052 迷宮へ、そして戦力確認
迷宮の入り口で、四人の門番のうちの一人にギルドで発行された許可証を見せ、中に入る。
第一層である黄昏冥府街は、気をつけて進めば、ダークネスフォグを使わなくても魔物との戦闘を避けて第二層へ降りることが可能だ。
もちろん、ここで戦ってもいいが。
「とりあえず、全員の戦闘力を確認しておこう。あと、どう戦うかも」
例えばこれが戦士三人のゴリ押しパーティなら話は早いのだが、うちは全然違う。
・直接的な戦闘力はゴミな闇の精霊術士
・光の精霊術も使う大剣ぶん回す強い戦士
・戦闘できない斥候
こんなメンツだ。
つまり、殲滅力という点で、ほとんどリフレイア頼みなのである。
「とりあえずはグレープフルーが敵を見つけて、俺が足止めしつつ、リフレイアが各個撃破。そんな感じかな」
「私はそれで構いませんけど……。精霊術はどうします?」
「光の精霊術ってどういうのがあるんだ?」
俺がそう訊くと、リフレイアは少し俯いて、小さく「私が使えるのは二つだけ」と答えた。
「前に見たライトと、もう一個は?」
「キュアグロウ。傷を癒やす術です」
「いいね」
回復術があるってのは助かる。どうしても小さな傷は負うものだし、そのたびにクリスタルでポーション買ってたら、きりがない。
「そういえば、俺の術って闇なんだが……大丈夫なのか?」
「大丈夫……とは?」
「その、この辺じゃ使う人がいないって聞くからさ」
「よくわかりませんが、大精霊様の加護である術を使うのに問題なんかあるはずありませんよ? 確かに、闇の精霊術士は少ないですが、闇の大精霊様の神殿がこの辺りにないからってだけですし」
「そっか。ならいい」
安心した。
なにせ闇だから、イメージ悪いかと思ったけど、大精霊はどの属性のも敬われているらしい。
「あと……あの、ヒカルはどれくらい術を使えるのか訊いても? ひょっとして、第五くらいまで使えたりなんかして……。さすがにそんなわけないか」
「使えるのは8個だな」
「はっ、はちっ……!?」
素っ頓狂な声を上げるリフレイア。
まあ、8個って多分、全種類だからな。
最後に覚えた特殊術式の「闇ノ還」が第八の術ってことらしいし。
「まあ、8個目のはちょっと特殊で、あんま使えないけど」
「ちょ、ちょっと待って下さい……。その……聞き間違えじゃないですよね? 7じゃなくて8なんですか……?」
バカ正直に言うのは拙かったかな。
……いや、これから命を懸けて一緒に探索をするのだから、能力を隠すのは良くない。
「8だよ。でも、闇の精霊術はあんまり攻撃的な術がないから、期待には応えられないかもしれないけど」
「いえ……あの時いくつかヒカルが使うの見てましたから、すごい術者なのはわかっているつもりではいたんですが。8ですか……」
なかば放心状態のリフレイア。
光の聖堂騎士とやらの見習いである彼女が、二種類しか術を使えないくらいだから、8個というのはかなり非常識だったのかもしれない。
あまり、公にすべきではない情報なのだろう。
「8ってそんなに珍しいのか?」
「珍しいというか……、一般的には最高位の術者でも使える術は7つまでですから。8つ目の精霊術は伝説というか、大精霊様があると言うからあるらしいとされている……そういう術なんです。私も、人間には使うことができない術だと思ってましたし」
「そうなんだ……。秘密にしておいたほうが良さそうだな。8個目は……」
どっちにしろ、8個目の術はアンデッド召喚という、かなり危険な臭いがする術だ。人に知られたらあらぬ誤解を与えることになりそうである。
普通の召喚術であるサモンナイトバグとは系統が違うというか、威力が違うというか……。
「あ、勘違いされる前に言っておくけど、術そのものの位階はまだ低いから、数は多くてもたいしたことないからな。ダークネスフォグ……あの闇の霧を出す術だけは位階が少し高いけど、他のは1とか2だから」
「位階……上がってるんですか……? 術の……?」
「そりゃまあ」
え、俺なんか変なこと言った?
