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真夜中の闇と導きの流星

作者: さいか

 これは、流れ星のこども『ルゥ』のおはなしです。


 ルゥはさそりの心臓(アンタレス)のような赤いひとみに、わたあめのようにふわふわとした金色のかみ、まっしろなシャツを着た、まるで夜空にかがやく星のようなすがたの男の子です。


 流れ星はみんな、おねがいごとをきらきらとしたひかりのように見ることができました。

 そして流れ星は人々のおねがいごとをかなえることが大好きだったので、おねがいごとを見つけてはそれをかなえてきたのです。


 ルゥもそんな流れ星のひとり。おねがいごとをかなえるそのときが楽しみで、いつも夜空から人のくらしを見ていました。

 けれど、流れ星にねがいをかけるひとはめっきりへって、今までおねがいごとをかなえるチャンスはなかったのでした。


 そんなある日のことです。


 きらり。

 まるで(きり)に包まれた夜の一番星のように、誰かのおねがいごとが地上でわずかにまたたきました。


 ルゥはおねがいごとをしっかり見つけようと、お空のふち(・・)から思いきり身を乗り出します。


 けれど見えるものは真夜中の闇(まよなかのやみ)だけで、見えたはずのひかりはどこにも見当たりません。


 もう少し。

 もう少し。


 ルゥはそうやって身を乗り出して。


「あっ!」


 ぐらり、とルゥの体が傾きました。


 落ちていきます。

 ルゥの体は、流れ星たちのすべり台を通ることなく、まっすぐ、まっすぐ地上に落ちていってしまったのです。


 そのすがたを地上のひとがだれも見ることがないまま。

 だれかのおねがいごとをかなえることができないままで。


ー◇ー


 ルゥがめをさましたとき、そこは地上。真夜中の闇(まよなかのやみ)のなかでした。

 いくらあたりをみわたしてみても、そこにはまっくらやみが広がっているばかりでした。


 不安とさびしさをかかえたまま、やがてルゥはあてもなく歩き始めます。


 しゃりしゃり。

 しゃりしゃり。


 ルゥの小さな足が砂をふみしめる音だけがあたりにひびきます。

 

 しゃりしゃり。

 しゃりしゃり。


 そうやって砂の山を一つこえたとき、ルゥはたおれている男のひとを見つけました。

 ぱあっ、とルゥの顔がほころびます。

 はじめてひとと会えたのです。

 きっとおねがいごとをしてくれる。そう思うと不安とさびしさはふきとんでしまいました。


「おにいさん、だいじょうぶ?」


 ルゥはしゃがみこんで声をかけます。

 けれど、男のひとはくちびるをわずかに動かすのがやっとで、とてもだいじょうぶなようには見えません。


「みずがほしいの?」


 小さな口の動きから、ルゥはことばをよみときました。それは合っていたようで、男のひとはまばたきをして、「そうだよ」というきもちをつたえます。


「わかった! ありがとう!」


 ルゥはとっても幸せでした。

 だってまちのぞんでいた、はじめてのおねがいだったからです。


 ルゥの小さなひとさしゆびが、真夜中の闇(まよなかのやみ)の中でくるくると動きます。

 ゆびが通ったあとは光の糸になっていて、夜空を流れる星のよう。

 やがて流れ星はひとところに集まって、ぽん! 水の入ったおおきなコップになりました。


「おにいさん、お水だよ。どうぞ」

 

 ルゥはコップを男のひとの口元に持っていき、水を飲ませてあげました。


 ごくごく。ごくごく。

 男のひとが飲みほすたびに、ルゥは水をあげました。

 そして五回目の水を飲みほしたあと、男のひとは「ぷはーっ」と大きく息をはきました。


「ありがとう。助かったよ。きみは天使さまみたいだ」


「ううん。ぼくは天使さまじゃないよ。おねがいごとをかなえる流れ星なんだ」


「流れ星?」


「うん、そうだよ」


 ルゥは人さし指を上にかかげました。

 男の人がつられて上を見ると、夜空が見えました。

 まっくらやみではなく、たくさんの星がまたたいているのが見えました。

 

