9.辛い
「ねぇ?藤堂君聞いてる?」
「えぇ?あぁ……」
「どうしたの?ずっと上の空って感じだけど」
放課後。
俺と有泉は真吾と平井のためのデートの計画をしていた。
有泉といるってことを忘れるぐらい。……違う、忘れてしまいたいぐらい俺は弱りきっていた。
有泉の気持ちを知ってしまったからだ。
有泉が。
――有泉が、平井のことを好きってことを……。
あの日有泉が言った言葉。
『でもタツの一番は僕じゃない』
その言葉を聞いて有泉の気持ちを知ってしまった。
どうせなら知りたくなかった。
それに有泉が平井のために……好きな人のために、デートを企画したってことも知りたくなかった。
なんだ……。
俺、馬鹿みたいだな。
二人で会うことができる、何て浮かれて。
何もかも平井のためにやってことを……。
「あぁ。いや、何でもない」
俺は有泉の気持ちを、知らないふりすることしかできない。
『辛い』
前にも似たような感情をもった。
――あれは、確か有泉を好きになったばかりの頃だった。
男が男を好きになって、どうすればいいのかわからなかった。困惑もあった、伝えられないのがとても辛かった。
そんな時、伝えることが大事だって真吾が教えてくれた。男同士でも大丈夫って教えてくれた。
有泉は平井が好きで。俺は有泉が好き。
こうゆう時はどうすればいいのだろう?
いつも真吾に頼ってばかりだった俺。
でも今は、しっかり自分で考えなきゃいけない。
これは俺の問題だから。
……辛い、すごく辛い。
もう訳がわからなくなるぐらい辛くて、なにも思いつかない。