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セッション3 世界に進入

 ここで念のため、ゴウスケはフレイに質問をした。


「俺が今いるゲームの名前を教えてくれますか?」

「『巨獣討伐RPGコロッサルハンター』です」

「あなたの、つまり、あなたであるGMPの名前は?」

「フレイといいます」

「リアクトはありますか?」

「巨獣調査機構リアクトは3年前にエンド社へと生まれ変わりました」


 夢にしては破綻した話とまではいかず、「ゴウスケが知る『CH』の世界から3年後だから様々に変化がある」という一定の整合性すらある情報。

 それがゴウスケがフレイの話から受けた印象だ。

 それから彼は、最も聞きたいことを質問した。


「これが、このゲームがテーブル・トークRPGならルルブ、つまりルール・ブックはありますか?」

「あります。しかし開発元により、今までにない新感覚の形態を取るようになりました」

「新感覚の、ケイタイ?」


 ゴウスケの世代にとってケイタイは形態でなく携帯。つまりガラケーやスマホなど携帯電話やそうしたブランドのイメージが強い。

 そしてゴウスケもまた、電話としてのケータイを思い浮かべた。


「持ち歩けるってこと?」

「いいえ。ワールド・ルール・ブック、通称『世界書』は至るところにあります。プレイヤーである揺宮さまたちは、それをコレクションしながら知識を深めてください」

「ワールド・ルール・ブック。『世界書』……」

「このゲームの開発元は、プレイヤーのみなさまに今までにないリアルなゲームを楽しんでもらうことを願っています。開発元、庫裏タイラさまは、それを望んでいます」

「くり……タイラ、ですって?」


 ゴウスケにとってワールド・ルール・ブックという聞き慣れたようで聞き慣れない言葉。

 続いて、タイラという名前は彼には聞き覚えがあった。


「タイラは、この世界に来てますか?」

「庫裏タイラさまは……ヴヴ、ヴヴヴ」

「ぶぶぶ、は分からないよ」

「エラー・コード、エニウェア83。当事者は直ちに対応してください。当事者は直ちに対応してください」

「フレイ、あなたは何を?」

「エラー・コード、エニウェア83。当事者は直ちに対応してください。当事者は直ちに対応してください」

「フレイさん。ゲーム・マスター・プログラムのフレイさんってば」

「……ヴヴヴ」


 モニターが強制的に閉じた。

 ゴウスケにそうだと分かったのは、2つのモニター画面に変わって「エニウェア83」というエラー画面が点滅するという異常な状況になったからだ。

 白かった周囲の光も、ゴウスケが見渡す限り赤くなった。安っぽい演出ではあるが、明らかに緊急時のようだ。


「ユーザーを緊急搬出。ハンター・アバターに最低限の機能を付与。動作機能オッケー。会話機能オッケー。アイテム機能オッケー。ザム・コンバートオッケー」

「フレイさん。フレイ!」

「ユーザーさま。世界はあなたに託されました。どうか、この世界を……」

「うわあああーーーーーー?」


 落下していく感覚がゴウスケを襲った。

 フレイの女性らしい声から遠ざかっているのかは分からなかったようだが、さっきまでいた場所からはぐんぐん離れていくのが彼には、なんとなく感覚として分かっていた。


「……。――空?」


 満天の青空がゴウスケの視界に入ってきた。


「えっ。地面……遠い!」


 やけに空が近い感じがした彼が、仰向けから顔だけどうにか向きを変えると、遥か下にある陸地が見えた。

 平地のようだが、そういう問題ではなかった。


「ゲームオーバーは本物の死亡ですか?」


 ゴウスケはフレイに聞いてみたが、声は聞こえない。

 それがフレイがいるのがさっきの光空間だからなのかエラーコードのせいなのかは彼には、はっきりしない。


「誰か。ううう、誰か~」


 半べそになりながら、妙に冷静にゴウスケは装備を眺めた。武器は持っておらず、地味で少し堅いだけのライトアーマー。

 軽装備のイメージがあるハンターではあっても、高度が高度なだけに彼はちっとも喜べなかった。


「ふうう、うう。お父さん、お母さん」


