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30.好き

───あれからちょうど、6年が経つ。


 俊也は俺と平井と真吾にだけお別れを言い、フランスへと旅立った。


 俊也のいない高校生活。それはとても大変なものだった。


 真吾と平井がいなかったら、俺はどうなっていたのか分からない。


 栄養失調で倒れていたかもしれないほど、俺は弱っていた。


「おい!!しっかりしろよっっ!!健斗。今の有泉がお前を見たらどうする!?カッコわりーぞっ」


 その真吾の言葉で何とか立ち直ったものの、俺は空気のようにふわふわと生活していた。


 毎日俊也とメールをやり取りしていたが、気持ちを言えないから、胸がキューっと締め付けられるようになる。


 会いたい……。


 言葉が俺の中を支配する。


 俊也に早く会いたい……─。


 そんなこと思っても無駄だと思っていたけど、そう思わずにいられなかった。



 そんなある時、俺はガラリと変わった。


 俊也が言っていたことを思い出したのだ。偶然だった。


 どうして「あの時」の言葉を思い出したんだと不思議だけど、この言葉があったから今俺は、「ここ」で生きている。


「センセー。ここどうするのか教えて?」


 ここ──学校。俺は教師をしている。


 昼休み。職員室で昼食を取っていたところだった。


 女子生徒が持ってきた教材を見て、ふと笑みがこぼれる。


「どこだ?……あぁ…ここか。ここはなぁ…この公式をつかってな……」


 俊也の苦手だった数学の高校教師。


『健斗って教え方上手いよね』


 俊也のそのたった一言で、俺は教師になろうと思った。


 もともと人に勉強を教えるのは好きだったから、俺に会ってるかもなっと思ったのがきっかけだ。


 女子生徒が教えてほしいと言ったところは、丁度俊也が何度も教えてと言ったところだったのだ。


 何度も教えたから、一番説明し慣れていると言ってもいい。


「センセーって怖い顔してるけど、意外と笑顔可愛いね」


 怖いとは小さい頃から言われ慣れてたけど、可愛いなんて言われたことないから(多分)どう反応すればいいのか……と固まっていると生徒は面白そうにキャッキャッと騒ぎだした。


「センセーってなんて言うかあれだね…初心。そう初心!!」


 決め台詞を言ったかのようにすっきりとした顔をされた。


 俺としては微妙な心境なのだが……。


「可愛いところもあるんだけど、センセーってちょっと鈍い所あるでしょ?彼女に嫌われてもしらないからね〜」


 普通なら簡単に流せる話。


 だが俺にはどうしても流すことができなかった。


「終わったなら帰りなさい」


 素っ気なく言うと生徒はまたも笑う。


「図星?センセーって分かりやすっ」


 笑いながら、職員室から出ていく。


 そんな生徒を見て、隣に座っていた同じ学年の先生が俺の肩に手をポンとのせる。俺より15年上と言っていた水内先生だった。


「藤堂先生。最初は疲れますよね……。この頃先生、元気ないし大丈夫?」


 俺は傍から見ても疲れていたのだろうか?


 無理矢理笑顔を取り作ろうとすると、水内先生は首を横に振る。


「藤堂先生、無理しないで。最初はきついと思うけど」


 無理に大丈夫だといったら、逆に心配されてしまった。

 

 学校って難しい。先生って難しい。教員一年目だから、と言うこともある。


 けど、今の大きな原因はほかである。


「すみません、心配をおかけしまして…」


 深々と頭を下げると、水内先生は家々と顔の前で手を振ってみせる。


「悩み事があったら、他の先生でもいいから相談しなよ?」


 水内先生の温かい言葉。


「はい。有難うございます」


 ブブブブ…ブブブブ……


 バイブ設定にしてあった携帯が俺の胸ポケットの中でブルブルと振動する。水内先生に断りを得て、屋上へと向かった。


 着信で、名前は───真吾。


「もしもし」


「もしもしっっ、健斗ぉ?」


 慌ただしい声が聞こえる。電話の向こうからざわざわっと騒がしい雑音が入ってくる。


「そうだが…用件はなんだ?」


 あまりに素っ気ない声に真吾はムッとする。


「何その言い方っ。一週間ぶりの電話なんだぞ?」


「だから?早く用件を言え。お前忙しんだろ?」


 何となくだが、真吾が今どういう状況にいるのか分かっている。


「まぁーな。ちょっとした休憩だからあと10分後にはまた行かなくちゃいけないんだ」


 真吾は実はモデル兼俳優をしている。高校卒業前にスカウトされて、大学に行かずモデルと俳優をしているのだ。


 ここ2,3年で真吾はすっかり有名人になり、真吾と直接会うより、テレビで会うが多いと思う。


「で?」


「有泉からなんか連絡あったか?」


「………」


 なんで、なんで。真吾はこう言う時ばかりにいたいところをついてくるんだ!!


