ストレスに負けずに 頑張ります!
そして2年が経ち。今『ヴィラン カシェット』として 学園で悪役令嬢をしている。
皆様から言われている通り ひたすら傲慢で尊大で居る事が大切であり 孤高で孤独である事を心掛けている。
その為には 筆記試験首席 つまり周囲から有無を言わせない『ローズストーン』が必須との事。
『結構 いろいろ言われている気がしますけどね。。』
「ローズストーンを取れなければ 任務は即失敗だからな」と陛下にも脅されていた。
『おたくの息子もおるし んな簡単に言ってくれちゃって』と思ったが 私にはやる以外の選択肢が無い。『兄を当主にする為にも!』
お父様曰く『世を忍ぶ仮の姿は 悪い印象を沢山残せる程良い。その分 実際の姿とのギャップが驚きだからねー』との事。『んな事は わかってますよー』
しかし 本来の自分と掛け離れた人物を演じる事は とても疲れる。辛い。また 人々からの軽蔑の視線 陰口も分かってはいるが 正直ストレスになる。
今日も学園廊下で
王太子殿下の後ろを歩いていた。少し先に人の気配がする。急に人が飛び出して来た。
私は さっと前に出てぶつかる。
「あなた 急にぶつかって来て 失礼よ。土下座して謝りなさい」
私は 廊下でぶつかって来た令嬢に対して 謝罪を無理強いする。
「こ、これは ヴ、ヴィラン様 失礼致しました」令嬢は 驚いた顔をして立ったまま 頭を下げて謝る。
「言った言葉が理解が出来ないの? 土下座よ。土下座」扇子で地面を示す。
周囲の令嬢達も「ヴィラン様にぶつかって於いて 失礼よ」などと言っている。
『ちょっと やり過ぎかなぁ? でもやり遂げる約束だし。。調べないと』
見かねた 殿下が声をかける。
「ヴィラン それはやり過ぎだ。謝罪しているではないか。そのくらいにしておけ」
ぶつかった令嬢は 殿下に頭を下げると 逃げる様に去って行く。
『あーあ。逃げちゃた。まっいっか 顔覚えたし』
「ヴィラン。君は変わったな。以前は優しく 人の失敗を受け流す寛容さを持ち合わせている令嬢だったのに。。残念だよ」綺麗な顔立ちの殿下が 怪訝な顔で言う。
「私は何も変わっておりませんわ。殿下」
『あんたの親父の頼み事。命令なんだよ。私だって こんな事やりたくないのよ』
「見て。ヴィラン様が また殿下に諌められいるわ」
「ヴィラン様 ローズストーンだからって 威張り散らしていて 皆様迷惑しているのよ。いい気味だわ」
「悪女よ。悪女。圧が凄過ぎて 圧女。圧女よ」
周囲から ヒソヒソと だが聞こえる様に声がする。
「ヒソヒソと陰口しか言えないなんて 情け無い。文句があるなら 堂々と私に言いなさい。悔しければ『ローズストーン』を獲得なされば 良いだけの事。それも出来ずに 陰口ばかり。情け無い負け犬どもが」
『チョー悪役令嬢ぽかった。。頑張ってるよシレン。。私だって ほんとは 皆んなと仲良くしたいんだよー。誰が陰口言われて 嬉しいもんか。。』
戦闘訓練の授業で
準備体操として グランドを3周走る。私は毎回の事ながら「はぁはぁ。はぁはぁ」息切れをわざとらしいぐらい激しく行い 当然最後尾を走る。
私は模擬戦剣を持ち 同級生の令嬢相手に構える。相手が 私目掛けて斬り込んで来る。
『袈裟斬りだなー。おっそー。動きおっそー』と思いつつ。剣で受ける訳にも 躱す訳にもいかない。弱いヴィランを演出して 周囲に印象付ける必要がある。これまでもそうして来た。私は止む無く 斬り込まれる瞬間に 自ら後ろに倒れ込む。『痛いの嫌だしね』
「いったー!!」大袈裟に言う。
