を!」
『四柱命漲』
ヴィランを中心に 眩い光が輪となって広がっていく。その場にいる者全てが 光の広がりを感じる。
眩い光が 王太后を 騎士達を カシェット達を 木々を 生き物を 生命を 生命ある物全てを 優しく温かく包んでいく。
元々 四神獣には 治癒の力がある。だが その力を行使するには 器が必要であった。器に足りない力は行使出来ない。『ヴィーナス バースストーン』が サファイア柱(青龍)の力で『周囲の人への解毒』。 2代目『ヴィラン カシェット』が ルビー柱(朱雀)の力で『左手の火傷の治癒』。
だが ヴィランだけは違った。四柱全ての力に 自分の力を更に乗せて 周囲 全体に 全ての治癒を。命の躍動を。
騎士達が傷の治癒を自覚する。
「て、手が動く」
「出血が止まって 傷が塞がっている」
「足が折れてたのに 痛くない」
「う、動かせる」
動かなかった身体が動かせる様になり 立てなかった者が立ち上がり 治癒を実感して 感謝する。
騎士達が 感動して喜びの声を上げる。互いに抱き締め合う。
それだけでは無く 木々が青々と大木となり 草花が咲き誇る。ヴイランを中心に 生命の息吹 力が漲る。
四神獣達が ゆっくりと姿を消していく。
そして 死の淵にいた王太后が ゆっくりと目を開ける。ヴィランの方を真っ直ぐに見る。優しい瞳だ。
「あら ヴィランちゃん 涙が出ていますよ。 泣かないで ヴィランちゃんのおかげね 優しくて温かくて! 私は ほら この通り!」
「王太后さまーーー」ヴィランは 泣きながら 王太后に抱き付く。
「あ、あなた様は 一体?」
医師のプレセリブルーと 領主のラリマー パール が驚愕の表情で ヴィランを見る。
「せ、聖女さま」
「聖女様だ!」
「聖女様 聖女様ー」
どこからともなく ヴィランを『聖女』と讃える声が上がる。感嘆と感謝に溢れている。
だが 当の本人 ヴィランは 安心したのか 力を使ったからか 一日中疾走したからか 王太后に抱き付いたまま 意識を失ってしまったのである。




