悪への目覚め、悲惨なる記憶
骨川と仰扇の過去!
ブラスト撲滅教•七賢人、骨川隆弘の記憶。
骨川康弘。ダイデン銀行にて強盗を行い、現行犯逮捕。
「ヤスにぃ!ヤスにぃ!行っちゃ嫌だよ!俺一人でどうすりゃ良いんだよ!!なあ!」
「ごめんよタカ。お前を楽させるつもりが、最悪な事になっちまった。どうか一人でも生きてくれ。」
ゾルラマタウンの路上を、行く宛も無く一人歩く。骨川隆弘は、昨日まで兄の骨川康弘と共に毎日を過ごしていた。彼らには家が無かった。死んだ両親が残した借金を返すために、全てを売りに出した......いや、売りに出さざるを得なかったのだ。
ホームレス支援団体の援助によって毎日働く事は出来た、辛うじて毎日を生きるための金銭は確保していたが、ある日......
「君、武田君の財布、盗んだでしょ?」
「いいえ、そんな事してません。」
隆弘は、泥棒の濡れ衣をきせられる。
「皆言ってるよ、君が武田君の鞄から財布を抜き取るのを見たって。」
「え????」
わけが分からなかった。彼は財布を盗んでなど決して無いし、そもそも武田君と言うのが誰だか分からなかった。
「あーもういいや。盗んでようが盗んで無かろうが君はもうここに来ないで来れ。現場の雰囲気が悪くなる。」
「え......どうして......」
隆弘は職を失った。拾ってくれる場所はもう何処にも無いだろう。彼は街の中のゴミ置き場を漁って、食料を手に入れようと試みる。
「何やってるんだアイツ......汚いな。」
「うわ。気持ち悪い。」
通行人には白い目で見られるが仕方が無い。生きるにはこうするしか無いのだ。すると、ゴミ置き場から一匹のヘビが飛び出す。
「シュルルルルルルルルルル」
「うわぁ!!」
突然現れたヘビに驚き、隆弘はつい自身のブラストを放ってしまう。彼のブラスト【属性付与:深淵】は、使った対象の肉体を強化をすると同時に凶暴化させると言うものである。ただ、凶暴化と言っても、能力を使った隆弘に襲いかかる事は無い。
「シュルルルルルルルル」
彼の周りをくるくる回るヘビ。どうやらヘビは彼に懐いたようだ。これは彼のブラストとは関係なく、ただ懐いたのだ。
「お前も一人ぼっちだったのか......よし、じゃあ一緒に行こうか。」
勿論、彼にはヘビの言葉など分からない。ただ、何となく感じ取ったのだ。自分の心の中の悲しみ、憎しみ。それらがこのヘビの心の中にもあるという事に。
同じ感情を持つ者を前に、大きな何かに動かされるような感覚に襲われる。
頭の中に怒りが満ち溢れ、彼の心の奥底に封じ込られていた復讐心が解き放たれる!!
「何となくだけどさ、俺たちならやれるかもしれない!ぶっ壊そう、こんな世界!」
ヘビに笑って話しかける。
「俺の名前は骨川隆弘!君は......」
近くに『Gel』と書かれた袋を見つける。
「よし!今日から君の名前はゲルちゃんだ!」
ここから彼はブラスト撲滅教の存在を知り、入信。殺戮の限りを尽くし、七賢人へと昇格する。
ブラスターハンター、村雲仰扇の記憶。
妹の灯が病気を患い倒れたのは、だいたい1年前の事だった。医者には、この病気を治すには臓器移植が必要で、それには一生働いても稼げないほど多額の医療費が必要だと告げられた。
彼のブラストは元々、母親のものだった。村雲の一族は先祖代々短命であり、彼の両親もまたそうだった。命の終わりを感じ取った父と母は、仰扇にブラストを伝承する事を決めた。母親の【召喚術:風雲】を、父のブラストを人から人へと分け与えるブラストを使って彼に力を与えた。
それから一週間後父が、さらに一週間後に母がこの世を去る。
「これはお前と灯を守るための力だ。仰扇、灯、幸せになるんだぞ。」
「貴方達を生んで良かった。もっと一緒にいたかったけれど、これでさようならね......強くなくても良い、ただ、笑って生きて。」
これが父と母の最後の言葉だった。
灯もいつ死んでしまうか分からない。仰扇は怖くて怖くて仕方が無かった。一刻も早く大金を稼がなければ。どんな手段を使ってでも。恐怖から彼は黒く染まった。人を傷つけ、物を盗み、裏社会の手助けをした。数え切れぬほどの罪を犯した。
そしてある日......
「キャトラ=オニャンコバリエ。彼女は相手の心を読むと言うブラストを持っている。君にその子を捕まえてきてほしいんだ。」
とある企業との裏取引であった。
「かしこまりました。必ず捕まえてきます。」
この後に何があったかは知っているだろう。
ブラスターハンターになった後、彼は今までの行為を悔い改める事を決める。灯にも今までしてきた事と、これからは善の為に生きると言う事を伝える。灯は笑って許した。彼はどんなに罪を犯そうが、人を殺す事はしなかった。もし、誰かの命を奪っていれば、彼女も怒っていただろう。
「灯、必ず。必ず助けるからな。」
カウントダウン!残り7話になります!!