そりゃ熟練度制なんだから使っていれば上がるのでは?
「参考までに聞きたいんですが、その一番高い術で位階いくつなんですか?」
「4だな」
「よよよよよよん!」
さらに素っ頓狂な声を上げるリフレイア。
さすがにこのレベルまで上がるとかなり上がりにくく、ダークネスフォグなどは、かなり高頻度で使う術なのだが、位階5にはまだ上げられていなかった。
「4ってことは、上位の術になったりとか……?」
「え、うん。位階が3に上がった時にダークミストからダークネスフォグになった。ミストの時はたぶん外からもうっすら姿が見えたと思うんだけど、フォグはほとんど完璧な暗闇だからかなり使いやすくなったな」
「ハァ~。すごいですね、ヒカル……天才ってやつですか……。私は二つしか使えない上に、どっちも位階は1のままなのに……」
「別にたいしたことないよ」
これは本音だ。申し訳なさすら感じる。
俺は決して天才なんてものではなく、神から与えられたスキルの恩恵を受けているにすぎない。現地の人間からすれば、まさしく本来の意味でのズルだろう。
ちなみに、現在の闇の精霊術のステータスはこう。
【 闇の精霊術 】
第一位階術式
・闇ノ虚 【シェードシフト】 熟練度62
・闇ノ棺 【シャドウバインド】 熟練度49
・闇ノ喚 【サモン・ナイトバグ】 熟練度55
第二位階術式
・闇ノ見 【ナイトヴィジョン】 熟練度82
・闇ノ化 【シャドウランナー】 熟練度76
・闇ノ納 【シャドウバッグ】 熟練度69
第四位階術式
・闇ノ顕 【ダークネスフォグ】 熟練度43
特殊術式
・闇ノ還 【クリエイト・アンデッド】 熟練度1
熟練度は思ったようには上がっていない。
第4位階にまで上がっているダークネスフォグが上がりにくいのはわかるが、シャドウバインドやサモンナイトバグなども、それなりに使っているわりにまだ第一位階だ。
多分、後に覚えた術ほど、熟練度が上がりにくいなどの特徴があるのだろう。
ただ、第二位階にある術3種はもう少しで第三位階だ。
ダークミストがダークネスフォグになったように、一つ上の術に変化するはず。
「それで、その……ヒカル。一日で使える回数なんかは……?」
「数えたことないけど、100回くらい大丈夫だと思うけど……、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
リフレイアは白い顔をさらに真っ白くして、唇を戦慄かせている。
回数に関しては、俺もちょっとおかしいのではと気付いていた。
「ヒカルって、愛され者だったんですか……?」
「あっ、愛され……!? なんだそれ?」
どちらかというと、俺は嫌われ者だ。
愛され者なんて、ちょっと恥ずかしい何かでは断じてない。
「そっ、そうですよね……。愛され者であるはずがない……か。じゃあ、すごく精霊術の才能があるってことなのかな……。すごい……」
「素質はあるんだろうな。かなり精霊たちには助けられたよ」
あの森を抜けられたのは、まさにこの素質――精霊の寵愛によるものだっただろう。
それでも、昼間なんかはそこまで精霊術を連続では使えなかったから、夜や迷宮との相性なのだろうなと思う。特に第一層より暗い第二層では、闇はかなりアドバンテージがある。
「そんじゃ、立ち話はこれくらいにして行くか。戦闘方法は、実戦の中で調整していこう。最初はゴブリンとかオークからな」
言葉でどれだけ話し合っても、俺達は一緒に戦ったことがあるわけじゃないのだ。
やってみなければわからないし、やればわかること。
安全マージンは確保するけれど、ある程度は冒険も必要だろう。
なにより、視聴者はそのほうが楽しめるはずだ。