相手はドヤ顔。無性に腹が立つ。。しかし我慢。我慢。
「やったわ!」相手はガッツポーズである。
「ヴィラン様って ほんと運動音痴よね」「運動全く出来ないなんてねー」「ヴィラン様に勝ってもねー」明らかにバカにした様な声が聞こえる。
『我慢よ。我慢。シレン』
「戦闘訓練なんて 貴族令嬢の嗜みでは無く。ガサツよ。出来なくて当然だわ」一応言っておく。
「まぁ 負け惜しみよ。負け惜しみ」などと聞こえる。
『悔しい。あんなの全然 防げるのに。。』
放課後 私は『忍者』に『へーんしーん』した。
授業後の 恒例通学路ゴミ掃除タイムである。
あまりにも戦闘訓練授業がストレスだった上 不審者が 5人も居た。それも1人ずつでは無く 束となっていた。『チャーンス!やったね』
「ちょっと お兄様方。こんな所に居られたら 困るんだよね」背後からこそーっと近付き 声色を変えて言う。
不審者は 突然の出来事に驚く。「何者?我らに よく気付いたな?」
『いや目立つし 気付くっつうの』
馬車道脇の雑木林で ストレス発散とばかりに 5人と正面から打ち合う。
「はいはい 5人一緒にどうぞ」私は挑発する。
「5対1だぞ。声をかけて来た勇気は認めるが・・」どさっと途中で倒れる。
「はい。1人終了」私は鬱陶しいので 斬り伏せてしまった。『待てなかったなぁ』
当然 峰打ち。殺しておりません。
4人が一斉に 距離を取って私を円形に囲む。
「はい 3人」もう1人も腹部への掌底での打撃で無力化した。『ちょっと スッキリ』
こうなると 相手方が萎縮して 少し怯えている。『可哀想だから 一気にいきますか』
私は 半円を描く様に 3人に斬り込む。3人とも反撃する間も無く 無力化される。
『あっー。スッキリした』
5人に 張り紙をして またもやポイ捨てして置く。
「王太子殿下 バイバイ〜」私は見送る。
何事も無い馬車道を 殿下の馬車がいつも通り走って行く。『平和だねぇ〜』
そうして 少しスッキリして カシェット家の自室に戻って来たのだが。。やっぱりマリーの顔を見ると 自然と涙が出てくる。私はマリーに飛び込んで甘える。
マリーは 優しく包み込んでくれる。
「マリー。えぐっ。えぐっ。私だって 辛いんだよーー。なんで こんな事してるんだよー」
「お嬢様は良くやっておいでです。よしよし」マリーは 頭を撫でてくれる。
「もう 皆んな 陰口ばっかり。弱い振りとか。。もうムカつくーー。私の気も知らないでー」更に泣く。
「毎日 毎日 大変かと思います。そんなに泣かれては 明日お顔が腫れますよ?」
マリーが ハンカチで涙を拭ってくれる。
マリーは 私が毎日愚痴を言える唯一の相手。私が落ち着くまで 愚痴を聞いてくれる。
「お嬢様。少し落ち着かれましたか? 紅茶でもお淹れしましょう。今日は お嬢様の大好きなフィナンシェを買っております」
「えっ! フィナンシェ? 食べるー。食べゆー。マリーの紅茶 飲みゅー」
マリーにもっと甘える。マリーの顔を見る。
「私は目立ちたく無いのに。家族と別れて寂しいんだよ。なのにさー」
私は グズグズになりながらマリーの腕の中から出る。マリーは お茶の準備をしてくれる。
「これって 誘拐だよ。拉致監禁だよ。犯罪なんだよ! 誰か奴等を 裁いてくれー」
私は 椅子に座って マリーの淹れてくれた紅茶とフィナンシェを頬張る。
食べ物の効果は偉大だ。大分落ち着いて来た。
「そうですね。お嬢様 事を成し得ましたら ご一緒に殴ってやりましょう」
「うん」
ここでようやく 本日の任務の話をする。
