9.観戦者と名付け
時は少し遡りーーーーーーーー
暗い洞窟内の天井付近に開いた黒い空間。
その空間は亜空間から外界を覗き見る事が出来るモニターのような役割をしていた。
そのモニター越しに外界の様子をうかがっている者がいた。
その者は、一言で表せば悪魔であった。
身長は高く180センチはあり、身体の色はオレンジで身体の周りを常に薄黄緑色の魔力を纏わせている。
鋭く切長の眼窩にエメラルドのような瞳を宿している。
口は張り裂けんばかりに開かれ無数の鋭い牙が並んでいる。
耳の形は包丁のようで上向きに生えている。
手足の指は4本で爪は鋭く足のかかと部分からも猛禽類の鉤爪が生えている。
肘関節とひざ関節には鎌を思わせる突起が生え、悪魔の背中から生える羽は刃物のように鋭いが細く、飛ぶことを目的にしていないような小さなであった。
そんな悪魔は眼下で行われている戦闘の様子を何気無く眺めていた。
その悪魔は不意にこの世界に自分に近しい力を持った何者かが誕生したことを察し、気配を辿ってこの暗い洞窟を見つけた。
外界を覗いた時には小さな虫けらが数匹うさぎの体内から出てきた場面であった為、悪魔は感じた気配は気のせいだったのではと自分自身を疑った。
その後に生まれてきたキーメックスの変異種を目の当たりにして瞬時に、こいつだっ!と悪魔は好奇の目を変異種に向けた。
最初は虫けら共の戦闘を眺めていたが、悪魔から見たあの戦闘は余りにも詰まらなく最低辺にいる魔物らしい戦いにすぐに興味を失った。
変異種が脚を切り飛ばされ岩壁に打ち付けられたところでこれは終わったなと感じ、空間を閉じようとしたーーーーその時。
瀕死の状態だった変異種の身体から暗い洞窟内を照らすほどの青く光った。
慌てて眼下に起きた異変を前のめりで確認する悪魔。
その後うさぎの死骸と魔蟲の死骸を魔力に変換してオレンジ色の魂を具現化、青い空間内にてオレンジ色の魂同士が混ざり合う光景を目の当たりした悪魔は驚きの声を上げた。
「やはり!これは俺と同じスキル【融合】!?」
変異種がスキルで生み出した合成魔獣はこの世界に存在しない魔物で、悪魔自身も眼下の合成魔獣を興味津々に眺め、感嘆の声を発した。
「ほぅ、これはまた・・・」
そこからの変異種の戦いは一方的で、うさぎの見た目をした凶刃を備えた合成魔獣はキーメックスを一瞬にして葬った。
しかし、悪魔には分からない事があった。
「スキル【融合】を発動させたやつはどこへ消えた?」
そう、悪魔も同じスキルを持っている為このスキルの特徴は理解している。だが悪魔がスキル【融合】を発動させて合成魔獣を生み出しても発動者本人がその場から消えることは無かった。
悪魔は注意深く気配を探ったが変異種の姿は確認できず、合成魔獣からやつの気配を感じると悪魔は一つの結論に達した。
「そうか、奴自身が魔石となる事でこの世界に存在しない合成魔獣を生み出せるのか・・・これは興味深い・・・」
ファルクスラプスが洞窟から去った後、悪魔は何かを決意したようで指先に小さな白い光を灯しこう宣言した。
「特殊なスキル【融合】を持つ者をフュージョ二ストの称号を持つこの俺、シン・クロの名においてあの者にこの世界での種族名と個体名を与える!
これからは奴の種族は『フュージョン・ビネガロン』個体名を『アスピダ』とする!!」
悪魔は指先に灯った白い小さな光を両の掌で大きな光の塊にして、宣言と当時にその光を上空に向けて放った。
その光の塊は亜空間を飛び出し外界の上空へと上がっていき、空中で爆散、小さな光の塵となり全世界に拡散された。
拡散された光は世界に存在を報せる目的とは別にもう一つ、この世界に存在君臨している同じスキル【融合】所持者、スキル【融合】を司る神に報せる目的もあった。
これにより、変異種改めアスピダは世界に君臨している全てのスキル【融合】所持者のその存在を認知されることとなった。