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配達


 約3年前の9月、日本で高熱と嘔吐に苦しむ新型のウイルスの国内初感染者は、WHOが中国で発見されたと言う発表の1週間後に確認された。さらにその発表には患者が死亡確認された後、5分から1時間のうちに通常の呼吸数、血圧数、心拍数を大きく上回った状態で息を吹き返したものの、意思疎通はできず、凶暴性をあらわにし、治療に当たっていた医師に襲い掛かったと続いた。さらに悪いことに、襲われた医師が患者と同じ様な症状が現れ、中国の医療機関のひとつがその日のうちに燃え上がったと言う。

 

 このウイルスは日本のインターネット掲示板の住人によって、人肉を食べることを表すカニバリズムにかけられ、カニバウイルスと呼称され、その呼び方をマスコミが用いたことから、一般的となった。


 今まさに、その発表から3回目の冬を迎えようとしていた。


「寒っ。10月になると日が出てないと寒いな。上着間違ったか?」


 タンクローリーからガソリンを移しながら返事の期待していない独り言が青年の口から漏れでた。

 20L容量のガソリン携行缶4つと10Lの携行缶に移し替えを終え、台車に乗せ青年の4躯の愛車の荷台まで転がしていく。


「っしょ!」


 注文された品を車に積み込む。いくら肌寒いとは言え、20Lのガソリンが入った金属製の携行缶の重さをも持ち上げる作業を続け、すべての携行缶を積み終える頃には青年の額にうっすらと汗が滲んでいる。


 商品を積み込んだ愛車を適切な位置に移動させ、キャンピングトレーラーを連結する。


「さて、出発するか。」


 愛車である四輪駆動のピックアップトラック、キャンピングトレーラーはどちらもフロントガラスを含めた、全ての窓に金網が打ちつけられ、構造的に弱い足周りには鉄板のスカートを履かせたなんとも世紀末な車両だ。社会が正常に回っている今までであれば確実に車検を通らないであろう車の運転席に乗り込みエンジンキーを回し、エンジンを唸らせた。










 「ふー、こっからは安全第一だぞ俺」



 青年が本拠地を置くこの市は茨城県の最南部に位置し社会が機能していた頃は都内に40分で、しかも始発が多く発車するため電車で座って通勤できると言う売り文句で、ベッドタウンとして期待されていたものの商業施設の開発や誘致できなかったため人気の出ないまま終末を迎えてしまった土地だ。


 片側2車線の国道を下りながら、青年が昔から好きであった海外バンドの曲をBGMとして耳を傾ける。

 

「しかし、北に下るって言う表現は未だに変な感覚だよな。地図上じゃ登ってんのに」


 車のエンジン音によって棒立ちの死者たちが振り返り、決して追いつくことのない青年の車に追いすがろうと懸命に足を動かしていた。

 先刻気を引き締めたにも関わらず、安全対策した車内ではどうしても気が抜けてしまうようだ。青年はぼんやりと死者の走りを眺めながら運転を続ける。


 「応答願います。こちらつくば大学。どなたか協力願います。繰り返します。応答願います。」


 青年が茨城県をそろそろ過ぎようかと言う時に車内に搭載している無線機に通信が入る。しかし、青年はすぐに通信に答えることなく続く内容の中に答える価値があるか、役に立つ情報は無いかと音楽の音量を下げ、耳を傾ける。


 「こちらつくば大学です。カニバウイルスの研究のため協力が必要です。どなたか聞いている方はいらっしゃいませんか?お願いします。応答してください」


 今更研究するにしても足りないものが多すぎるのだろう。それに、大学の医療機関などパニック発生直後に人が殺到しているはずだ。そのため死体が山ほど敷地内に動き回っているだろう。

 そもそも青年は商人である。リターンのない協力など論外甚だしい。青年はこれ以上得る物はないと思ったのか。音楽のボリュームを元に戻し、車の運転に意識を戻した。

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