「おにいさん。他におねがいごとはないかな?」


 ルゥは夜空を見上げている男のひとに声をかけました。


 おねがいごと。

 それは男のひとにはたくさんあるはずでした。

 真夜中の闇(まよなかのやみ)のなか、たった一人で砂漠(さばく)を歩いていたのだから、男のひとにはたくさんの「足りないこと」があったはずなのです。


 けれど。


「そうだね。ここからもうしばらく歩いた先に私が住んでいた町、『ひとりぼっちのまち』があるんだ。そこのひとたちのおねがいを聞いてくれないかな」


 男のひとは自分のものではない、だれかのおねがいごとを口にしました。

 きっとそれはルゥが水をくれたから。

 夜空がまっくらやみではないことを見たからなのでした。


ー◇ー


 砂の山を七つこえたさきに、男のひとが言う『ひとりぼっちのまち』はありました。

 ルゥがたどり着いたときにはすっかり日は登っていて、石づくりの建物がならんだ大通りをたくさんの人が行き交っています。


 ルゥはさっそく近くにいたお姉さんに「おねがいことをおしえて」と声をかけました。

 けれど、お姉さんはその言葉を気にする様子もなく歩いて行ってしまいます。

 それから、おじさん。おばさん。さらにはお店のおじいさん。

 だれに声をかけても、ルゥの言葉に答えてくれるひとはいませんでした。


 もしかしたら。

 ルゥが砂漠(さばく)を越えてきた砂まみれの格好でなかったら、だれか話を聞いてくれたかもしれません。

 けれど、ルゥの格好はぼろぼろで、『ひとりぼっちのまち』にたくさんいる『ごみあさり』のこどもと似ていたので、だれもルゥの話を聞いてくれませんでした。


 そしてずいぶんと時間が過ぎたころ、ルゥは小さな路地から自分を見ている男の子に気がつきます。


 男の子は『ごみあさり』の子でした。すりきれてうすよごれた服を着ています。そしてごはんを食べられていないので、ひどくやせていました。


「ねえ、きみのおねがいごとを教えてよ!」


 ルゥは男の子に笑って声をかけました。こちらを見ていたのだから、きっとおねがいごとがあるんだろうと思ったのです。


 けれど男の子はルゥのことをじいっと見つめるだけで何も話してくれません。

 

 にこにこ。じいーっ。にこにこ。じいーっ。


 しばらく見つめ合う時間が続きました。

 ルゥも、おねがいごとを言ってもらわないとかなえることができないので、ただにこにこするばかりでした。

 そして、やがて男の子が口を開きます。


「ここ、おれのとこだから。めだったら、おれまでおこられる。べつのところにいけよ」


「別のところに行ってほしいの?」


 ルゥはびっくりしました。

 とてもかんたんなおねがいごとでしたし、それで男の子が幸せになるようには思えなかったからです。


「ごはんやおみずはいらない?」


 思わずルゥはたずねていました。

 ほんとうは相手からおねがいごとを聞くのが流れ星の決まりごとだったのですが、口から出てしまっていたのです。


「ぬすんだものならいらない。おれまでなぐられるから」


「ううん。ぬすんだものなんかじゃないよ?」


 ルゥはびっくりしました。

 その、ルゥがびっくりした様子に男の子も少しだけびっくりしたようでした。


「じゃあ、いいごみばこにありつけたんだな。それならじぶんでたべろよ。このまちはみんな、そうやってじぶんだけのことをかんがえるものだから」


 そう言って、男の子は初めて少しだけ笑いました。

 それがルゥにはとてもかなしいことのように感じました。


「ううん。ちがう。ちがうよ。ごちそうも、おみずも、出してあげられるよ。だから、さあ。おねがいごとを言ってよ」


 ルゥはムキになって言いました。

 男の子はそれがまるで『自分がごみあさりになったことを認められないこどもがかんしゃくを起こしている』ように見えて、かわいそうになりました。


 だから、おままごとに付き合う気分で。


「じゃあ、ラクダ肉のスープを出してくれ」


 そう言って、両親がまだいっしょにいたころに食べたごちそうのことを口にしました。

 

