姉と妹の再開、網楽と義理亜
網楽VS義理亜
睡蓮院家 姉妹対決!
俺たちが今後の為の計画を練っている頃、網楽さんはスティル•ステラ、ヤチママタタ支部の屋上で、自身の姉であり七賢人•三賢王の睡蓮院義理亜との戦いを始めようとしていた。
「網楽、助けを呼ばなくていいの?」
「大切な部下たちを巻き込むわけにはいかないからな。それに、周りに誰かいたらお互い本気で戦えないだろう?」
「それもそうね。じゃあ、早速始めよう。」
義理亜はそう言うと、腕を前に出し手を広げる。
「宿命刀! ベルダ!!」
そう叫ぶと、彼女の手元に太刀が現れる。その太刀の刀身はくもりの日の夜空の様な黒色だった。彼女はそれを掴み、構える。
それを見た網楽さんも、彼女と同じように腕を前に出し手を広げて思いっきり叫ぶ。
「天命刀! クルド!!」
すると、空から真珠の様な白さと輝きを持った短刀が、空から落ちてくる。網楽さんはそれをキャッチし、右手で強く握る。
「行くぞ!」
そう言った瞬間、網楽さんは義理亜の視界から消え去る。透明になったのか、否、目では認識出来ない程のとてつもないスピードで移動をしているのだ。
「ふふ、貴方のブラストを見るのは何年ぶりかしら?」
義理亜は不敵な笑みを浮かべながら網楽に問う。
「11年前だ。」
そう答えながら網楽さんは義理亜の死角に潜り込み、背中を斬りつけようとする。しかし義理亜はそれに反応し、網楽さんの腕を掴む。
「もう、そんなに昔になるのね、懐かしいわ。」
そう答え、義理亜は網楽さんの腕を掴んだまま自分の方へと引きこもうとするが、既に網楽さんの腕は義理亜の手を離れていた。確かに掴んでいたはずだが、いつのまにやら、そこから姿が消えていた。
「あら、逃げられちゃった。」
ニコニコと笑いながら、義理亜が呟く。
「そこだ!」
網楽さんは義理亜の頭上の空間に突然現れ、彼女の右肩に向かって短刀を振り下ろす。攻撃は当たり、義理亜の右腕は切り落とされる。切り落とされた右腕は地面を転がって行く。
「成長したわね。網楽。」
義理亜は右腕を切り落とされたにも関わらず、痛みを感じた様な反応もせず、ただ網楽さんを称賛する。
「え、どういう事だ......」
逆に攻撃を成功させ腕を切り落とした網楽さんが、驚いた表情をしている。先程切り落とした筈の義理亜の腕が、切られる前の状態に戻っていたのだ。
「私のブラスト、【宿命刀:ベルダ】の能力を見るのは初めてだったね。」
義理亜が優しい笑顔で話し始める。網楽さんは今だ驚きの表情を隠せないまま、話を聞く。
「この太刀の『自分の現在の事実をすり替える能力』で私が腕を切られたと言う今の状態を変えたの。腕を切られていない状態にね。」
「現在を変える能力......」
「そう、貴方の過去を変える能力や或香姉さんの未来を変える能力と、似て非なる物。」
網楽さんは義理亜の話を聞いて、ニヤッと笑う。
「今ので何となく理解できた。さあ、戦いを再開しようじゃないか、姉さん。」
網楽さんの【天命刀:クルド】には『自身の過去の事実をすり替える能力』がある。先程、網楽さんが義理亜に腕を掴まれたにも関わらず、いつの間にかそこから消え、義理亜の頭上に突然姿を現したのは『掴まれた』と言う『過去の事実』を『頭上から飛びかかった』と言うものにすり替えたからだ。
網楽さんは義理亜の『現在の事実をすり替える能力』と自身の能力の違いを探りながら戦う事を決める。
これらの能力は超常的なものに感じるかもしれないが、勿論限界がある。お互い、自分の破力でどこまでの事象をすり替える事が出来るのかを既に理解している。二人の能力は『自分は既にこの戦いに勝った』『自分は最強の人間だ』などと理想を掲げるだけで、それが叶う神のような力などでは決して無い。
網楽さんは考える。
―私の能力は過去をすり替える事。過去をすり替えた事に伴って現在がすり替わる。それに対して姉さんは直接現在の事実をすり替える......
