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29.「好き」と言ってもいいですか?

「外国………?」


 俺は呆然と呟いていた。


 俊也が外国に引っ越し……?


「いつ?」


 溢れだしそうな気持ちを抑えて、冷静に訊いた。


 いつ?いつ引っ越すのか?


 冷静と言っても、心の中で混乱しっぱなしだった。


「明後日」


 その言葉は俺に絶望を与える。


 あさって……。


「なんでそんなに急なんだ!?なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!!」


 冷静と言う2文字がすっかり何処かに飛んで、俊也を責めた。


 どうしてそんなに大事なことを言ってくれなかったんだ!? 俺のこと好きって言ったのにどうして……?


 そう訴えると、俊也の目から涙がすーっと頬を伝った。


「好きだったから…。健斗のことが好きだから伝えられなかったんだよ!!」


 ポロポロと大粒の涙が落ちてくる俊也の顔を見ていられなくて、俺は俊也をもう一度抱き返した。


 俊也の体はブルブルと震えていた。


 どうしてだろう。どうして俺はこんなにも鈍いんだろう。


 俺は無防備に俊也を傷つけてしまった。


 辛かったはずだ。外国に行くなんて簡単に告げられるはずない。俺が俊也の立場だったら絶対言えないと思う。


 それでも言ってほしいと思ったのは、俺が俊也のことが好きだからだ。


 ───好きだから言いたい。


 ───好きだから言えない。


 俺達の中で二つの気持ちが入り混じっている。


 根本的なところは同じ気持ちなのに……。


「ごめん。俊也……」


 俺が謝ると、俊也は顔をあげて笑顔を見せた。


「大丈夫。僕こそごめんね。実はね。僕の父さんはフランス人と日本人のハーフでね。僕はクウォーターなんだ。小学校に上がるまではフランスで暮らしていたんだ」


 初めて聞いた事実に驚きを隠せない。


「父さんはシェフをしているんだけど、その実力が認められたからフランスに帰ることになったんだ。僕は日本に残るって言ったんだけど、母さんがそのぉ……僕がまた大変な目に遭っちゃいけないから、無理矢理でも連れて行くって言われて……」


 どうしても断れなかったというのだ。


 そうだよな。大変な目に遭った子供を一人で残して外国に行くなんてできないよな……。


 どうしようもない事実。


「また会えるよな?」


「う……ん」


 元気のない返事を聞いて俺は不安になる。


「いつまた日本に帰ってくるんだ?」


「2年ぐらいか……それか、もっとだと思う……」


 2年。もしかしたら3年5年10年。何年も帰ってこれない。


 寂しいとか苦しいとかそういう問題じゃなくて、何もかもの感情を無にしそう。


 嫌な気持ちを消したくて、無理矢理明るい話題にする。


「俊也が帰ってきたとき、俺の気持ちを言ってもいいのか?」


 今が駄目ならそういうことだろう。


 だが、俊也はとても冷たい言葉で言い返した。


「僕が日本に帰ってきた時に同じ気持ちだったらね……」


 その言葉に俺はとてつもなく淋しさを覚えた。


 まだ俊也は俺のことを信じてくれないのか、と。


 ──それだったら、俊也が俺を信じてくれるようにするまでだ。


「変わらない。俺の気持ちは絶対変わらない。俊也と離れていても変わらないからっ!!」


 だって今、この時、この瞬間、俊也のことが好きだから───。


 俊也を好きって言う気持ちが変わるっていうことを考えていない。考えることもできない。


「分かった。健斗を信じるから……」


 俊也は大きく深呼吸をして俺の耳元で囁く。


「僕がこの町に帰ってきたとき、健斗の気持ちを教えて?」


 俺は大きく頷き。


 俊也の体も、そして俊也の心も強く強く抱きしめる。



 俊也が日本に帰ってきたら───



    「好き」と言ってもいいですか?



 俺はずっと俊也の帰りを待っているから……。



 

次回、最終話です!!

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