セッション47 真っ白け
◇◇◇
「タイラーズに新入りを勧誘するだと?」
「はい。どうですか?」
「は?」
「……」
「ゴウスケ。ハンターはふざけるためにやってるわけじゃねえ。まず、それは分かってるよな?」
「ふざけるふざけないの話なんてしてませんけど」
「ふざけるふざけないの話をしてたかどうかだと思っちゃったか。なるほどな。おい、お前は人間が勝手にそこらから草みてえにニョキニョキ生えてくると思ってるよな」
「いや、思ってないです」
「は?」
「えっ」
「そりゃ『コロハン』の世界の人間がどうだかは知らねえよ。でもさ、普通は人間って母ちゃんからまあ、生まれるじゃんね。それが普通じゃんね」
「はい」
「は?」
「……」
「あとさ、素晴らしい考えを伝えさえすれば自分以外のみんなも当然、素晴らしいと考えてくれてそうなるように勝手に準備してくれると思ってるよな」
「そ、それはあるかもしれないです。はい、かもしれないどころか、大抵はそうです」
「じゃあ、話にならねえな」
「えっ」
「人生は運もあるとは思うよ。でもさ、自分本意で独りよがりな意見が民主主義でポンポンと都合よく採用されてみなよ。なあ、実際にそうなったときのことを思い浮かべてみい」
「はい」
「は?」
「……」
「大体さ、はい、とか、えっ、とか言ってりゃいいっていうのが、そもそもそういうことでしかないよ。ゴウスケの人間性はたかが知れててな。がっかりすることばっかりなわけ。何か役に立つことをしてほしいわけ。意味分かるか?」
「分かると思い込んでしまいます」
「はあ。急に自虐的じゃん。で?」
「えっ」
「意味分からねえ時間の使い方を一瞬でもしてんじゃねえよ。なあ、一瞬だったら少しは神さま仏さまも勘弁してくれるかもしれねえよ。けどよ、お前の一瞬はお前の甘えである結果、ちっとも一瞬になってねえのな。お前ってさ、大学の講義で眠かったら寝るっていつか言ってたよな。なあ」
「そうですけど、別にそれは俺だけじゃないです」
「それな。お前だけじゃないから全ての会社がお前を見逃すとかあるか?」
「それは、まあ、ないかもしれないです」
「ふん。なあ、かもしれないじゃなく、ねえよ。あるわけねえだろ、そんなチンタラポンからっぽ頭の会社なんてよ。あ?」
「でも、大学で寝てなかった人の全てが輝かしい人生を送るわけではないですよ。どう使おうが、時間は大学にいる間だけなら自分次第です」
「おっ。ひいい、やっべえ発言が飛び出したよ。なあ、そう言われるかもなって覚悟してのことならワシも大して気にしねえよ。たださ、ゴウスケって何に付けても甘ったれじゃん。くだらねえことでも、確実に俺には出来る何かがあるっていう自信がこれっぽっちも見えて来ねえのな」
「確かにないですよ。のたれ死にするかもしれません。それはあなたに言われるまでもなく分かってますよ。俺は元から自己中心的だし、そんな人間が大学に入ったことを後悔してます」
「へえ。で?」
「だから、甘ったれですよって言ってるじゃないですか。カッコ付けてるわけでもなんでもありませんよ」
「は?」
「それも独りよがりな怒りだと思えるときがあるんですけど、俺の勘違いですかね。別に、本当に俺が使えなくて縁を切りたいなら切ればいいと思うんですよ。俺は生きていく力がそんなにない人間なので、別に構いません。そこらのハンターさんを代わりに迎えてあげたらいいです」
「ふうん。それはいい考えだな。今までの甘えたゴウスケの思想にしちゃ実に現実的だ。そうしてやろうか?」
「というか、あなたにごちゃごちゃ絡まれるのが不快です」
「はっはっは、出たよ。女かお前は。なんという情けないことを平然と言ってのけたんだよ。絡まれるのが不快。不快ってまた無駄にインテリジェンスか何かをちらつかせてきたな。お?」
