想い2
「………」
ここ一週間、幼馴染が元気ない。
原因は分かっているのだが、俺にはどうしようもできない。
原因である有泉は、一週間前にフランスに行ってしまったからである。
「起きろ!!おい!!遊びに来てやったぞ」
「………」
完全無視……。
初めての事態。もう一度、声をかけてみる。
「健斗。おい、起きろよ!!」
「……」
本当に寝ているのか、俺がでかい声をあげてもピクリともしない。
もしかしたら、いろいろ考えすぎて寝不足かもしれない……それでも、今この小心者の幼馴染と話をしなければいけなかった。
健斗のために。
「屋上、行くぞ」
眠っている健斗を無理やり起こした。
本人は何が起こっているのか分からないらしく、目をパチクリさせている。
無理やりなんてしたくなかった。
それでも、やっぱり俺はこの幼馴染が心配なのだ。
ここまで弱り切ってしまうのは、健斗が有泉のことが本当に好きだからだと分かる。
それはいいことかもしれないけど、このままではいけない。
ただ健斗は寂しい気持ちを抱きっぱなしで、立ち止まっているだけなんだ。
前に進まなければいけない。
どんなに寂しくても、つらくても、前に進まなければ、何も始まらない。
何より、こんな健斗の姿を見た有泉が可哀想だ。
屋上についた後、引っ張っていた手を離した。突然、離させてびっくりしたのか、健斗は一瞬足元をふらつかせた。
「健斗。お前、このままでいいのか?」
俺は諭すように、健斗に聞く。
「分かってるんだけどな」
頭では分かっているんだけど、気付かないうちに落ち込んでいるというわけか。
「おい!!しっかりしろよっっ!!健斗。今の有泉がお前を見たらどうする!?カッコわりーぞっ」
「あぁ、そうだな」
いつもならムキになって言い返してくるのだが、健斗は自嘲気味に笑っただけだった。
落ち込んでいる幼馴染に元気になってほしいけど、俺に元気にすることはできない。
どうしようもない事実だから、しょうがない。
そう思っているときだ。
「真吾。もういいだろ、行くぞ」
俺の後ろに、タツがいた。
「えぇ?」
そこにいるとは思わず、間抜けな返事をしてしまう。
タツはそれを気にしていないのか、無表情で俺を屋上から連れ出そうとする。
そんなタツに、俺は気付かれないように笑った。
ほっといてやれと言っているのか、それともこの頃、健斗ばかりにかまっているから嫉妬しているのか………
後者だと思ってしまう俺は、多分馬鹿だと思う。
番外編「想い2」は真吾視点でした。
健斗を心配していたはずなのに、最後はちょっと違う方向へと言ってしまいました。
中途半端なところで終ってしまいましたが、この後の健斗は、なんとか立ち直ることができたわけです。
次は、いったい誰視点なのでしょうか?
次回の更新は6月15日以降です。
しっかりとした日にちは決まっていませんが、6月中には更新できるようにしたいです。