全ての元凶への怒り、全ての思いを胸に剣を振る
最終決戦編 開幕!!
そして、物語は過去から現在へと戻る。
スティルステラ•ヤチママタタ支部 屋上
網楽は義理亜の話を聞き、今まで曖昧だった記憶が鮮明な真実になった。あの太刀に突き刺された後、自身の成長が止まった事。姉である義理亜が自分を愛故に突き刺した事。全てを確信した。
「ありがとう、姉さん。でもどうして?どうしてブラスト撲滅教なんかに入ったの?」
網楽は義理亜が自分の元へ戦いに来たことや過去の間違った記憶から、自分を何らかの理由で殺したいからだと思っていた。しかしあの日、義理亜が彼女を助けようとしたのなら、なぜ今戦っているのか。それが分からなかった。
網楽が問うと、どこからか男の声が聞こえた。
「それは、そこにいるのはもう君を愛していた『睡蓮院義理亜』では無いからだよ。」
そこに現れたのは城月帝だった。
「お前は!!」
網楽は帝に向かって声を上げる。
「お互い顔を合わせるのは初めてだけど、僕の事は勿論知っているよね?睡蓮院網楽さん。」
ニヤニヤと笑いながら語りかける帝。
城月帝はヤチママタタ地区で最も凶悪と言われている殺人犯だった。年齢、経歴、ブラストの能力を知られた状態でありながら初犯からブラスターハンターの手を逃れ続け、25年間殺人を繰り返している。
「貴様あああああああああああ!!」
網楽は彼の言葉を理解し、怒り、叫ぶ。
「そう、それは僕が過去に殺し、操り人形となった睡蓮院義理亜だ。」
帝は『自身が過去に殺した人間を一時的に一人蘇らせ配下にする』ブラストを使い、義理亜を裏で操っていたのだ。
「父さんも!或香姉さんも!義理亜姉さんも!皆......貴様が殺したのかああああああああ!」
網楽が短刀で帝を斬りつけようと飛びかかる。しかし、目の前に義理亜立ちふさがる。
「おっと......危ない危ない!僕はこれ以上ここにいても仕方がないから失礼するよ。それじゃあ義理亜、あとは任せたよ!」
「ええ。」
帝が階段を降りていく。
「さぁ改めて、始めましょうか。」
帝が去った後、義理亜が網楽に声をかける。
「ああ、行くぞ!」
目の前にいるのは本物の義理亜だが、もう既に死んでいて、操り人形にされている。しかし、斬るのを躊躇うわけには行かない。網楽は全身の破力すべてを開放し、全力で短刀を振る!
「私の破力全放出、逆輪転生は刀で斬った人間を消滅させ、生まれ変わらせると言うもの。色々とわけが分からないと思うが、姉さんは一度でもこの刀に斬られたら終わりだって事だ。」
網楽が自身の能力の説明をする。
「あら、一度でも斬られたら終わりなのは貴方もよ、網楽。私の変幻不在を使って斬った人間の成長は止まる。そして、既に斬った人間を再び斬ると、その人間は絶対に死ぬの。」
「お互い一回でも斬られたらおしまい......と言う事か。」
網楽はうなずいた。そして、動き出す。
義理亜は現在をすり替え、網楽は過去をすり替える。一撃をくらわないように一撃を与られる、その瞬間を探りながら。
網楽が突然、屋上の端の方へと走っていく。支部のビルから飛び降りようとしているのだろうか。義理亜は何が狙いなのかを考えながら、ブラストの力を使い『自分が網楽の正面にいるよう』現在の事実をすり替える。
網楽はそう来る事を狙ったかのように現れた義理亜を斬りつけようとする。義理亜はとっさに反応し、後ろに回り込む。しかし、それすらも予想していたのか、網楽はすぐに振り向き短刀を振る。
しかし攻撃は届かなかった。攻撃が当たらないスレスレのラインで間合いを取られていた。そして義理亜は自身で作ったその間合いを利用し、網楽に向かって太刀を薙ぎ払うように振った。網楽は先程攻撃を空振ったものの、素早く体制を立て直し、過去をすり替えるブラストの力で『義理亜の攻撃を避けたあと後ろに回り込んだ』事に過去をすりかえた。
「何!?そんなはずでは!?」
義理亜が網楽の行動に驚くような素振りを見せる。
「私、こんなに強くなったよ、姉さん。」
網楽は背後をとったその一瞬で、短刀を義理亜に突き刺す。
網楽は背後を取るほんの2秒前から、過去を何百回かいっきにすり替えていた。義理亜はその予想外な行動に、頭の処理が追いつかず、小さなスキを見せてしまったのだ。
「この言葉が、あの頃一緒に笑った、姉さんに届いているって信じてる。さようなら。大好きだよ。」
網楽はブラストの力によって消えていく義理亜に声をかける。
「うん、しっかり届いたわ。私も網楽の事、大好き。これからも網楽は網楽でいてね。」
義理亜はそう答え、消えていった。
「うん、さようなら!」
支部の屋上で、ひとり佇む網楽。
「父さん、或香姉さん、義理亜姉さん。今までありがとう。本当はもっと一緒にいたかったよ。だけど、これは仕方がないことなんだよね。私は前に進む。」
階段を降りていく網楽。
その姿は地を歩いていながらも、新たな島へと飛び立つ渡り鳥のようだった。
悲しみを背負い、希望の先へ。