「でさぁ。殿下の身辺に他に変わりは無い?」
「それがです。何者かが 殿下の周りを探っております。来週の『春の交流会』で仕掛けてくる可能性があります」
「そっかー。私も感じてた。今日殿下にぶつかりに行こうとした奴 怪しかったもん。こんなの持ってた。私が前に出て 受け止めたけど。殿下に刺さっていたら」
私は 針の付いた指輪の入った小さな容器を机の上に置く。
「さすがは お嬢様です。これは毒物ですかね? 調べておきます」マリーは 容器を片付ける。
「まぁ 私は 大抵の毒物に死なない身体なんだけどね」
「そうでしたね」笑ってくれる。
「そう言えば 本日は 旦那様がお屋敷にお戻りです。お食事をご一緒に。との事です」
「そっか。報告だね。了解です」
カシェット家食堂に於いて
「ヴィラン 学園生活はどうだ? 変わりないか?」『殿下はどうだ? 何か異変はあったか?」
「はい。学園生活は退屈しませんわ。いろいろと問題ばかりで」『殿下の周辺に問題発生!』
「そうか。噂では ガーネット家のご令嬢が 殿下に色目を使っているとか?」『ガーネット家の関与はどうだ?』
「はい。本当にただの色目ですわ。でも アウイン商会が幅を利かせておりますわ」『ただのバカですわ。ガーネット家は違います。アウイン商会かと』
「そうか。アウイン商会か。ところで 殿下は格好良いからな。他の令嬢も声をお掛けしているのでは?」『アウイン商会か。他に貴族の関与は?』
「沢山の方達が 殿下に気を遣っておられます。どなたが殿下の好みか難しいですわ」『まだ 不明』
「そうか。ところで ヴィラン 頑張っているらしいな。なんでも成績は首席。ローズストーンだと聞いている。優秀だな」『任務ご苦労。引き続き 調査を。ちなみに 成績首席 ローズストーンじゃ無いとクビ!』
「はい。お父様の言いつけを しーっかり守ってますわ」『お前が巻き込んだんだろーが!死にたか無いもんねー』
などと 周囲の侍女・執事達にバレ無い様 本音と建前を使い分けて 報告する。
『腹話術か? だが腹芸も訓練済み』
「ところで お父様 来週の交流会が 楽しみですわ」『来週の交流会。仕掛けてくるかも』
「そうか。確か1年生から2年生まで 一堂に会して集まるのだったな。殿下も普段は 護衛に囲まれているが 来週の交流会は さぞかし楽しみだろう」
『来週の交流会。可能性はある。ただ殿下の護衛が難しい。お前がしっかりしろ』
「そうですわね。交流会。殿下だけで無く 他の方々も さぞ楽しみでしょう」『わかってますよー。言われなくても! 任務だし。仕掛けてくる奴も いい機会と狙ってるかも』
「交流会は 学生の行事。大人は入る事が出来無いから 残念だ。お前の晴れ姿を見てみたいところだよ」『交流会。ほんと護衛難しいからね。お前ちゃんとやれよ。見張れないんだから』
「お父様。私の晴れ姿なら いつでもご覧になれますわよ。おほほほほほ」
『悔しかったら 見に来いよ』
「そうだな。まぁ お前なら大丈夫と思うが 事前準備をしっかりとね」『未然に防ぐ事を心がけてくれ』
「入念に準備しておきますわ」『探り充分いれますよー』
食事は終わる。周囲を見渡すと侍女・執事達がうっすら泣いている。
『何コレ? 宰相が忙し過ぎて 娘の交流会見に行けなくて 可哀想的な? まぁそんな事 どうでもいいや。とりあえず 来週の交流会の前に ちょっと調べたい事があるし。うーん。お父様にも言っちゃたから。探って来ようかなぁー。私がきちんとしないとマリー以外手伝ってくれないし。。まーた 1人かーー』




