パーティーメンバーに「お前はバフだけかけとけ」と言われてムカついたので敵にバフをかけてやります
俺は魔術師のエヴァン。金を貰って戦闘のサポートをする仕事をしている。いわゆる傭兵というやつだ。
レベルはまだ20と低いが、元々のポテンシャルが高いため、攻撃魔法も補助魔法も完璧に使いこなせる。その代わり金はたんまりといただくがな。
さて今日はどんなお客様が来るかな。
「傭兵がいるのはここか〜?」
俺の事務所に三人の男達が入ってきた。剣士、槍使い、武闘家、恐らく俺を雇いに来た冒険者達だろう。
「本日はどういったご要件で?」
「これから迷いの森の探索に行くんだ。見ての通り俺達は前衛職ばかりでな、高難度のダンジョンに行くなら後衛職も必要だと思ってあんたに冒険の同行を依頼しに来たんだ」
そう話したのは剣士の男だ。どうやら彼がこのパーティーのリーダーらしい。
「かしこまりました。お代は高くつきますがよろしいですか?」
「これだけあれば足りるか?」
テーブルの上に金貨がパンパンに詰まった袋が置かれる。一般人の一年分の収入に相当する大金だ。金払いの良さから彼らはかなりのベテランであることが伺える。
「良いでしょう。あなた達の冒険に力をお貸しします」
こうして俺達は迷いの森へと向かった。
町からしばらく歩き、迷いの森にたどり着いた。
「グルルルルル……ワォーン!」
草陰から獣が飛び出して来た。狼型モンスター、ワーウルフだ。一匹だけでなく十匹以上の群れだ。
「さてと、俺の力を見せてやりますか」
杖を構えて臨戦態勢に入る。今から俺は最強の攻撃魔法、ヘルインフェルノを発動させる。俺に逆らう愚かなモンスター共を灰にしてやるぜ。
「おっと兄ちゃん、引っ込んでな!」
「はい?」
武闘家の男が俺の杖をぶん殴って魔法を妨害する。
「俺達は戦闘のプロだ。全員レベル90を超えている。兄ちゃんが戦わなくたって、こんな雑魚モンスターは一瞬で蹴散らせられるよ」
「いやでも、お金貰ってる以上は仕事しないと」
「俺達があんたにお願いするのはあくまで後方支援だ。強いモンスターが現れた時に、攻撃力や防御力をアップさせて欲しいんだ。なあ、リーダー?」
「そういうことだ。お前はバフだけかけとけ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かがプツリと切れた。
俺は自分の魔法に誇りを持っている。その俺に対して「お前はバフだけかけとけ」というのは俺の存在そのものを侮辱したに等しい。
こいつらを決して許さないと決意した。
「おい兄ちゃん、聞いてるか?」
「はい、わかりました。ご命令の通りバフをかけさせていただきます」
杖に最大限の力を込めてバフスキルを発動させた。攻撃力、防御力、素早さなどあらゆるステータスを本来の十倍以上に引き上げる最強のバフスキルだ。
ただし、その対象は冒険者達じゃない。
「リーダー何かおかしいです!」
「どうした?」
「ワーウルフがいつも以上に強いです! 何度攻撃しても倒せません!」
「ハッハッハ! 何言ってんだ。冗談ならもっと面白い冗談を……」
「ぐわぁぁぁぁ!」
武闘家の男の身体が真っ二つに引き裂かれた。ワーウルフの爪先がチョコンと触れただけでだ。
そう、俺がバフスキルをかけたのは味方じゃなくて敵だ。俺を侮ったこと、あの世で後悔させてやる。
「ジャンーーーー! クソが! いったいどうなってやがる!」
あの武闘家の名前はジャンというのか。まあ俺には関係の無い情報だ。どうせすぐ忘れるだろう。
「リーダー助けて! うわっ!? やっ、やめろぉぉぉ!」
続いて槍使いの男も身体をズタズタにされて絶命する。
「あぁ…………」
リーダーの男は地面にへたりこんでしまった。長年冒険をしてきた仲間が目の前で無惨に殺されたのだ。無理もない。
「手を貸してやろうか?」
「本当か?」
「ああ。土下座して頼み込めばな」
俺だって鬼じゃない。心の底から助けを求める人間には救いの手を差し伸べる。
「お願いします。助けてください!」
「お前を助けたらどんな見返りがある?」
「お金でも何でも、欲しい物は全て差し上げます!」
「それは全財産をくれると受け取っても良いんだな?」
「はい! だから早く助け……」
話している間に男はワーウルフに食べられてしまった。全財産をもらえる機会を失って残念だ。
不機嫌になった俺はストレス発散にワーウルフ達を虐殺してから事務所へ帰還した。
最近なかなか依頼が来ないな。代金があまりにも高過ぎることが原因だろうか。今日から数日間、半額キャンペーンでも開催してみるか。
「ごめんくださ〜い!」
考えごとをしていると事務所に一人の少年が現れた。
「本日はどういったご要件で?」
「僕は国王様から魔王討伐を命じられた勇者です。冒険に同行していただけませんか?」
「ふむ。それで自分はどんな役割を担えば良いので?」
「戦闘は全て僕がやるので、あなたはバフだけかけてください」
「かしこまりました……」
ここまで読んでいただきありがとうございます。面白いと感じたら★評価していただけると幸いです。
私は「JK四天王のゆるふわ学園生活」という長編小説も連載しております。四人の女子高生の高校生活を描いた日常系コメディ作品です。
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