27.告白
「俊也」
優しく名前を呼ぶと、俊也は騒いでいた声をピタリと止めた。
ぶるぶると震えていた体も少しずつながらも、治まっている気がする。
「信じてくれた?」
問いかけても俊也は口を閉じたまま、何も言わない。
「俊也。さっきも言ったが俺はお前を探しに来たんだ」
「……」
返事をしなくてもいいと、俺は話し続ける。
「なんでここに俺が来たのか知っているか?」
「………」
「俊也が心配だったからだ。そうじゃなかったら授業をほったらかしにして、ここに来るわけがない」
俊也知っているか?
俺がどんなに俊也のことを大事に想っているか。
心配していたか。必至になったか。
そして───
どんなに俊也のことが好きか……。
俊也は知っているか?
だから伝えたい。俺の気持ちを……今、伝えてもいいだろうか?
「俊也。聞いてくれ」
俺は緊張しながらも、俊也を優しく抱きしめながら呟く。
「俊也と会ったのは、もう1年も前だ。初めて二人で会話した日のこと覚えているか?」
多分、俊也は覚えていない。
「俊也が消しゴムを落とした時に……俺が拾ってあげたときの会話が最初だ」
「………」
「その後はさぁ、平井と真吾との縁で仲良くなったな。おれ、本当に俊也と仲良くなれて嬉しかった。だって、俺その時から俊也と話したいと思ってたんだ」
恥ずかしいこと言ってる。
自分がこんなにも話すのは親友の真吾以来だ。
ここまでいえば、俊也も俺の気持ちに気付いているかもしれない。
それでも俺は話し続ける。
しっかりと自分の言葉で気持ちを言わなければ、ちゃんとした気持ちは絶対に伝わらないから……。
「だから、その……ずっと前から俺……」
告白をしようとした時だ。
「知っていたよ」
その言葉に驚きを隠せず、抱きしめていた手を離した。
やっと俊也は口を開いてくれたという嬉しい気持ちと、何で知っているんだという恥ずかしい気持ち。
「だって、健斗。僕のこと、よく見てたでしょ?」
その言葉で俺は全身汗だくになった気がする。
俊也が俺の目線に気付いていたなんて知らなかった。俺自身無意識に俊也を見ていたのに……。
「ねぇ?健斗は知っている?」
「えぇ?」
今度は俊也が俺に問いかける。
「僕の方が、健斗をずっと見ていたってこと」
「……えぇ?」
「僕が健斗の視線に気付いたのは、僕自身が健斗をよく見ていたからなんだよ?」
・・・・・・。
頭が一瞬真っ白になった。
俊也が俺のことを見ていた?
俺は恐る恐る質問してみる。
「いつから?」
「健斗が僕の消しゴムを拾ってくれた時から……」
俊也は覚えていてくれた。
あんなに小さな出来事を、俊也が覚えていてくれた。
その事実にとても嬉しくて、舞い上がってしまいそうになる。
「タツから聞いたと思うけど、僕その輪姦されたことがあって。男の人のことを信じられなくなっていた。タツは僕を信じることの大切さを教えてくれた一番初めの男。男性恐怖症は治らなくてもタツだけは話せた」
舞い上がってたのはほんの一瞬。
俊也は自分の過去のことを苦しそうながらも、話し始めた。
「だからタツのことを好きになったんだね。宮沢君と付き合っているの聞いた時はショックだった。普通だったら宮沢君のことを嫌いになる……僕の好きな人を奪ったって。でも、宮沢君は笑顔で僕に話しかけてくれた。タツ以外の友達ができたんだ。そんな宮沢君を嫌いになるなんて、僕にはできなかった」
俊也がこんなにも話すのは、俺達が失恋した時に観覧車に乗った時以来。
俺は俊也の話を真剣に聞いていた。
「そんなときに、僕に優しくしてくれたのは健斗だった」
俺の名前を呼ばれた瞬間、カラダがぴくっと反応した。
「何の接点もない人から、話しかけてもらったことなかったから本当に驚いた」
俊也にとってあの小さな出来事が心に残っていた。
俺だけじゃなかったんだ。
「その時からずっと健斗のことしか見てなかった。恋とは違ったけど」
最後の言葉に胸に矢が刺さったような痛みを感じた。
恋とは違う。そうはっきり言われてしまった。
喜んだりショックを受けたり、俺の気持ちがボロボロになりそうだ。
失恋でもいい。早くこの気持ちを言ってしまいたい。
「俊也…俺は」
「健斗」
またも俺の告白は、俊也の言葉で閉ざされてしまう。
「前、二人で観覧車で話したよね?あの時のこと覚えている?」
俺はうんと頷いた。
「その時に、僕、気付いたんだ。最初は恋じゃないと思ったけど、やっぱり恋だったんだって」
俺の鼓動がどんどん猛スピードで早くなる。
「ドキドキしていた。胸も苦しくなった。ずっと話していたい。この気持ちは紛れもなく、恋だって……」
それって、もしかして……
「僕、健斗のこと好きだよ……」