「なんとなく読めてきましたよ。わざと自分よりバカそうな人間を引き入れるやり口だったんですね。たとえば俺が生きていけるように教育しているとか、そういう厳しい話じゃなく単なる理不尽なことだったんですよね?」
「お、おいおい。おい。やめろよ、そういう本当のことをすらすらと言い出すのはよ。なんて答えればいいのか判断が難しいだろ。なはは。なあ」
「汚いやり方でこれから寿命まで生き残れると思いますか?」
「汚いやり方。えっ、それってワシだけじゃなくねえか。お前だって大学で、まあまあ親が仕立ててくれたカネにすがりながら、なおもふてぶてしく寝るんだろうが。どうなったらそんな質問をふてぶてしくするようになれるんだよ。そりゃワシは正々堂々とはしてないかもしんねえよ。でも使えるヤツは使えるヤツなりの扱い方、使えないヤツは使えないヤツなりの扱い方をするってルールだけは自分自身の中にしっかりあるわけなんだけど、それがお前には伝わってないってこと?」
「あなたなりのルールなんて、いつか勤めることになる会社じゃ意味ないんですけど」
「ほう。まあ、普通はそれでワシも納得したいよ。ただな、お前はやっぱり何か勘違いしてんじゃねえかなって思ってさ」
「何をですか?」
「お前は使えねえ人間なのに、どこかで自分こそがまともなんだとか楽観的に考えてねえかなってことをだ」
「すみません。短い発言なところを申し訳ないんですけど、何が言いたいのかが分かりにくかったのでもう少し分かりやすくお願い出来ませんか?」
「は?」
「もう少し、分かりやすく話をして欲しいと言いました」
「出来るけど、お前にそうする時間って有意義か?」
「有意義じゃないと、してもらえないことなんだとしたら俺は誰とも会話出来ないんですが」
「……。はあ。ま、それはもっともだな」
「要するに、使えない人間である上に俺という人間が取る態度が気に入らないっていう2つのマイナスが頭に来るってことでいいですか?」
「ああ、うん。うん、そうそう。よく気付いたな、ゴウスケ。それそのものだ。ただ単にお前が使えないからってだけじゃなかったよ」
「それはいつか解決することだとは思えないので、ある程度は諦めてもらえませんかね。子どもの頃からお世話になっていたとかなら、まだ分かりますけど俺、数年後には30歳ですし」
「は?」
「他人より下だよってサインだったんですね。分かりました、分かりましたよ」
「すげえな。そうだよ」
「あなたの人間性も別に素晴らしくはないです」
「ははっ。その割にはめちゃくちゃビビるお前みたいなのはマジに傑作だぜ」
「なるほど。そんなふうでも、もしかしたら万にひとつくらいの可能性でキビキビ働けるタイラさんは生き残るかもしれませんねえ」
「えっ、えっ。なんてなんて、なんて?」
「タイラさんは生き残るかもしれないし、死ぬかもしれないですね」
「ああ、それもよく気付いたよ。すんげえ、色んな人から言われることだからな。でもさ、ノリの良さだけは色んな人から誉めてもらってるし、気合いも自分なりにはいつも入れてるし、お前が思ってるよりはずっとずっと生き残れるという自信はあるぞ?」
「そうですか」
「というか、お前ごときにワシの生き死になんざ心配されることがムカついたから謝れ。な?」
「無理ですね」
「態度が悪いゴウスケのほうが、よっぽど死ぬだろ。お前って何が取り柄なんだ?」
「有能じゃないなって自覚しているところですよ」
「ほう。すげえ、すげえ。じゃあ有能じゃなくて嬉しい、こんな環境ばっかりフラフラしてろ。死ぬまでな」
「それで絶対に収入になるんなら、あなたが思っているよりはピエロくらいやりますよ。でも、見下したいだけの人には、どんなに俺より優秀な人にも頭なんて下げないです」
「は?」
「あなたに頭を下げないという屈辱的な行いをしましたが、何か?」
ニアリもサナもいたが絶句していた、ある日の一幕だった。




