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セッション4 武装

 サナがなぜここにいるのか。

 記憶がしっかりしてきたゴウスケは聞きたかったが、質問するタイミングを見失いゴウスケは、まごまごした。

 一方のサナは室内で休んでいた気配がない。室内に幾つかベッドはあったが、数人の怪我人がいるだけ。

 未使用のベッドは整っており、サナが寝ていたなら律儀なことだ。


「不自然といえば、武装スタイルと移動スタイルじゃなくなったことですよ。しかもブランクとウォーカー。これこそ聞いたことがありません」

「フレイ。うっ、フレイって名前まで出てきたのに記憶が……」

「フレイって先輩のGMPですか? 私のはスレイプニルっていうショタ声でしたよ」

「えっ。ああ、うん」

「……」


 エラーコードやワールド・ルール・ブックなど聞きたいことは山ほどあったがサナが素っ気なく、ゴウスケもつられて黙ってしまった。


「おっす、店員さん。差し入れだぜ」

「わあ、タイラさん。ありがとうございます♪」


 唐突な登場人物。

 フレイも口にしていたタイラという名前がリフレインした。


「タイラ。あんたが庫裏 タイラさんですか?」

「誰?」

「だっ、誰って……」

「先輩。タイラさんはネットカフェに来ていたお客様です」

「俺は分かるよう!」


 フレイが言っていたことが正しければ、ゴウスケの目の前にいる男こそが『CH』特別版の開発元のはずだ。

 特別版とは、正式名を知らないゴウスケが独自に名付けた、インコグ・ラボとは開発元が違うバージョンだ。


「タイラさん。あんたが『コロッサルハンター』を開発した。それは事実ですか?」

「あー、ロキがそんなこと言ってたっけか」


 質問に答えてくれない人だ、とゴウスケは思った。


「ロキって、あんたのGMP?」

「急にタメぐち、キモっ……」

「揺宮先輩は気持ちが悪いですけど、言葉は選びましょう」


 サナがフォローにならないフォローを挟んできて嬉しくないゴウスケである。


「『コロハン』を作ったのは、ワシじゃねえ」

「へっ?」

「へっ、じゃねえだろ。舐めてんのか」

「ききき、聞いたのは俺ですもんね。すっ、すみませんでした」

「敬語やめろ。見た目からして年、近いだろ」

「でも……」

「敬語したら、こうだ」


 タイラは買ってきたらしい梨を、グシャリと握り潰した。

 舐めてもないし、タメ口がキモいとか敬語をやめろとか注文が多いし矛盾だらけ。接客するのは面倒なタイプだ、とゴウスケは密かに考えた。


「いっけね。拭かねえと」


 タイラはそう言うと、しゃがんだ。

 そして自らが着ている服の袖で梨の果汁を拭き取った。

 やがて、それを見ていたゴウスケは、あることに気付いた。


「装備はなかったんですか?」

「あ?」

「すみません」

「装備は昔でいうマテリアルだから、昔でいうリクラフトでしまえんだよ運動音痴」

「運動音痴ですと~!?」


 ゴウスケは大声になりそうになるのを我慢した。周りには、おそらくゴウスケたちとは無関係の他人が何人もいるからだった。


「別にいいだろ。で、マテリアルはザム。リクラフトはX化な」

「えっ、えっ」


 うろたえるゴウスケを見かねて、サナが代わりに説明した。


「先輩。用語集ならメニューで閲覧出来ます。ステータスみたいにメニュー・オープンのコマンドで開きますよ」

「こまどどん?」

「コマンドです。光ってる場所で口に出すとステータスが出てきましたよね」

「あ、はい」

「なんで私にも敬語なんですか?」

「ごめんね」

「……はあ」


 状況の把握をしようとも思わないゴウスケは、ひとりベッドにいるままタイラやサナに翻弄されるばかりだ。


「えっくすか、っていうのもコマンドですか?」

「……」

「……」

「えっ、えっ」

「誰に聞いたんだよ、てめえは誰に質問するつもりなんだよ?」

「先輩。さっきみたいに中途半端に敬語を使うと、そうやって信頼を失うんですよ」

「えーっ!」


