好きと言った後…
好きと言った後……。
まだ俺は仕事中だったので、俊也には悪いが、一旦学校から出てもらった。
俺が仕事終わったら会おうということになり、また俊也には学校に来てもらったのだ。
「そういえば、なんで俊也は俺の働いている学校分かったんだ?」
俺の家までの帰り道。
ふと思った疑問を聞いてみた。高校で働いているとはメールで教えたが、どこの学校かと聞かれなかったので答えなかったのだ。
「あぁ……真吾君が教えてくれたんだよ」
「真吾?!」
俊也はのんびりとした口調で行っていたが、それはとても驚くべきことだった。
アイツ、そんなこと一言も言ってなかった。
……もしかして、電話してた時には俊也が日本に戻っていること知っていたのか?
『頑張れよ!』
と、言っていたのはこのことだったのかもしれない。
「真吾君は責めないでよね。僕が真吾君に言わないでって頼んだんだから」
楽しそうに俊也は笑っている。なんでだろうと首をかしげていると、
「面白いからに決まってるじゃん!!」
「……はぁ?」
これだから健斗は…と俊也は溜息をついている。
まったく意味の分からないことを言われた。その意味を頑張って考えようとするがやっぱり浮かばなくて……。
俊也は俺に何かを諭すように、真剣な目で見つめてきた。
「健斗。いい?健斗は反応が面白いから、揶揄いがいがあるのっ」
「うん?」
「……もういいよ。今からそれを証明するからっ」
「……?」
首をかしげるが、そんな俺の様子を俊也は楽しそうに眺めている。
6年間で、俊也は変わった。
変わらないなんてありえないかもしれないけど、知らない俊也がここにいると思うと、不安に思う。
ずっと一緒にいたい。
傍にいてほしい。
それが叶わない夢だと思ったことあったけど、今は違う。
俊也は俺の隣にいてくれる。そう思えるから…。
「なぁ……?俊也、何をもったえぶってるんだよ」
俺が焦ると、もっと俊也は楽しそうな顔をする。
それに拗ねたい気分だが、久しぶりの再会なのだ。カッコいいところを見せたいと見栄を張る。
「うん……まだ秘密っ。もうすぐ分かるから」
目の前に少し古そうなアパートが見えてきた。そのアパートの2階に俺は住んでいる。
ボロボロの階段を音を立てながら登っていくと?
「なんで俺の部屋の前にトランクが置いてあるんだ?」
トランクが一つ。
何となく見たことがあるトランクだなぁ……。と考えたのは、ほんの一瞬、すぐに誰か分かった。
もしかしての予感がよぎり、俺は俊也を横目で見る。俊也は慌てて、違う違うと手を顔の前で振る。
「あぁ!大丈夫。そういうことじゃないよ。僕、ちゃんとした家あるからね」
その言葉に一度安堵するが、
「僕、健斗のお隣に引っ越してきたから。これからもずっと一緒だね」
「へぇ?」
俺は耳を疑う。
俊也はくすっと笑って、もう一度言う。
「聞こえなかった?だーかーら、僕、健斗のお隣に引っ越してきたの」
目をパチパチパチ。
三回瞬きして、ようやく意味は把握した。
「えぇーーーーーーー!!」
いつもは大声を上げない俺だが、近所迷惑を考えずに叫んだ。
まずはいったん落ち着こうと、俺は自分の部屋に入る。俊也も後から付いてきているのが、気配で分かる。
水を飲んで深呼吸だと、床に座る。それに続いて、俊也も俺の隣に座った。
「ほらね。やっぱり健斗は面白いんだって。6年たっても変わらないねぇ」
何も喋らない俺に、俊也はムッとする。
「健斗は僕と一緒にいられるの、嬉しくないの?」
悲しそうに言われれば、強く言えなくて。
「嬉しいに決まっているだろう」
と、ぶっきらぼうに言葉を放つ。
「お前は変わりすぎだよ……」
頭を抱えながら言うが、俊也は平然としている。
「変わったんじゃなくて、健斗が知らないだけっ」
「そうかもな」
俺は自嘲気味に笑った。それが図星だったからだ。
俺は俊也のことを実はあまり知らないのだ。だから俺は、これからいっぱい俊也のことを分かりたい。努力をしたい。
「俊也だって俺のこと知らないだろ?」
「少なくとも、健斗よりは知ってると思うけど……?」
「………」
言い返せないのが悔しい。確かに俊也のほうが知っているかもしれない。
少し肩を落とすと、
「そんなに落ち込まないでよ。ほら、今からお祝いするんだからっっ」
俊也は俺を励ますように、肩をぽんぽんと叩く。
「俊也のお帰り祝いか?」
顔をあげると、俊也は優しい笑みで俺を見ている。その笑みがとても可愛らしくて、つい頬に触れてしまった。
俊也はその俺の手に、自分の手を重ねてきた。
「両想い祝い」
鼓動が速くなるのを感じる。
俊也は俺に恋を教えてくれた───初恋の人。
「ずっと一緒にいようね」
「あぁ、約束な」
キスを交わして、
お互い隙がなくなるぐらい、きつく抱きしめて
見つめあいながら、優しく囁く
「好き」
二人だけの甘い時間が流れていく──……
□お知らせ□
スピンオフ作品「手をつないでもいいですか?」を書き始めました。
主人公はあのひと(?)です。よかったらそちらも読んでください。
最後まで読んで頂き、有難うございました!!