―姉さんは自分の思ったままに今の事実をすり替えればいい。私は過去をどう改変すれば、今の状況を改変出来るかを予測する必要がある。
―こう考えると現在をすり替えること自体には、現在そのものをすり替える事が出来る姉さんの方に分がある......面倒くさい思考をする必要がないからな。
―ただ、破力の方は私の方が勝っている。このまま消耗戦に持ち込めば、先に姉さんの破力が尽き、勝てる!
網楽さんは義理亜に向かって正面から斬りかかる。義理亜は自分が『網楽の正面にいる』事実を『網楽の背後にいる』と言う事実にすり替える。
それと同時に網楽さんは『義理亜に正面から斬りかかろうとした』過去を『義理亜の首を切り落とした』と言う過去にすり替える。
義理亜の首は一瞬地面に落ちたかのように見えたが、先程と同じく、彼女は何事も無かったかのように笑っている。一方網楽さんの頭からは血がたれている。
「網楽、容赦無いわね。腕や足を切り落とした所でその後事実をすり替えられて復活していまう。だから一発で仕留める為に首を切断しようとしたのね。」
義理亜が優しい声で網楽さんに話しかける。義理亜は網楽さんが『自分が斬りつけられた』瞬間を『自分が網楽を斬りつけた』事にしたのだ。
しかし、すぐに網楽さんはその『義理亜に斬りつけられた』過去を『義理亜を斬りつけた』過去に置きかえた。
すり替えられた現在を、過去をすり替える事によってそれを無かった事にする網楽さん。その事実を更にすり替える義理亜。これを繰り返すうちに、義理亜は網楽さんの意図に気づく。
「このまま戦ったら、破力が尽きるのは私......ならば仕方が無い......」
義理亜は太刀を心臓に突き刺す。
「破力全放出! 変幻不在!!」
心臓から引き抜かれた太刀が黒い闇を纏う!
「そりゃあ、そう簡単には行かないか!」
網楽さんはそう言って短刀を自身の心臓へと突き刺す。
「破力全放出! 逆輪転生!!」
義理亜の太刀と対を成すように短刀が白く、闇を全く寄せ付け無い程の光を放つ。
「姉さんの破力全放出を見るのは初めてのはずなのに、何故か私は、この感覚を知っている。」
困惑する網楽さんに義理亜が話しかける。
「やはり気づいたのね。いいわ、ここで今、貴方は終わる。だから全て教えてあげるわ......貴方自身の事、睡蓮院家の事を。」
一方、その頃......
「護......約束を破ってしまってすまないな......お前の倅は立派に育っておったぞ......今からそっちに行くから、ゆっくり話そうか......そうだな、昔の事も語り合いたいのう......」
加星歴3090年 ニーリス国
海牛の月 17日 午前11時
ヤチママタタ地区 ゾルラマタウンにて
大瓦五右衛門
ブラスト撲滅教•三賢王•城月帝と交戦し、死亡。
ダイデンシティ•ブラスター収容所
田辺零路は京平と戦い合い、語り合った後、改めて自身の生きる喜びについて考え直す為、自ら収容所へ訪れる。
「そうですか、骨川さんと潜留さんは亡くなられたんですね。寂しいものです。」
零路は仲間が亡くなった事を聞き、小さく涙を溢しながら、ブラスト撲滅教との出会いを思い出していた。
それぞれが過去を振り返る。
そして、この物語も、過去へと遡る。
次回!過去編!