 事情を察したのか、電話の向こうで、うんうんと頷いている。


「あーはいはい。連絡がなかったわけね」


「あぁ……毎日メールしてたのに突然一昨日から来なくなって……」


 そう、俺が疲れたように、無理に笑ってごまかしていた原因はこれである。


 毎日していたメールがパタリと一昨日から来なくなってしまったのだ。


 心配と言うより、怖いという気持ちの方が大きい。


 メールを毎日とかウザかったのだろうか?とか、もう俺の好きじゃなくなったのか?とかいろいろなことが考えられる。


 真吾は俺を励ますように、明るい声で言った。


「まぁ、気にするなよ。そのうち来るさ」


「そうだよな…もしかしたら、電波がつながらないところにいるかもしれないしな……」


 ぽつぽつっと答える俺に、キレたのか真吾は怒ったように言葉を吐き捨てる。


「そうじゃなくて…あぁもう!!!じゃあ、健斗頑張れよっっ!!」


「はぁ?」


 ブチッ!…ツーツー


 ……今のはなにげに逆切れされたのでしょうか?


 まぁっ真吾が忙しいのは分かっているから、あまり責めたりはしないが。


 電話が終わったので、職員室に戻ろうと階段を降りる。


 一段、また一段と……。ゆっくりゆっくり下って行く。





「っっ!!」


 誰かとぶつかった。ボーっとしながら歩いていた俺が悪い。


 謝ろうと顔をあげた時だ。


「えぇ?」


 俺は目を疑った。


 だってここにはいないはずの人が此処にいるのだから。絶対いないはずの人がどうして……学校に?


 目を擦ってみても、前にいる人物は変わらない。夢かと思って頬を抓ってみるけど、ちゃんと痛くって……。


「嘘だろ?」


 その言葉に彼は笑みをこぼす。


「嘘じゃないよ?というか、久しぶりに会ったのにその顔は嬉しくない」


 俺の前にいる人物は、わざとムスッとした顔を見せる。


「……俊也?」


「うん」


「本当に?」


「本物だよ?っていうか、ここまで見てまだ信じられないわけ?」


 えぇ?えぇ?


 なんで俊也が日本にって言うか、俺の職場にいるんだ?


 頭の中がパニック状態で……。


「もう……何泣いてるの?」


 俊也が俺の頬を落ちた涙を拭う。


 いつの間にか涙がぽろぽろと出てきた。


 俊也がフランスに行く時は一度も出なかった涙が噴水のように流れて俺の頬を伝う。


「ただいま、健斗。帰ってきたよ」


 ギュッと俊也は俺に抱きつく。


 温かい……。


 俊也の温度を感じて、まだまだ涙は止まらない。


 帰ってきたんだ。俊也が帰ってきたんだ……っ。そう思うとすんなり言葉が出てきた。


「お帰り、俊也」


 嬉しかったのか俊也は、俺の頬にキスをしたが、俺は無理矢理俊也を引き剥がす。


 まだ駄目なんだ。俺はまだ俊也に答えていないのだから……。


 深呼吸をして、落ち着こうとするが、落ち着けるわけもなく。


 5年間ずっと言いたかった言葉を俺は口にする。


 ずっとずっと思い続けた俊也への気持ちを……いま───。


 

「好きだ」



 一度言ってしまえば、もう止まらない。


「この6年間、俊也の気持ちが消えることなんて一度もなかった……っっ」


 溢れてくる。俺の想い。


 6年分の想いを俊也に伝えたい。


「ありがとう。健斗。僕も大好きだよっっ!!」


 どちらともなく、抱きつき、見つめ合って、静かに静かに口接けを交わした。


 ここが学校っていうことも忘れて……。


 




  「好き」っていう言葉


 それは───


  とてもストレートな愛の言葉


  たった二文字なのにとても大切な愛の言葉


  何度も何度も言いたくなる愛の言葉









  ────好きだよ、俊也……。






  END



 

 あとがき

 

 こんにちは、彩瀬姫です。

「好き」と言ってもいいですか?

 最終話でした。

 初投稿作品ということで、10話以内の短い連載から始めようかなと思っていたのですが、あれも書きたいこれも書きたいと思ったら、いつのまにか30話までなっていました。

 文章がおかしくなっているところがたくさんあると思います。

 文章力がないもので、すみません。

 最終話というものを初めて書きましたので、どういう風にしようかとすごく迷いました。

 どうだったでしょうか?

 コメントを頂けると嬉しいです!!

 曖昧な点がいくつかあるので、番外編で書いていければなと思います。

 これからも小説を書いていくので、よかったら読んでください。

 読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。


 2009年5月26日  彩瀬姫

             

 

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