4.傷つけて、傷ついた。
――放課後、俺は急いで帰って出かける支度をした。
急に平井の家で、勉強会をすることになったからだ。
メンバーは俺と真吾と平井、そして有泉。
……さっき、真吾に言われたのだが。
『いいか?これはチャンスなんだ。有泉に、積極的に話しかけるぐらいしろよ。他にも、勉強教えるとかさ……。わかったな?』
多分この勉強会の目的は、俺が有泉と少しでも仲良くなることだと思う。
でも、話しかけるぐらいしろよ……って。
はぁ……。
それができたら苦労しない。
俺は小心者だから。
そんなこと、できるはずがない。
……。
あぁ……。
駄目だ、駄目だ!
そんなことじゃ、いつまでたっても有泉と仲良くなんかできるわけがない。
できないって思ってれば、できないのは当たり前。
「努力」する。
そして、自分から。
『積極的に』
やらないと、何も変わらないんだ。
そう、真吾が教えてくれた。機会をくれた。
だから少しずつでも変わろう。応援してくれる真吾のためにも。
何より自分のためにも。
「で、わからない所ある人」
……俺がいろいろ考えてるうちに、勉強会は始まっていたみたいだ。
平井は、俺たちにわからないところを訊く。
平井とはあまり喋ったことはないが、学年で成績が1番いいと聞いたことがある。
「俺、全部!!」
「僕も!!」
真吾と有泉が勢いよく手を挙げる。
有泉って、結構乗りのいい奴なんだ……。
明るいってイメージはあったけど、いつも静かだから、少し意外。
新たな一面を知れた嬉しさに浸っていた。
だが。
次の平井の言葉で、俺は気分は急降下。
「藤堂。わからない所はどこか教えて」
それは、俺の頭が悪いといいたいのか。俺を馬鹿にしてるのか。
……っと言いたいところだが、怒る勇気なんて俺にはない。
「別にないけど」
そっけなく返事を返した。
実は俺、成績順位は学年290名中20番に入ってる。
だから平井みたいに頭がいいわけじゃないけど、大抵はできる。
「そうなんだよね。健斗って顔に似合わず頭いいしね」
『どういうことだ』っと目を向けると。
「ホントのこと言っただけぇ〜」
真吾は悪びれもせず、そう言った。
その答えにムッとするが、そんなの痛くもかゆくもないのか、真吾は面白そうに俺を見てる。
気に食わない……と思うのだが、やっぱり俺は口に出して反論するのが苦手みたいだ。
「ねぇ。藤堂君」
「へぇ?」
突然声をかけられて、俺は変な声を出してしまった。
その声が返事だと思ったのだろうか。
有泉は話を続ける。
「今日は藤堂君に勉強、教えてもらうね。ねぇ?いいよね!!」
……。
……えっ?
突然の申し出に、言葉を無くす。
かわいい……。
俺と有泉はそんなに背は変わらないが、有泉が童顔ってこともあるだろう。
なんか有泉って、小動物みたいだ。
俺が言うと似合わないと思うけど。
キュン!!
って感じがする。
「えぇ……とダメ?」
有泉は繰り返し上目づかいで訊いてくる。
もちろんその答えは。
「あぁ。いいけど……」
緊張してるのがばれないように、質問をはやく返す。
「で、有泉はどこがわからないんだ」
そう訊くと、有泉は平然と答える。
「全部」
さっきも同じことを言っていたが、まさか本当だとは思わなった。
……微笑ましいな。
思わず笑みをこぼすと、有泉はなぜかムッとする。
「なんで笑ったの?」
……。
有泉のキーンとするような冷たい声を聞いたので、俺は固まってしまった。
真吾と平井も驚いているようで、二人も目を瞠っている。
何か俺、悪いことした?
あんな冷たい声、出させるようなことした?
困った俺は、真吾と平井に目で助けを求めるが。
相手にされず、『自分でどうにかしろ』って言ってる。
――ど、どうすればいいんだ……。
……もしかして俺が笑ったことで、馬鹿にされたと思ったのだろうか?
それだったら困ると、あわてて謝る。
「いやぁ……。あのな。別に、その馬鹿にしたわけじゃないんだ。ごめんな」
そう謝ると、有泉は首を横に振る。
「僕こそごめん。その…むきになって。そういうのなんか敏感で……」
えへへっと笑って、有泉はそう言った。
でも。
震えるような目をしている、と思うのは気のせい?
無理やり笑っている、と思うのは気のせい?
悲しそうな顔をしている、と思うのは気のせい?
……それほど、俺が笑ったことに傷ついたのかだろうか?
それとも、俺のこと。
嫌いになったのだろうか……?