 翻弄されるばかりのゴウスケだ。


「マジかよ。マジの運動音痴かよ」

「そうみたい、です……ね」

「サナさん。タイラさんだけならいいけど」

「お前さ、名乗ってない上に、さんを名前に付けるのキモいし」


 タイラが買ってきた軽食を食べながら、備え付けのテーブルでゆったりくつろいでいる2人にゴウスケは厳しくダメ出しされた。


「ゴウスケ。ゆれみやごうすけ、です」

「揺れと幽霊の掛けことばですか?」

「えっ?」


 タイラに不意を突かれて、ゴウスケはすっとんきょうに短く言葉を発してしまった。


「お前の猿真似。敬語使ったんだけど、似てる? 似てるぅ?」

「い、いやあ。どうでしょうか」

「モロミズさん。これが先輩じゃ苦労してるっしょ」


 すかさず話題を振ったつもりのタイラにサナは、にこやかに応じた。


「そんなにしてないことになってます」

「えーっ。サナさん?」


 そのときゴウスケは、その場に青髪の、タイラの知人らしき女性がいないことに気付いた。


「タイラさんってお友だち、いませんでしたか?」

「なんだと?」

「たたた、タイラさんって、おっおっ、お友だつ」

「お友だつ。くくーっ」

「やめてもらっていいですか。バカにする感じで笑うのだけ」

「くくーっ。マジうけるから」


 このように一方的にやり込められるゴウスケを見かねてなのか、サナがそこで再び口を開いた。


「ちょっとだけ周りに迷惑みたいなので、ちょっとだけ控えましょう」


 あとはまた、男2人のやり取り。

 ただし基本的にタイラの悪ふざけだ。


「あ、うん。それな。でもまあ悪いのコイツ……いや、なんでもないぜ。くくっ」

「タイラさん。おとなしく!」

「さん付けやめろって。男性だろ」

「だ、男性……」

「日本語じゃん?」

「あ、ああ。はい」

「くっくっ」


 タイラが威圧的かつ好戦的な性格なのは分かったゴウスケだが、対応に慣れていける気がしないようだ。

 そう。ゴウスケは彼に対しては友情でなく対応力の必要性のほうを切実に感得していた。


「あー、飽きた。X化はな、なんか念じたらいいだけだぜ。だって考えてみ。コロッサルに口、塞がれて武装不可能って死ねるっしょ」

「は、はいっ」


 すっかり萎縮したゴウスケは空気を限界まで読んで、速やかに武装を解いた。

 タイラの言い分は正しく、念じるだけでX化が行われたのだ。


「Xはザムのスペルな。X、A、M。この三文字でザム」

「はいっ」

「返事だけ百点満点。だからバイトすんのか~」

「えっ」

「そこも、はいっ、ね。あれ。イジメみたいになっちゃった?」

「はいっ」

「んだとオラ、テメエ……」

「すみませんすみませんすみません」


 2人の会話をサナは冷ややかに見ていた。

 恐らく、くだらないと思ったのだろう。


「今の状況を説明してやる。表に出ろ」

「えっ」

「ちょっと待て。はあ、さっさと来いや!」

「いぎぎ」


 羽交い締めにされ無理やりベッドから下りたゴウスケは、そのまま部屋から連れ出された。

 人生で羽交い締め並みのことをされたのは、ゴウスケは小学生時代以来だ。


「んん。今、ワシらがいるのは日本で、でも『コロハン』の中の日本なんだけど3年後だ」

「へっ?」

「こら!」

「いぎぎ」

「CHJってワシは呼んでる。サナちゃんには仕込んだから、お前もそう呼べ」

「なんかそれ、めんどくさくないです?」

「呼、べッ!」

「呼びまずがら」


 どさくさでゴウスケは今いる日本をCHJと呼ぶことになった。

 タイラいわく「『コロハン』ジャパン」の頭文字を取った呼び方らしい。


「えいっ」

「おっ。お前、なんで武装した?」

「なんとなくです」

「おい……」

「……」


 嫌な仕打ちをやめてほしくて武装したゴウスケだったが、逆効果だったようだ。

 静かに、かつ速やかに彼が武装を解くとタイラは「くくっ」とは笑わず、つまらなさそうに舌打ちした。

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