26.言いたい
はぁ……はぁ……。
俺が向かっているのはデカザクラのある公園だ。
そこにいるか分からない……分からないけど、もう俺が知っている場所はそこにしかない。
デカザクラの公園に賭けるしかなかった。
走って5分。
全力疾走で走ったから、思ったより速く着いた。
「俊也?」
公園に着いた途端、思わず名前を呼んでしまった。 いるかもわからないのに…呼びたくなってしまった。
早く、早く俊也に会いたかった。
この気持ちを言ってしまいたい。
「健斗?」
不意に俺を呼んだ声が聞こえた。 パッと周りを見渡すが、俊也の影はない。
何だ空耳かぁ……と肩を落とした。俊也に会いたいがために空耳まで聞こえるなんて、情けない……。
少し落ち着こうと、ベンチに腰を掛ける。
此処に来たのは半年前だったろうか……。一緒にした花見。笑いあって、ふざけ合って。
「俊也……」
俊也のことを想うだけで、名前を呼びたくなる。
愛しい俺の好きな人の名前。
「どうしてここに健斗がいるの?」
呆然と呟かれた声は、
「俊也?」
目の前に目を見開いた俊也。
「どうして健斗が……授業中なのに」
「それは俊也も同じだろ?」
「………」
俊也は下を向いて、口を閉じてしまった。
言いたい。言いたい。早く自分の気持ちを言ってしまいたい。そんな衝動に駆られる。
「一体何があったんだ?」
「………」
口を閉ざしたまま、下を向いて俺の方を見ようとしない。
何があったのだろか?平井と話していたのがいけなかったのか?平井と話していた俺に嫉妬したのか?
それともまだ、平井のことが好きだとか……。
暗い方向に頭が行くのは当然で、今この状況をどうすればいいのか分からない。
「俺が何か悪いこと言ったのか?それだったら謝る」
「そうじゃない……」
ぼそっと俊也は呟く。だが、またすぐに口を閉じてしまう。
「言ってくれ。何があったのか言ってくれないと……」
こんな状況で、自分の気持ちを先走ってしまいそうで怖い。
「別に何にもないよ?」
「じゃあ、なんでここにいるんだ?学校飛び出して」
「それは、健斗も一緒じゃん。なんでここに健斗がいるの?」
「お前を探しに来たからだよ」
その言葉に反応して、俊也はゆっくりと顔をあげる。背は同じぐらいだからちょうど視線があう。
「嘘っ」
「本当だ」
「嘘っ嘘っ嘘っ」
俊也は何かに侵されるようにその言葉は連呼する。信じられないと、首をぶんぶんと降りながら、俺の言葉を否定する。
「大丈夫。本当だから……」
「嘘っ。健斗、嘘吐かないで……っ」
泣きそうな目で俺を見ている。
そんな俊也を見てられなくて、俊也に近づいて抱きしめてみる。落ち着いてと優しく背中を撫でると、俊也の体がブルっと震えた。
───俊也は一体、何に怯えている?
あの男のことを思い出して震えて怯えてるのか?
それとも、俺が怖くて怯えてるのか?
「俊也。俺を信じてくれ」
唯今はその言葉しか思いつかなかった。
信じてほしい。俺を信じてほしい。
「信じて……」
その言葉を俊也の耳元で、何度も何度も囁く。
そのまま俺は、俊也傷つかないように、優しく、優しく抱きしめていた。