 みるみる地面が近づくなか、友人がそういないゴウスケは両親を思った。

 一人っ子だから甘やかされ、調子に乗って留年する前は派手に遊んだ。

 彼は後悔していた。

 せめて節制していれば、つらくて留年したと言い訳くらいになったかもしれなかった。


「将来のお嫁さん……。本当にごめぇん。うう、ううう」


 名前も姿も分からない、出来るかも定かでない結婚相手をゴウスケは思い浮かべた。

 もしかしたら彼に似てダメ人間かもしれないのは、わずかばかり彼の心を腐らせきらなかったのが滑稽だ。


「ログアウト、ログアウト」


 もう、高度200メートルほど。

 どう考えてもパラシュートは間に合わない。

 ゴウスケは悪あがきでログアウトを願ったが、甲斐なきことだ。


「小僧、X化をせい」

「えっ?」

「古参か。ええい、リクラフトじゃよ。リクラフト!」

「はっ、そうかッ!」


 近くから声がして、ゴウスケは無我夢中で衝撃を和らげそうな物質をイメージした。


「クッション。デッカいクッションきぼんぬうううああああ」


 30メートルは厚みがある、すごいクッションを彼はイメージした。

 痛いにしても最低限であれ。

 その一心でゴウスケはリクラフトをした。


「もごーーーーーー」


 もふっ、というよりダンググン、という若干痛そうな衝撃音を伴う着陸。

 およそゲームの世界とは思えない痛々しいスタートが揺宮ゴウスケの『CH』世界への到来、その始まりであった。


「……」


 ゴウスケは気を失った。

 ゲームの世界にも気絶という状態は実装されていたらしい。

 しばらくして彼が目を覚ますと、ベッドの上にいた。


「知らない天井だ」


 彼はつぶやき、それから辺りを観察した。

 観葉植物が植えられた鉢、淡水魚が暮らす水槽、そしてアコーディオン。

 調和があるんだかないんだか謎な部屋にある、病院にあるような無機質だが丈夫そうなのが彼が座るベッドだ。


「えっと、ミックスサンドと日替わり得々ランチが来たんだっけ」


 記憶が混同し、ゴウスケは意味不明なことをつぶやいた。ネットカフェで働いていたときのことが彼の脳裏に映し出されたのだ。


「いや。ここ、ネカフェじゃないぞ……?」

「目が覚めましたか。――先輩」

「ああ、サナさんか」

「ああ、サナさんか、じゃないです」

「……ん?」

「……」

「……ん?」


 ゴウスケに話しかけたのは、紛れもなく諸水サナその人だ。


「あ、なんだ。俺、夢見てたんだな。クルマに跳ねられたか何かで病院直行かあ。ねえ、全治何週間か知らないかな?」

「現実を見てくださいね、先輩」

「んん?」


 混乱しっぱなしのゴウスケよりは落ち着いているサナは、彼をじっと見つめながら説明を始めた。


「ここは現実じゃないみたいですけどね。『巨獣討伐RPGコロッサルハンター』、って、先輩は知らないか」

「タイラが『コロハン』って言ってたヤツ。って、タイラが誰か分かんないよね」

「……ぷっ」

「ん?」

「ぷふっ。だって分からない同士って面白くないですか?」

「いや、別に」

「もう。冷たくないですか~?」


 サナがケラケラと笑うのを、ゴウスケはぼんやりと眺めた。

 見た目にも無能そうなゴウスケと違い、サナは並みよりは顔立ちが良い。彼は、うっかり顔を赤らめそうになるのを隠すために、そっぽを向いた。


「あれっ、この装備は……!」

「ああ。ライトアーマーですよ」


 何てこともないかのように答えを知っているサナだが、ゴウスケはそれを疑問に思った。


「サナさん。『コロハン』を知ってるのはいいよ。でもライトアーマーが分かるのは不自然だよ」

「いいえ。そりゃ本には載ってないアイテムですけど私だって聞き込みして、この世界にいる人からアイテムの情報くらい仕入れますし」

「えっ、ああ。そう」

「そうです」


 サナはそう言うが、ゴウスケは何かがまだ疑問符のままだ。

 なぜならライトアーマーは、彼が別のゲームから輸入した軽装。『CH』の単行本にはない装備だったからだ。

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