一時の休息、報告と合流
暴動は収まり、戦いは次のステージへ。
「君はよくぶっ倒れるね。クセなの?」
どうやら俺は、骨川との戦いの戦いの後に気絶し、倒れてしまったようだ。そして今、シルクハットをかぶった男が運転している車の中にいる。
「貴方は?」
俺はシルクハットの男に聞く。
「僕は佐川道明、元ブラスターハンターで、今は救助班としてスティルステラで働いてるよ。」
軽く自己紹介をする佐川さん。俺はこの名前を何度か聞いたことがある、キャトラの所や網楽さんの所で。そう、彼は......
「佐川さん、俺と仰扇とキャトラを網楽さんの所へ届けに行ったのはもしかして......」
「ああ、僕だよ。」
「やっぱりそうなんですね!その時はありがとうございました!まさかこんな所でお礼が出来るとは!」
あの日の夜、コンビニの前で仰扇と戦った後、俺たちを支部まで運んで行ってくれたのは彼だった。
「いやー!あの時はビックリしたよ。夜のウォーキングをしていたら、君たちが倒れていたんだもん。」
明るく話す佐川さん。俺もそれにつられて微笑みながら話す。
少しの沈黙の後、話題は今の状況についての事に変わる。
「すいません佐川さん。今どんな状況なんですか?他の皆はどうしているか分かりますか?」
それを聞いた佐川さんは先程よりも真面目な表情で話し始める。
「そうだね、伝えるべき事が沢山あるんだ。君にとって聞きたく無い様な嫌な事実もあるけど、状況把握の為、辛くても我慢して聞いて欲しい。ごめんね。」
「分かりました。」
俺が返事をした事を確認すると、佐川さんは車を運転しながら少し暗い表情で話し始める。
「紅蓮柳くん村雲くんはそれぞれ一人の七賢人のメンバーを止めると同時に、キーリンタウンの暴動を終らせた。しかし二人とも破力全放出をし、その反動で戦闘を続けるのは難しい。」
京平......仰扇......無事で良かった!そして、相手の幹部、七賢人を二人も止めたのか!
俺が安心する中、話を続ける佐川さん。
「次は、本当に覚悟して聞いて欲しい。」
佐川さんが、先程以上に暗く、先程以上に真剣な表情で俺に向かって話す。
「はい。」
「君と一緒に行動していた奏累くんは......霧島薬子との戦闘で、命を落とした......」
「累......そうですか......」
累とは昨日出会ったばかりだったのに......これから共に戦おうと意気込んでいたのに......
「丈夫くん、少し休むかい?」
下を向きながら悲しみに暮れる俺を心配し、車を止めようとする佐川さん。
「続けて下さい。心配して下さりありがとうございます。」
すぐに立ち直る事は出来ないが、ここで泣くわけにもいかない。俺はこのまま佐川さんの話を聞き続ける。
「無理そうだったらいつでも言うんだよ。それじゃあ続きを話すね。累くんは、霧島薬子のブラストの能力を暴いてくれた。」
霧島薬子のブラストは十何年も謎だったが、累のブラストの力で、ついにその謎を暴く事が出来たらしい。累の【真実の腕輪】は彼が質問した人間に、その質問の答えを正直に答えさせる能力だと言う。対象になった人間は黙る事も嘘をつく事も出来なくなり100%強制的に真実を話してしまうと言う。
佐川さんが話を続ける。
「そして、その霧島薬子の能力なんだが......累くんが残したメッセージによると『彼自身が『殺す』と念じた人間が彼の事を数分見続けるか、彼の声を十数秒聞き続けるとその人間が死ぬ能力』らしい......」
「なんだよそれ......」
滅茶苦茶な能力だと思ったが、すぐに納得がいった。父さんも母さんも累も皆、彼と「会話」をしている。彼の事を見ている。種も仕掛けも無かったのだ......でもこれで、霧島薬子を攻略することが出来そうだ。
ありがとう、累......あとは任せてくれ。
「次は、夜桜さんについてだよ。彼女は、七賢人の一人、土井潤一郎を倒した後、ブラスト撲滅教の主導者である神我崎清彦と交戦。その後、自身一人の力では神我崎には勝てない事に気づき撤退。」
「鈴音は無事なのか。良かった。」
「そして今、僕たちが向かっているのは夜桜さんの所だ。今から彼女と合流して態勢を立て直す。」
「合流ですね。分かりました。」
鈴音は戦闘に慣れていて、破力も百万越えだと聞く。そんな鈴音が撤退してしまうような相手、ブラスト撲滅教の主導者、神我崎清彦......恐ろしい。
「大瓦さんは七賢人......三賢王の城月帝と交戦後、彼と共に行方不明になっている。」
「行方不明......大瓦さん、無事でいて下さい。」
俺はそうつぶやいた後、佐川さんに質問する。
「三賢王ってなんですか?」
「ああ、三賢王って言うのは、ブラスト撲滅教の幹部である七賢人の中でも、更にずば抜けた力がある者に与えられる称号らしい。紅蓮柳くんの報告によればね。」
「更にずば抜けた力......」
「今だ何処かに身を隠している霧島薬子、大瓦さんと共に行方不明の城月帝、網楽さんの姉である睡蓮院義理亜。この三人が三賢王の称号を与えられているらしい。」
幹部七人のうち、まだ生き残っている可能性がある三人がずば抜けた力をもつ三賢王なのか。油断は出来ないな。そして......
「どうして網楽さんの姉がブラスト撲滅教に!?」
「分からない。僕が知りたいくらいだよ。」
そもそも、網楽さんに姉妹がいる事すら知らなかった。一体どう言う事なんだ。
「さあ、ついたよ。」
車が鈴音との合流地点に到着する。
「おいーっす。ちょっとやらかしちゃったよー。」
鈴音が右肩を抑えながら、車に乗り込む。表情や台詞からは負傷したような雰囲気は全く感じなかったが、彼女の右腕は大怪我を負っていた。
佐川さんが車の中から取り出した医療キットで鈴音の腕を治療する。治療を受けながら、鈴音が話す。
「神我崎清彦、あいつと戦う時は本当に気をつけた方がいい。ワタシの赤蜻蛉も針も何も全て、彼の目の前で灰になっちゃったの。それでいきなりワタシの腕がバァーン!ってなってぇ。」
神我崎について話す鈴音。話の内容から、霧島薬子のブラストと同じか、それ以上に超常的な現象が起きたと伺える。
「あー!ほんと死ぬかと思った!」
神我崎清彦......恐ろしい......
鈴音の怪我の処置が終わる頃、俺は先程まで忘れていた俺が倒れる直前の事を思い出す。
「俺、ブラストを持っていないのに破力全放出が出来たんですよ。この銃を自分の心臓に撃ったら、突然力が漲って、雷のブラストが使えるようになったんです。」
骨川との戦いで起きた事を佐川さんに話す。
「そんな事が......今までそんな事、見た事も聞いたことも無いよ。一体どういう原理なんだろう。」
佐川さんにも分からないようだ。
そこから少し時間が経つと京平、仰扇がここへ俺が乗って来たものと同じ、救護班の運転する車に乗ってやってくる。
お互いに起きた事、聞いたことを改めて報告しあう。
それが終わると、京平が提案する。
「暴動は殆ど収まったが、アイツらがまた動き出す可能性は高い。それに備えて、今後の事を話そう。」
集まったメンバーで、次の行動の計画を練りはじめる。
次なる戦いに備えて