053 パーティー探索、そして闇の本領
「オーガ二体です。二体とも武器持ち。いけますかにゃ?」
斥候から戻ったグレープフルーが告げる。
オーガはマンティスを除けば二層最強の魔物だ。
しかもそれが武器持ちとなると、かなり厳しい。
「リフレイア、一対一なら倒せるか?」
「倒せます」
「よし、じゃあ一体はそっちに寄せる。ダークネスフォグ」
闇に紛れて近づき、一体を闇に沈める。
闇に飲まれた魔物は、状況判断に時間が掛かるため、しばらく無力化することができる。
そのうちに、もう一体をシャドウランナーでリフレイアのほうへ誘導する。
「サモン・ナイトバグ」
俺はなるべく闇ノ喚……召喚術を使うように戦っていた。
これは俺が持つ術の中では、唯一直接的な攻撃力を持つ術だったからだ。
オーガ相手でも、それなりにダメージを与えられる。
闇の中で虫に囓られて武器を振り回し暴れるオーガ。
とても生身の俺が近付く気にはならない。
体力アップレベル1を取得して、ほとんど別人かというレベルで身体は動くようになっているし、短剣も軽く感じる。今までとは比べものにならないほど、個人の戦闘力は上がっているだろう。
それでも、オーガの攻撃を短剣で受け止めるのは無謀そうだった。不可能ではないだろうが、安全マージンはほとんどない行為だろう。
とどめはリフレイアに任せたほうが良さそうだ。
リフレイアはバカデカい剣を振り回して、オーガと斬り結んでいる。
刃渡り120センチ、身幅20センチほどの大剣。俺では持ち上げるのが精一杯の鉄塊を、ぶんぶんと振り回している。
「シャドウバインド」
元々、リフレイアが優勢だったところに、闇の触手でほんの少しの隙を作る。
四肢を縛られバランスを崩すオーガ。
それだけで、リフレイアは易々とオーガの首を刎ねた。
人型しか出ない二層の魔物に対してシャドウバインドはほとんど必殺の術だった。
リフレイアはまだ余裕がありそうだ。
「リフレイア、頼む!」
「はい!」
俺はダークネスフォグごと動き、残ったオーガを闇から出す。
打ち合わせ通りにそこに走り込んでいたリフレイアが、袈裟斬りの一撃でオーガを屠った。
闇から出た瞬間の斬撃にオーガは対応できない。
まして、ナイトバグに集られているなら尚更だった。
「よっし、おつかれ。リフレイアはケガしてない?」
「ええ、ほとんど一方的でしたから」
「じゃ、次行くか」
俺たちはすでに何回かの戦闘を行っていた。
正直言って、このメンバーなら二層での狩りはかなり簡単な部類に入るだろう。
本来なら三層四層と攻めていくべきなのかもしれないが、今日は初日だ。二層でパーティーメンバーの連携の調整をしていくことに決めていた。
視聴率のことを考えれば、もっとギリギリの――命と命のやりとりを見せるべきなのかもしれないが、さすがにいきなりリフレイアとグレープフルーを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
視聴率レースは二週間もあるのだから。
「あの、ヒカルは疲れてないんですか? 術、かなり連発してますけど」
「いや、全然だよ。一回の戦闘で3つか4つしか使ってないし」
「凄いですね……」
それに使わなければ熟練度は上がらない。
いざとなったらクリスタル交換で精霊力ポーションを飲むという手もある。
それより、今は戦いだ。
金も稼がなきゃだし、視聴率を上げる手っ取り早い手段は、やはり戦闘なのだという確信もあった。事実、視聴者数はグングンと伸び、3億人をキープしている。
ただ、一位を取ったころを思えばまだ足りない。10億人が目下の目標だ。
「あっちにオークの群れがおりますにゃん。数は8。武器持ちと無手が半々」
「よし、やろう」
俺は短剣を抜いた。
オークやゴブリンの群れと戦う時も、ほとんど同じ戦術でいけた。
というより、もともとオークとゴブリンは、リフレイアは当然として、俺一人でも問題なく倒せるのだ。
ダークネスフォグで姿を隠しつつ走る。
リフレイアが相手にするやつだけ囲わずにおいて、順次撃破していく。
闇の中に引きずり込まれ右往左往するオークの命を、短剣で一体ずつ刈りとる。
体力アップの効果もあり、作業のようにサクサクと短剣を振るっていく。
リフレイアのほうも、オークなど問題にもならない。
一刀の下、紙のように斬り捨てていく。
8匹の群れなど、実質一分ほどで全滅させることができた。
「いい調子だ。フルーの索敵もうまくハマってるな」
「ええ。あの子はかなり腕が良いですよ」
俺は他のリンクスと組んだことがないからわからないのだが、何度も斥候を雇った経験があるリフレイアが言うのなら本当のことだろう。
せっかく知り合った縁だ。グレープフルーには一端の探索者になってもらいたい。
「あっちに、オークが一匹。これは無視しますかにゃ?」
「フルーがやってみるか?」
「え? でも、私オークにゃんてとても……」
「大丈夫。アシストするよ」
迷宮では魔物を倒すことで精霊力を我が物にして、自分自身のパワーアップを図るわけだが、これはパーティーメンバーだろうがなんだろうが、「倒した人間」にしか適用されない。
つまり、斥候は永遠に強くなれないのだ。戦っていないから。
角を曲がった先に、一匹のオーク。
幸い、無手のやつだ。武器を持たないオークは、武器持ちのゴブリン以下の魔物。
正直、練習としては手頃な魔物である。
「俺がアシストするから、その剣で真っ直ぐ首の辺りの高さを突け。ダークネスフォグ」
グレープフルーを先導し、闇の中を進む。
オークは状況が理解できず、プキープキーと鳴くばかりだ。
オークの後ろに回り込み、グレープフルーの持つ細剣の切っ先を、オークの脊椎に狙い定める。
「ここだ! 思いっきり突け!」
「にゃっ!」
気合い一発、細剣はスルリと魔物の首筋に差し込まれ、オークは精霊石に姿を変えた。
ダークネスフォグを解く。
「お見事。こんな調子でやれば、フルーも少しはレベルを上げられそうだな」
「ふぉ……、にゃんかが体の中に入ってくるのにゃ……。これが精霊力にゃ……?」
「そうだよ。まあオーク一匹じゃ、たいして変化ないと思うけど、数をこなせば違ってくるだろ」
正直、俺自身も位階とかいうのが上がって変化しているという実感はない。
いや……微妙に変化はあるのだが、それが戦いに慣れたことによるものなのか、それともレベルアップによるものなのか、判断が難しいのだ。
ステータスボードによると、時間はまだ13時だ。
簡単な携帯食を食べてから、その後も戦闘を続けた。