 それで。

 それでルゥの胸はいっぱいになりました。


 言葉を聞いて頭にうかんだ、とても幸せでおいしそうな料理のおねがいごとを思いきりかなえようと決意しました。


「少し待ってね!」


 ルゥの小さなひとさしゆびが、ろじうらのかげの中でぐるんぐるんと動きます。

 ゆびが通ったあとはかがやくひかりのおび(・・)になっていて、まるで夜空をかける星たちのよう。

 やがて星たちは大きな光のうずとなり、強く、強くまたたいたあと、大きなお皿に入ったスープになりました。

 中には、ごろごろとおおつぶなお肉がたくさん入っています。


「はい! どうぞ!」


 いきなりあらわれたスープに対し、男の子はおどろきます。けれど、ゆげのたつスープはとてもいいにおいがして、思わずスープを口にしました。


 そして。

 それはやっぱりとてもおいしかったのでした。

 だって、男の子は何かを言うこともなく、ただずっと、三回もおかわりをするまでスープを飲みつづけたのですから。


ー◇ー


 『ごみあさり』たちのねどこになっている、町はずれのたてもの。そこは、幸せな気持ちであふれていました。


 ぱくぱく。もぐもぐ。

 ぱくぱく。ごっくん。


 男の子に連れられたルゥが、『ごみあさり』たちが望むだけ、ごちそうをあげていたからです。


 お腹いっぱいになった『ごみあさり』たちは、この町がどうして『ひとりぼっちのまち』になったのかルゥに話してくれました。


 この町はオアシスにできた町であること。

 ある日、町ができる前からずっとわきだしていた水が、とつぜん出なくなってきているということ。

 自分のぶんの水がなくなるのではないかという不安から、町の人が水をひとりじめしだしたということを。


「だから強いやつらは水を沢山ためこんで、ダメになった大人はいなくなり、こどもたちは『ごみあさり』になったのさ。そうしてみんな何もかもに期待しなくなった」


 そう言って、背の高いお兄さんの『ごみあさり』はむなしそうにわらいました。


「じゃあ、オアシスのお水がもっとたくさん出ればいいのかな?」


 それはとっても大きなおねがいごとです。ルゥは、きっとこのおねがいごとを聞いてかなえるために自分が地上に落ちてしまったんじゃないかと思いました。


 けれど。


「いや、そうしてもらってもどうせ水はひとりじめされるだけなんだ。だからさ、ルゥ。俺たちにずっと食事を出してくれよ。みんなもそう思うだろ」


 そう言ってお兄さんはあたりを見回しました。お兄さんと目があった『ごみあさり』たちもこくこく(・・・・)とうなずきます。


「それが俺たちの『おねがいごと』さ」


 そういうお兄さんに、ルゥは「うん! 分かった!」とにっこり笑います。

 その様子を、ルゥを寝床に連れていった男の子だけが心配そうな顔で見ていたのでした。

 

ー◇ー


 日が経つにつれ、ねぐらには別の場所にいた『ごみあさり』たちも集まってくるようになりました。

 初めからいた『ごみあさり』たちも、どんどんと他の『ごみあさり』たちを受け入れます。

 だって、もう食べものは取り合う必要がないのですから。


 そして。

 『ごみあさり』だったこどもたちは『ごみあさり』ではなくなっていました。

 おいしいごちそうがあるのだから、こわい思いをしてごみをあさる必要がなくなったのです。


 じゃあ、何をしているかというと。


「あはははは!」


 ほとんどのこどもたちは遊んでいました。今まで得られなかった「楽しい」を全身で味わっていたのです。


 そしてそれ以外の、お兄さんやお姉さんたちはときどき集まって話をしていました。それはもしかしたら怖い話、水をひとりじめしている人たちに何かをするための話だったかもしれません。

 けれど、それはじっさいに行われることはありませんでした。

 食べるものはたくさんあって、ほしいものがぜんぶ手にはいってしまうので、だれかをきずつける気持ちは自然とうすれてしまっていったのです。


 そうして、しばらくのあいだルゥはおねがいごとをかなえていきました。

 いつのまにか、金色でふわふわだったかみのけは、ひどく色がくすんでがさがさ(・・・・)になっていました。


ー◇ー


 ある日のことです。

 ルゥは、ルゥを寝床に連れていった男の子と市場に来ていました。

 かつて『ごみあさり』だったこどもたちは、最近ルゥの知らないところでお金を手に入れているようで、ときどきかいものに来ているのでした。

 そして、こどもたちもお金をちゃんと払うので、お店の人たちもきちんと物を売ってくれるようになっています。


 男の子は色とりどりの糸や生地が並べられている店の前で立ち止まりました。

 ルゥにはないしょなのですが、男の子は布でできた首かざりを作ろうとしています。

 リーダー。ルゥにごはんを出しつづけるようにたのんだあのお兄さんから、町に古くから伝わるやり方を教わっていました。


「うーん……」


 男の子はきらめくような金色の糸と、深くしずみこむようなあいいろ(・・・・)の生地を探しています。けれど、なかなかイメージに合うものが見つかりませんでした。


「店の奥にあるやつも見るか?」


「いいの?」


「そりゃいいとも」


 店のひとが笑うすがたに男の子もうれしくなりました。


「ルゥ、いいかな」


「いいよ。お店のまえでまってるね」


「ありがとう」


 お店の奥に消えていく男の子をルゥはしあわせなきもちで見送りました。

 おねがいごとをかなえていないのに、しあわせなきもちになるのが少しふしぎでしたが「それでもいいか」と思いました。


 そして、男の子を見送って少ししたあと。

 ぐらり。

 ルゥの体がかたむきました。

 

