聖女を騙る魔女は聖王猊下の婚約者
「なんで私が聖女扱いされて挙句にアンタなんかの婚約者にされるのよー!」
「胸に手を当てて考えてみな、バーカ」
「なによ!なによ!ディランのバカー!元々アンタが焚きつけたんでしょう!?」
「俺はただ嫌われ者の魔女だったお前に、人助けして偽善者振れば少しは人から好かれるんじゃね?ってアドバイスしただけ。やり過ぎたのはお前。レティシアちゃん。人のせいにしちゃダメでちゅよ?」
「うぎぎぎぎぎ!」
これが年若くして聖王となった猊下と、魔女と罵られて嫌われ者だったにも関わらず人を愛し人を救った聖女の会話だとは誰も思わないだろう。しかしこれが現実である。なお猫被りの上手い二人は人の気配を感じた瞬間即座に聖王と聖女の皮を被る。よって二人は永遠に聖人君子と思われ続けるのだ。
ー…
レティシアは魔女だ。魔女は人知を超えた力を持っているので人々から忌み嫌われる。まだ幼い頃、魔女であることがバレた途端に人気のない森に捨てられたレティシア。しかしレティシアは魔法を駆使して生き延びていた。具体的には魔法で森の奥に屋敷を構えて、ホムンクルスの使用人を作り、魔獣を狩ってその肉を食べるというベテランの魔女でも普通そこまで徹底しないよというレベルで魔女生活を楽しんでいた。
そんな彼女が十八歳になった時、身なりの良い青年が森に迷い込んできた。それが聖王ディランだ。彼は聖王という立場の窮屈さから家出したはいいものの、森で迷い帰り方がわからなくなっていた。そんなディランがレティシアの屋敷までなんとかたどり着いた時、レティシアはディランを屋敷に一泊させて次の日には森の外まで案内した。そこからディランとレティシアの交流が始まった。
暇を見つけてはなんだかんだと戯れ合いつつ交流を深めたディランとレティシア。レティシアは魔女だからと忌み嫌われるのは辛いから、街に出ることさえ出来ないと愚痴を零す。そんな彼女にディランは言った。『人助けして偽善者振れば少しは人から好かれるんじゃね?』なるほどと思って彼女は早速行動に出る。しかしディランの思う人助けとレティシアの思う人助けは格が違った。ディランはお年寄りに優しくするとかのレベルで言ったのだが、ずっと森で引きこもっていた常識知らずのレティシアは英雄レベルで活躍してしまう。
ー…
ある新米騎士は魔獣を狩る任務に就いていた。魔獣は農作物を荒らすし、人を襲う。大昔に魔族と呼ばれる存在やそれを統べる魔王と呼ばれる存在が居て、それらは既に討伐されていた。が、その者達の魔力の名残が今も大地に染み付いており、獣がそれを吸い込み過ぎて進化したのが魔獣だ。つまりは人類の敵である。だから新米騎士は自分の任務に誇りを持っていた。
しかしある日、その任務はいつもと違っていた。なんと討伐するべき魔獣が万を超えたのだ。一体何処から?何故?それは隣国の罠だった。新米騎士の仕える国を我が物にしようとする隣国が、魔獣をわざわざ生きたまま捕まえて一斉に放ったのだ。
新米騎士はそれでも、なんとか自分を鼓舞して立ち向かった。きっと自分達だけでは捌き切れない。けれど、近隣の村の人々を見捨てたくない。少しでも魔獣を討伐して犠牲者を減らしたい。新米騎士達は剣を振るう。その手は震えていた。
しかし次の瞬間、目の前の魔獣達が氷の柱に貫かれた。目が点になる新米騎士達。いつのまにか、目の前に少女が一人。
「助けに来ました」
「え…」
少女は不思議な力を使って魔獣を串刺しにする。いつのまにか魔獣の大群は全て討伐されていた。
「魔女…いや…聖女…か…?」
「聖女だ!聖女が助けに来てくれた!」
「聖女様万歳!聖女様万歳!」
聖女は自らを森の奥に住むレティシアだと名乗り、また別の戦場へ魔獣を狩りに行った。隣国の罠はここだけにはとどまらなかったのだ。新米騎士は聖女に憧れた。そして、いつかあの聖女を聖王の元へお連れしよう、聖女として相応しい待遇を受けて貰おうと誓った。
そして隣国の罠が聖女によって破られ、隣国との戦争に勝ち国が潤った翌日。 新米騎士は聖女の元を訪ねた。聖王猊下の勅命により彼女を聖女と認定、聖王の婚約者とすることになったという爆弾を持って。聖女は目眩がしたが、良い格好しいの彼女は新米騎士達に連れられて中央教会へ。そして今に至る。
ー…
「私は聖女じゃなくてみんなの忌み嫌う魔女よ!まあ人から好かれたくてやったことだから聖女扱いはいいにしても、なんで婚約!?」
「そりゃあ聖王と聖女が二人揃って人格者扱いされてる上に同い年なんだぜ?当たり前だろ」
「まだ恋もしてないのにー!」
地団駄を踏むレティシア。ディランはさらに爆弾を落っことす。
「おいおい、釣れないなマイハニー。俺の初恋はお前だというのに」
「…は?」
「当然だろ?今までシスター達以外には女っ気も無くて、初めて会った女が同い年で超親切。しかも可愛い。惚れない方がおかしいだろ」
レティシアの顔がぼっと赤くなる。
「ま、またそうやってからかって!」
「嘘じゃない。からかってもいない」
ディランはレティシアの肩を掴み顔と顔を近付けた。
「好きだ、レティシア。俺の女になれ」
「…っ、ディランのバカー!」
ディランを突き飛ばして逃げるレティシア。その顔は真っ赤だったが、嫌悪は全く無かった。
「…脈あり…と思っていいよな?」
ディランはぐっとガッツポーズをとる。レティシアが完全に攻略される日は近い。