(そろそろなのかな)


 ルゥはそう思いました。

 最近なんども、体がぐらっとするような感じがあったからです。

 流れ星の燃えつきるさまを感じました。


 けれど。


 今回ぐらっとしたのは、ルゥだけではありませんでした。

 そしてすぐ収まるものでもありませんでした。


 ぐらぐら。ぐらぐら。

 建物が。人が。

 砂でできた地面が、その上に乗せているもの全てを乗せてゆれて。


 そして。

 地面が抜けました。


ー◇ー


 泣き声とうめき声があちこちにこだましていました。


 オアシスの地下の大空洞(だいくうどう)が、水が枯れたせいでつぶれてしまったのです。

 まるごと大きな穴にのみこまれた町は、建物のほとんどが倒れてしまっていました。

 あちらこちらで火事が起きていて、けぶる灰がいたるところで()っています。


 目をそむけたくなるような光景でした。

 けれど、ルゥには助けを求めるさけび声が聞こえました。


 だから。

 ルゥは石でできた建物をどかしました。

 ルゥはけがを負った人のきずを治しました。

 ルゥは燃えさかる炎を消していきました。


 助けたい。


 自らのうちにめばえた、だれかのためのおねがいごとをかなえていきました。

 炎がのどを焼くままに、とがった建物のかけらが体中をきずつけるままに。


 もう、さそりの心臓(アンタレス)の赤いひとみは何も写しません。

 もう、わたあめのようなかみはこげてしまいました。


 けれど。

 ルゥがうでをふるうたび、真っ黒な煙に包まれていてもなお、かがやきは光のきせきをえがきます。

 

 だってルゥは流れ星なのだから。

 その体すべてを星のきらめきに変えておねがいごとをかなえるものが、流れ星なのだから。


 だから。

 そうしてだれひとり欠けることなく、全ての人を助けきったあと。

 残る力のすべてで、やまもりのごちそうとお水を出したあと。


 ルゥはゆっくりとその目を閉じました。

 ルゥのことを抱きしめて泣く、男の子の胸の中で。


ー◇ー


 それから。

 それからずっと長い時間が流れました。


 こどもが大人になるほどに。

 『ひとりぼっちのまち』がなくなってしまうには十分すぎるほどに。


 そして、ルゥは目を開けました。


 目の前に、たくさんのひとがいるのが見えました。

 たくさんの、おねがいごとのひかりが見えました。


 そう、どれだけ時間がたっても、ルゥにおねがいごとをしたい人はいっぱいいたのです。

 だって『ひとりぼっちのまち』にいた人たちはみんな、ルゥの奇跡を目の当たりにしたのですから。


 どうして目をさますことができたのか、ルゥには分かりません。

 けれどおねがいごとのひかりが見えたのならば、ルゥが口にすることはひとつなのでした。


「ねえ、おねがいごとを教えて」


 そう言って、にこやかに笑いました。


 でも。

 でも、たまったもんじゃないのです、そんな笑顔。


 ずっとずっと。


「お前に起きて欲しかった。みんな、お前に起きて欲しいと願っていたよ」


 みんな、自分のためじゃない、ルゥのためのおねがいごとをかかえて、ルゥのお世話をしてきたのですから。


 ルゥに声をかけたのは、大人になった男の子でした。『ひとりぼっちのまち』で初めてルゥと話した男の子でした。


 次に声をかけたのはのっぽのおじさんです。


「ルゥ。きみが俺たち『ごみあさり』を助けてくれたから。俺たちに他人を助けるということを教えてくれたから、俺たちは町の大人たちと協力できたよ。だからもう、ここは『ひとりぼっちのまち』なんかじゃないんだ。ありがとうな」


 のっぽのおじさんはリーダーのお兄さんでした。少しだけ前に出たがりな性格は変わっていませんでした。


 次々と。次々と、ルゥは声をかけられました。

 『ごみあさり』だったこどもたち。

 助けたであろう『ひとりぼっちのまち』のひとたち。


 たくさんのひとたちの、たくさんのルゥのためのおねがいごとのかがやきにふれて。


「ああ、分かった」


 ルゥは自分がどうして目覚めることができたのか分かりました。

 だってルゥの体の中には、だれかによるルゥのための、だれかによる別のだれかのためのおねがいごとが満ちていたのです。


 それは流れ星の存在そのもの。

 だれかのおねがいごとをかなえる、ということそのものでした。


「なあ、ルゥ。ずっとわたしそびれてたんだけどさ、これやるよ。この町で古くからやられてた作り方で作ったんだ」


 大人になった男の子がルゥに首かざりを手渡します。

 首かざりは、布でできたかざりが首ひもに着けられたものでした。


「わあっ! これは流れ星だね!」


 ふかいあいいろ(・・・・)の生地の真ん中に、かがやくような金色のししゅうで流れ星が描かれています。そのまわりには、色とりどりの四角や十字のもようが散りばめられていました。


「ルゥ、お前は自分のことを流れ星だってよく言っていたけれど。きっとそれは本当なんだろうけど。それでも、俺はお前に燃えつきてほしくないと思うようになっていたよ」


「うん」


「この首かざりの流れ星はずっとそのままだからな。ルゥ、お前ももう、そのままでいろよ。俺がかせいでやしなってやるから」


 ああ、もういっぱいだ、と。

 このくびかざりでいっぱいになったと。


 ルゥは全身全霊(ぜんしんぜんれい)で感じました。


「ねえ、みんな。そとにでようよ」


 目覚めてからほんのわずかな時間しかたっていないけれど、別れのときはもうすぐそばでした。


ー◇ー


 外は真夜中の闇(まよなかのやみ)の中でした。

 大人になった男の子がたいまつをつけると、あたりはぱあっと明るくなります。

 

 ルゥはこっそりと声をかけました。


「そういえば、なまえ。知らない」


「お前なあ。サーヒブだよ。忘れるなよ」


「うん。サーヒブ。サーヒブ。サーヒブ。おぼえた。忘れない」


 ルゥは名前を呼びながら、ぎゅうっと首かざりを握りしめました。

 そうして人だかりから、たたっと走ってはなれます。


「えっと、みんなありがとう。おねがいごとをかなえさせてくれて。ぼくはしあわせな流れ星でした」


 ルゥの言葉にみんながざわつきます。

 リーダーだけが、じっとだまってその言葉を聞いていました。


「ぼくは、ぼくが目をさました理由が分かったんだ。それはみんながぼくに、ぼくが元気になるようにおねがいしてくれたから」


 ルゥはすうっと息をはき、そして。

 そっと指を空に向けました。


 空にはきらめく星たちがありました。


「ぼくは空にもどる。みんなからもらった、ほかのひとのためのおねがいごとを空にとどけるんだ。それがきっとぼくの役目だから」


 ざわつきは波を打ったようにしずかになっていきました。

 ルゥは止められないと、みんな分かっていたからです。

 サーヒブだけが、ルゥにかけよろうとするのをリーダーに止められていました。


 ちらり、と少しだけその様子をルゥが見ました。

 けれど、次のしゅんかんにはすぐに、その視線は天を向いていました。


 ルゥが小さく息を吐くと、ルゥの人差し指が光り始めます。

 それは次第にルゥの全身を包むほど大きくなって、そして。


 どん、と。


 大きな音とともに、地上から光が飛んでいきました。

 それはぐんぐん、ぐんぐんと。


 真夜中の闇(まよなかのやみ)をかけ上がり、みんなの視線を空まで向けて。

 

 そして。


 その日、その夜、そのときに。

 世界中できらめくような流れ星がふったのでした。

 すべてのかなしみ、なげきがなくなるように。すべての人のねがいごとがかないますようにと。

お読みいただきありがとうございます。

ご感想などいただけますと、たいへん嬉しいです。


また、時間ぎりぎりだったので、誤記や表記揺れなど指摘いただけますと助かります。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「冬の童話祭」から参りました。 ルゥが、手で光の糸を紡いで願い事を叶えるところがきれいだと思いました。 自分だけのことを考える『ひとりぼっちのまち』は、とても寂しいところでしたが、みんなの…
[一言] 興味深く読ませていただきました。 最後が良い形にまとまっていて良かったです!
2022/01/19 23:30 退会済み
管理
[良い点] おもしろかったです。元『ごみあさり』のみんなが幸せになってよかったですね。
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